0009-02
昨日の夜は、凄まじく騒がしかった。グレンゲとシュトラウスはケロッとしている。壺丸々を二人で飲み干したのに、だ。
逆にアズサは強い二日酔いで、気持ち悪そうにしている。臭いだけでやられている。
決して、アズサが酒に弱い訳ではない。ヨイヅキ、は比べ物にならないほど弱いので比較にはならないがシュトラウスよりも弱い、かなぁ? ぐらいである。
ヨイヅキは、酒壺を見た瞬間他の場所へ逃げているのでアズサのようにはなっていない。
「カーミレ、アズサ、ちょっと来てくれ」
「はーい!」
「どうしたのじゃ? ヨイヅキ殿」
カーミレとアズサが同じ方向から走ってきた。一緒に居たのだろう。コウリョがお詫びとしてか、二日酔いを癒してくれたようだ。足取りはしっかりしている。
「どうしたのじゃ? ヨイヅキ殿」
「あぁ。ちょっと、模擬戦をやろうかと思って」
「久しぶりにやるの?」
「あぁ。そうだ」
嬉しそうにキラキラした顔でカーミレが聞いてくる。最近は何かと忙しくて模擬戦や訓練をやってなかった。だから、嬉しそうなのだろう。
「なら、先にカーミレやりたい!」
意気込むカーミレをなだめながら、ヨイヅキが言葉を続ける。
「いや、カーミレとアズサでやってみてくれ。勝った方が俺と模擬戦しよう」
「わかった!」
「なら、カーミレちゃん。やるのじゃ」
天地煌華を抜刀して逆刃にした。一応、斬れないが当てられたら骨折はするだろう。
カーミレも一度、部屋に戻ってローブと杖を持ってきた。完全な戦闘スタイルである。
家の前のそこそこ広い庭に三人が立った。
「ここは幻想なりて現実に在らず。幻想の死は幻想のまま忘却される」
ヨイヅキの訓練用結界である。この結界の中では、怪我や死すらも無かったことにする魔術。
「二人とも準備はいいか? では、行くぞっ」
「うん!」
「応、なのじゃっ」
カーミレが魔術の詠唱を始める。うねるように魔力が高まっていく。アズサは、そんなカーミレに向かって近づいていく。
「密かに忍び寄る氷。自らの影からその頭を穿て!」
カーミレの魔術の方が早く、アズサの影から氷の槍が突き出てくる、がそれはアズサに当たらなかった。
当たり前である。アズサは特異体質である《魔力反発》を持っているのだ。魔力を伴う攻撃は一切効かないのだ。
「どうしたのじゃ? 妾に魔術が効かないのは分かっておるじゃろう」
「うん。知っているよっ」
アズサの攻撃を前を向いたまま後ろに進み交わした。まるで、事前からそうすると決めていたかのように。
砕かれた氷がカーミレの周りに飛び散り、強い日差しに当てられて、ただの水になる。
「氷は私のお友だち。力を貸してっ!」
アズサの持つⅠ天地煌華がカーミレの首を捉えた時に、カーミレの左手に氷でできた短剣が出来上がる。
「無駄と言ったのじゃっ!」
「そうかなっ?」
氷の短剣を左手で掴み取った。普通なら触れた瞬間に氷の短剣が砕けるのが当たり前である。
だが、アズサの左手は貫かれてしまっていた。そして、天地煌華がカーミレの首に添えられていた。
完全なカーミレの敗けである。
だが、アズサに攻撃を一撃与えられるというだけでも凄まじいことである。アズサが貫かれた左手を見て驚いている。
止まることなく血が傷口から溢れていく。地面にも重力に従って落ちていく血。
「そこまで、アズサの勝ち」
「大丈夫? アズサお姉ちゃん?」
「大丈夫じゃ。これぐらい。着ずにも入らないのじゃ。それよりも、凄いのう。どうやって、妾に魔術を当てたのじゃ?」
ヨイヅキの掛け声と共に緊張した空気が解けた。