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竜の親、人の子  作者: 暁月夜 詩音
第一章 始まりや出会い
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 激しい地響きが辺りを轟かす。砂煙が穴の中へと入ってきた。


「やばい。見つかったか!もうダメだ」

「何を悲観している?」

 ヨイヅキは穴の外へと出ようと立った。それを二人が止めようとしている。


「あんたには分からないんだよ!アイツは規格外だっ」

「それで、逃げるのか?昔の人間は規格外の化け物を狩ることを厭わなかったのに」



 その言葉には嘲りが入っていた。二人が押し黙る。寝かされている一人も悔しそうに顔を歪めている。


「見るなら全てを見届けろ。その勇気がないなら、なにも見るな」

 振り払いヨイヅキは出ていく。




 目の前には、朽ちた竜がいた。


 鱗は剥げ、肉は腐り始めている。ただ、人間に復讐を遂げようと辺りの魔力を吸い込み自身の姿を保っている。


 朽ちた竜が通ったであろう場所の植物は全て枯れていた。魔力を吸いとられて、だ。



「俺も一歩間違えればアレになっていたんだろうな」

 誰にも聞こえないように呟くと、杖を強く握りしめた。




「ゴロ‥‥‥ズ。ニ‥‥‥ク‥‥キ、ヒ‥ト‥‥‥ヲ」

 只の人が聴けば、朽ちた竜は唸っているようにしか聞こえないだろう。ただ、竜には竜の言語がある。


 だからこそ、ヨイヅキには分かった。どれだけ人が憎いのか。



「親を殺され、友を奪われ、全てを憎んだ憐れな竜よ。我らの同胞は空で待っている。呪われた生を捨て、空へと飛び出さぬか?」

 竜の言語を人が理解できない。しかし、人の言語を理解できる竜はいる。ヨイヅキのようにだ。



「アーリュ、ヲ‥‥‥コ‥ロシ‥‥‥タ‥‥‥フク‥‥シュ‥‥‥ウ‥‥‥‥‥‥‥ル‥‥」

 ヨイヅキの言葉は届かなかった。恐らくアーリュと呼ばれる最愛を殺されたのだろう。その復讐を遂げようとしているのだ。



 長い間、骸は見向きもされずに腐り、朽ちていった。魂すらも傷付いていた。それの修復を行っていたのだろう。長いときのなかで濃厚な悪意だけが、その全身を満たしていったのだろう。



「仕方がない、か」

 目の前の竜は、ヨイヅキに直ぐに攻撃しなかった。それは朽ちたものの竜の本能が教えたのだろう。


 目の前の生き物は竜であると。



 だが攻撃を始めた。前足がゆっくりとヨイヅキを狙って突き出された。動きは随分とゆっくりしているが、触れた部分は瞬時に朽ちていくだろう。


 現に、避けて朽ちた竜の前足が着いた部分からは不敗臭が漂い始めた。



「悪いな。永い時が流れてしまった。淘汰されたのだよ。人によって竜は。だが、必ず蘇る。その時期を私たちは狙っている。何十年経とうが、何千年と経とうが。限りの無い命を持つ我ら竜は長い目で見るのだよ。世界を」


「だが、お前はやり過ぎた。長い時の中で憎むことしか出来なかったことが罪。本当ならもっと別の感情も抱けたのだから」


 朽ちた竜の攻撃は全て避けていく。少しずつ速度が上がっていくものの、避けられない程ではない。




「我は、影と茨の竜!今、呪われし同胞の御霊を浄化する」


 ヨイヅキの足元と、朽ちた竜の足元に魔方陣が顕れる。ヨイヅキの足元には白い線の魔方陣が、朽ちた竜には黒い線の魔方陣が。


「影は常に光と共に。光在るところに、影は現れ、影在るところに、光は射す。陰は陰へと、陽は陽へと帰還せよ。その呪いは御霊から乖離し浄化される。御霊は空へと駆けよ!」


 ゆっくりと、魔方陣の色が移り変わっていく。


 ヨイヅキの魔方陣は黒く染まっていき、朽ちた竜の魔方陣は白い輝きを取り戻していく。



 朽ちた竜のその身は、元通りに戻っていく。剥げた鱗は、緑の鱗へと生え変わっていく。腐り落ちた眼球は、元の翡翠色の眼球へと。翼は空を駆ける為の大きな翼に戻っていた。



 元通りの竜に戻ったときに、竜は翼で空を打ち天空へと駆け上っていった。



 フラリとヨイヅキが崩れる。なんとか、膝で立っているが息は荒く顔も蒼白である。


「ぐうっ」


 なぜなら、先程の竜の生きざまを追想しているのだ。呪われた、その生を。

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