0002-03
「森が泣いているわ。ルュール」
「そうだね。でも、僕たちにはどうすることもできない。自然の摂理なんだよ。アーリュ」
二体の竜が洞窟の中で話していた。それは、先程浄化された朽ちた竜、ルュールとその番のアーリュだった。
「どれもこれも、人のせいよ。人は森の声に耳を傾けない。自分勝手なのよ。そして、私たちをこんな所に追い込んだ」
深緑のような鱗の竜であるアーリュは、ルュールに言う。
二体の竜の姿がゆっくりと暗闇に包まれていく。ここで、この話は終わりだと言うように。
※※※
次に暗闇が晴れたときには、ルュールと呼ばれていた竜しかいなかった。
自身の翼で空を駈けていた。
「アーリュ?どこだい?」
焦ったように、アーリュを探しているようだった。
「アーリュ!」
「ごめ‥‥んな‥‥‥さ‥い‥‥‥‥‥‥約‥‥束‥‥‥まも‥‥‥な‥‥か‥‥‥‥‥‥た」
そこには、竜鱗が所々剥げ肉を切られて倒れているアーリュの姿だった。
竜と竜がぶつかったのならばこのような傷では済まされない。敗者は勝者によって喰われるのが常だからだ。
なら、犯人は──
「──────⁉─────!」
そうヒトである。何十人ものヒトがこちらを見た。その目には憎悪が宿っていた。そんな、数十もの瞳にたじろいたが直ぐに理解した。
コイツらがアーリュをこのようにしたのだと。
「貴様らっ。よくもっ」
ヒトの言葉は分からないが、何となく雰囲気で分かる。ルュール自身も倒そうとしているのだと。
ルュールの口からブレスが吐かれる。ブレスの正体は、超高エネルギー体にまで昇華させた魔力である。それを、ヒトに吐きかけた。
極光がヒトを襲う。
怒りによって、威力も考えずに放った為に辺りの地が爆破した。大きなクレーターになったのが感覚でわかる。
しかし、土煙が晴れたときにクレーターの中心には生きたヒトがいた。
全てのヒトが怪我一つもしていない。その目の前には黄色く輝く障壁が張られていた。これで、その脆弱な身を守ったのだろう。
素早く動き、クレーターの中心に居るヒトを叩き潰そうと前足を叩き落とした。
ズドン、という音と共に障壁が砕けた。しかし、砕けただけであった。
「くそっ。なんて堅さだ」
ルュールは焦っていた。アーリュの命は風前の灯火である。
「死ねっ」
もう一度足を叩き落とした。次は障壁を張れずに叩きつぶれた。前足が赤く染まる。少しだけ足に痛みが走ったがそんなことはどうでもよかった。
急いでアーリュの所に戻った。
「アーリュ。戻ってきたよ。ほら、目を開けてごらんよ。アーリュ」
戻ってきたときには完全に事切れていた。もう、目を開けることもできない。その巨体からは大量の血が流れ出ており辺りを黒く染めていた。
「何故!何故だ!何故、アーリュは死ななければならなかった!」
空に向かって吠える。世界の理不尽さを恨んだ。そして、アーリュを奪ったヒトを恨んだ。
全てが憎い。
アーリュの居ない世界など、面白みも何もなかった。せっかくのルュールにとっての大切な宝物であったのに。
「憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、ニクイ、ニクイ、ニクイ、ニクイ、ニクイ、ニクイ!シネ!スベテダ」
ココロが黒く染まっていく。
そして、バタリと倒れた。ブツブツと恨み言を吐きながら。足から少しずつ緑色ではなく黒く染まっている。
ルュールは知っている。毒であると。
竜殺しの赤い花。竜をも殺す毒を持つ花である。そして、先程ヒトを叩き潰した時に受けた剣に塗られていたのだろう。ゆっくりと意識が朦朧としていく。
そんな中でも忘れていなかった。
自分と大切な大切な宝物であるアーリュを殺したのは、ヒトであると。そして、ソレラスベテニフクシュウスルト。