0001-06
チリンチリンと心地よい鈴の音が扉を開けると鳴る。
落ち着いた雰囲気の空間が中には広がっていた。そこは、個室に分けられており人目を気にせずに食事ができることでそこそこ有名である。
「ようこそ。春風の旅亭へ。何名様で?」
「三名だ」
「では、席にご案内しましょう」
ゆったりとした異国の衣服に身を包んだ年老いた女性が案内してくれた。
「ご注文が決まった頃に伺います」
静かにそう言うと、扉を閉めて出ていった。
「ねぇねぇ、何にする?私は、各種焼き串を頼む!あと、お酒!」
真っ先にメニューも見ずにシュトラウスがヨイヅキに言う。リサーチ済みのようだ。
「カーミレはどうする?何か食べたいものあるか?」
とても高い画力によって書かれたメニューの絵を見ながらどれにしようか迷っている。
だが決めたのか、これにするとメニューを指差した。
「なら、それでいいか。俺も決めたぞ」
するりと扉が空いて、先程席に誘導した女性が顔をだした。
「ご注文はお決まりで?」
ジャストタイミングで注文を聞きに来た。まるで測ったかのように。少し、驚きつつもメニューを伝えていく。
「焼き魚御膳一つ、鍋焼きうどん一つ、各種焼き串の盛り合わせとそれにあう酒を」
「わかりました。では少々お待ち下さい」
なにも書かずに言ったが覚えているのだろうか。とても不思議である。
「カーミレ、すっかり元気になったな。昨日の夜とは全く違う」
「うん。もう、げんきだよ!」
にこにこと笑いかけながら言い返される。だが、昨日の夜は両耳を切り落とされ死にかけていたのだ。恐るべき回復能力である。
「ねぇ、神殿での祝福はいつするの?明後日に一応集められるみたいだけど」
「なら、その日だな」
神殿で住民として登録してもらう時に、祝福を受けるのでそう呼ぶ人もいる。毎月毎月、神殿から不定期で祝福を行う前日に発表される。
「しゅくふくってなに?」
「あれ、言ってないの?もう、神殿に行ってね、ここに住むための儀式みたいなのをするんだ。まぁ、面白くはないがしないといけないんだよ」
シュトラウスが答えてくれた。少しの間考えてへぇ、とだけ言った。理解は余りできなかったようだ。
「まぁ、必要なことなんだ」
ヨイヅキが物凄く細かく大雑把に答えた。間違ってはないが、あってもいないので目の前でんー、なんか違うけどなぁみたいな顔をされた。カーミレは理解できたようだ。
「お料理、お持ちしました。まず焼き魚御膳です」
かなり大きな尾頭付きの魚と米とスープに和え物とかなりの量であった。予想より多かったのか顔がひきつっている。
「次に、各種焼き串の盛り合わせです。お酒は米酒を用意しました」
「おぉ、」
シュトラウスの感嘆が聞こえた。焼き串は色々な種類があった。定番のクックル鳥から野菜、茹でた卵も串に刺さっていた。
「最後に鍋焼きうどんです」
持ってきたのは一人用の小さな鍋にグツグツと煮たっているうどんだった。
一昔前に、リュウマと呼ばれる料理人が広めた料理らしい。リュウマが言うにはなんでもニホン料理なるものらしい。
「では、失礼します」
すぅ、と扉を閉めて女性は出ていった。
「美味しいそうだね!」
「あぁ、だが量が」
「食べていいの?」
三者三様の意見だった。
「なら食べるか」
「うん!」
こうして、夕飯兼昼飯を食べたのだった。
※※※
夕飯も食べ終え、会計を済ませた。ちなみに金額はギリギリ金貨いかない額だった。大奮発である。
食べ終えて疲れたのか、カーミレはヨイヅキの背中で寝付いていた。とても幸せそうである。
シュトラウスは少しだけ酔っていたものの自分で帰れる!と言い張り帰ったいった。
「こんばんは。影と茨の魔術師様とその娘様」
黒い闇の影から赤い瞳の黒兎が現れた。
「黒兎か?今回は何のようだ?」
「えぇ。明日の昼前からオシゴトですよ?また魔獣の討伐と三人の魔術師の救済です」
それでは、と闇の中に掻き消えるように見えなくなった。先程まで黒兎が立っていた場所には地図が落ちていた。
「たっく、報告が一方的なんだよ」
地図を拾いながら一言愚痴り、ゆっくりと歩きながらヨイヅキは家を目指して歩いていく。
0001話、完結です。次回から0002話に移ります。
キャラクター紹介です。
ヨイヅキ・ソーレイド
性別:男
種族:竜人
影と茨の竜であり、影と茨の魔術師でもある。人が竜になるのではなく、竜が人に化けた姿である。
黒い髪に瞳で短髪から、細長い耳が出ている。
カーミレ・ソーレイド
性別:女
種族:半竜人
ヨイヅキにより延命のため竜人へと変化させられた少女。
髪が短く、ヨイヅキに男と間違えられる程。しかし、洗われるとかなりの美少女であった。
金の瞳に藍色の髪から、ヨイヅキよりも少しだけ短い耳が出ている。
シュトラウス
性別:女
種族:獣人(狐人)
いつも食事をヨイヅキの家に食べに来る女性。あまり、詳しいことは教えられてない。
茶色の髪と瞳。狐の耳がはえている。