0001-05
「お客さん、身繕いましたよぉ」
数十分後、ロリコン扱いした店員が戻ってきた。ちゃんと、四着ずつ一式揃っている。面倒くさがりだが、仕事はきっちりこなすらしい。まだ、カーミレとシュトラウスは服を選んでいた。
「全部貰おう。いくらだ?」
「んー。こんだけですかねぇ?」
さらさらと紙に金額を書いた。そこにはまぁ、そこそこの金額が書かれていた。決して安くはない。だが、物凄く高いわけではない。微妙な塩梅を的確に突いてきた。
「これで、足りるか?」
「もちろんですよぉ。これがお釣りですぅ」
金貨一枚を払い、銀貨三枚をお釣りとして貰った。金額は銀貨七枚だったらしい。
「ヨイヅキ、どう?」
持ってきたのは白い服だった。本当に何もない。真っ白なワンピースだった。
「可愛いぞ」
「えへへ」
照れたようにそして嬉しそうに笑って、くるりと回った。ズボンの裾を踏んで転けそうになるが、ヨイヅキが脇に手を入れて転けるのを防ぐ。
「危ないぞ?」
「うん。ごめんなさい」
「わかればいい。服は選び終わったか?」
「うん!」
さっきまでシュンとしていたのに今度は笑顔で答えた。感情がコロコロ変わっていた。余程楽しいのだろう。
「選び終わったよ。これで、当分は服の心配をしなくて良いはずだよ。会計よろしく」
「はいはい」
十着は軽くあるような量を持っていく。店員が驚いたように目を見開く。少しだけ良いザマだと思った。
「全て、お買い上げで?」
「あぁ」
「なら、こんだけですかねぇ?」
また紙に書いた。さっきの金額よりもさらに三倍はした。金貨二枚と銀貨一枚である。
「高いな」
「その分、しっかりしてますしぃ。長く着れると思いますよぉ?仕立て直しもできますしぃ」
長く着れるなら、そんな値段なのかと一括で払う。それを見ていたシュトラウスがおぉぉ。さすが金持ち!と言っていたが無視だ。
「お買い上げ、ありがとうございまぁす。ちゃんと着てくださいねぇ。それ全部、私の手作りなのでぇ」
まさかの、全てこの店員の手作りであった。ならば、凄まじい量を作ったことになる。しかもあんなグデグデしているのだ。どのくらいの時間がかかったのだろうか。
「そうか。ちゃんと大切に使うさ。なぁ?カーミレ」
「うん!たいせつにつかうね!」
そんなカーミレの姿に癒されたように顔を綻ばせた。この店員があくびか無表情だと思っていたがきちんとした人間の顔もできるのか、と失礼なことを思ったヨイヅキであった。
一旦、家に戻りカーミレは着替えをしに。ヨイヅキは所持金を取りに行った。さすがに、金貨二枚と銀貨八枚の買い物で財布の中は空っぽになったらしい。
「ちぇ、せっかくお金を出して上げて一週間長くたかろうと思ったのに」
一人、家の前で待たされているシュトラウスがそんなことを言ったいた。えげつない。そんなことを考えていたとは。
扉の前でヨイヅキは固まっていた。ちょうど、聞いてしまったのだ。その呟きを。
「何を邪な考えをしている」
「あ、聴いちゃった?」
てへっ、と笑いながら頭を掻いた。目が泳いでいる。ぐっるんぐっるんしている。
ヨイヅキの後ろで着替えたカーミレがシュトラウスを覗いていた。うわぁ、という目をしている。そんな目を当てられて、かなりダメージを食らっている。
「ほら、ご飯を食べに行こう!」
無理矢理に話題を転換した。しかも、手荷物も何も持っていないのでヨイヅキに払って貰おうとしているのが、バレバレである。
「まぁ、良い後できっちり話を聞こうかな?」
「過去のことは置いといて、さ。どこがいい?たまには、春風の旅亭とかどう?」
「はぁ。なら春風の旅亭に行くか」
「やった!」
「わぁーい。うれしいなぁ」
カーミレが空気を読んだ。まだ子供なのに凄い気の使いようである。
もう昼を過ぎて、夕焼けが見え始める頃の時間帯である。服を選んでいただけなのだが、物凄い時間がかかった。全員、かなり空腹なのか旅亭に行くスピードが早かった。
そこそこ歩いたところに、その店はあった。おしゃれな木と漆喰でできた小さな店で壁の一部に蔦が繁っていた。
「ここが、お店なの?」
「そうだよ。ここのご飯が美味しいんだ。ヨイヅキの料理と同じくらいに」
シュトラウスが本心から言っているのか、分からないが誉められたことに少しだけ気を良くしたヨイヅキが扉を開けた。