0009-04
さて、模擬戦を終えた後は特に何もなかった。進んだ事と言えば、グレンゲとコウリョが領主主催のパーティーに来るのを決めた、ぐらいである。
「どうだ? 最近は新しい十刻災厄も現れていねぇし、何かと日常、って感じがするな!」
「いや。違うみたいだよ。グレンゲさん。十刻災厄の石板の肆番目が輝いていて、伍番目が砕けてるんだ」
グレンゲの言葉を否定するように、シュトラウスが告げた。どうして知っているのか、と言うような顔をするグレンゲ。
「どうして知っているのか、って顔をしているね。理由は簡単だよ。それは、私がナルトリア大神殿長だからだよっ」
「大神殿長だからだよっ」
「いや、だって。神殿長は狐の嬢ちゃんだろ? こんな生まれたての竜じゃ──何笑ってやがる、アホ」
「くふっ、そっか。グレンゲは聞いてなかったもんね。ごめんごめん。目の前にいる彼女こそ、グレンゲの知っているシュトラウスだよ。蘇生させたんだ」
笑いながら軽くそう言った。言っていることは、かなり重たい内容であったが。
「そうか。嬢ちゃんも苦労してんだな。ってか、誰だよ。伍之刻討伐したの」
「ワタシ」
軽ーく流して、話を変えた。あまり触れても良い話ではないと思ったのだろう。だが、その問いの答えもかなりの早さで返ってきた。
「成程、スイハか」
「姐さんっ!」
青紫の鱗を持った竜が庭に降り立った。直ぐに人へと変化してヨイヅキ達の方へと歩き始める。
その姿に、ヨイヅキとグレンゲが驚いていた。コウリョは、あまり歓心がなかったのかそのままであったが。
「伍之刻《隠者》、老人のような姿だったわよ。まぁ、霧の中に迷い混ませてズタズタに切り裂いてあげたけどね」
うふふ、と笑いながらにしては話していることはえげつない。霧と断の古竜にしかできない、蹂躙劇であったのだろう。
「それで、姐さん。どうしてここに?」
「あぁ、それはね。あなた達がこの前誘ったでしょう? だからたまには来てみようかなぁ、って思ったから。ふぁ、眠。ヨイヅキ、部屋借りるね~」
そのままどこかの部屋に入っていったのだろう。そんなスイハを見送って、話が進んでいく。
「って事は、肆之刻って。もしかして、」
「えぇ。そのもしかして、ですよ。焔と破の古竜サマ。緑と陽の古竜サマからの援助依頼です。肆之刻と遭遇、戦闘中であると。全ての攻撃が決定打にならず援助を求めているとのことです」
グレンゲの影から黒兎が現れた。おなじみの情報屋、黒兎である。ついでに、リョクハからの援助依頼である。
どうやら、肆之刻はリョクハと戦闘中らしい、運の悪い事に、リョクハにはヨイヅキ以上に攻撃力がない。得意なのは後方での援助である。
古竜と言えども、特異分野が違えば倒せないのだ。ちなみにコウリョも一人で十刻災厄は倒せない。回復特化だからである。
「どうする。相手は十刻災厄だぞ?」
「俺と影と茨とアホの三人で行けば良いだろ? 他の奴等だけでも十分に強ぇしな。なんてったって、十刻災厄に止めを指した剣鬼に、神殿長に影と茨の娘だろ? それに、姐さんもいるし」
「そうだな。留守番しててくれるか?」
「もちろんなのじゃ」
「ちゃーんと、守っとくからね。さくっと終わらせて戻ってきてね」
「カーミレ、良い子にしてるっ!」
「そうか。なら、リョクハの所に影渡するぞ? いいな?」
「おっけーだよ。ヨイ君」
「久しぶりに腕が鳴るってもんよっ!」