0008-02
「皆様、ようこそお出でくださいました。給仕のミナです」
給仕服を纏った犬耳の女性がこちらに来た。
「領主様がお待ちです。直ぐに案内します」
テキパキと後ろを振り向いて歩き出した。ヨイヅキは後ろを振り返って見ると、辺りを物珍しげに見ているカーミレの姿があった。
シュトラウスはともかくだが、アズサも一度はこのような場所をみたことがあるのだろう。
「こちらでございます」
奥のずっしりとした扉を開けてもらい、ヨイヅキ達は中に入っていた。
扉の奥には筋肉がムッキムキの男──恐らく領主であろう──と護衛のためなのか一人だけ騎士がいた。
「よく早朝だと言うのに来てくれた。感謝する。ミナも下がっていいぞ」
「はい」
ミナが部屋の外へと出ていくと、領主がゆっくりと話始めた。
「俺は、ゼルフォ・ナルトリア。現領主だ。今回の十刻災厄、参之刻の討伐を感謝する。人生何があるか分からんな。まさか竜と出会えるとは」
「影と茨の古竜。ヨイヅキ・ソーレイドです。単刀直入に聞きます。あなたは竜に対してどのような考えを持っていますか?」
領主であるゼルフォがガハハと笑う。一頻り笑い終わった後にヨイヅキは聞いた。
一瞬、目を細めたゼルフォだがゆっくりと口を動かして話始めた。
「俺、個人の考えだとな。正直言って、人と竜。どちらが正しかったのか……なんてどうでもいい話なんだよ。どうせなら、全員が笑っていて欲しい。だが、そんなのは夢物語だ。現実的でない。だから、俺は竜達と同盟を組みたい」
ゆっくりと語り出したのは、敵対の道ではなく共存の道だった。それでも、ゼルフォは話を続ける。
「最初は嫌がる奴がたくさん居ると思う。悪いが得体の知れない奴らがいきなり押し寄せてくるんだからな。だが、そんなのはどうにでもなる。してみせる」
「だからさ。お前ら竜達はどうしたい?復讐したいか?今までずっと復讐の機会を狙っていたか?」
問いかけるようにゼルフォはヨイヅキを見る。
「復讐?そんなバカらしいことはもう考えてはいません。それに、人に憎しみを持つ竜はもうずっと減っています。今は、若い竜が多い」
「それに、あなた達が友好的な交流を求め続ける限り復讐を狙う竜が居るのなら、古竜の名に懸けて全力で阻止します」
数日前を思い返していた。アズサが里に入っても憎しみの目を籠める竜はほとんどいなかった。
それに人に対して友好的な竜の方が多かった。だからこそ、己の名に懸けて復讐は阻止すると言った。
「そうか。アルフレッス。すまないが、紙とペンを用意してくれないか?」
「わかりました」
直ぐに紙とペンが用意された。用意したのは護衛の男である。割りとなんでもしてくれるようだ。
「ナルトリアの領主である、ゼルフォ・ナルトリアは竜との同盟を組みたい。内容はおいおい考えるとして、どちらかに不利益になることはない平等な条約を交わしたい。どうだろうか?」
「俺自身は構いませんが、他が何と言うか。一度だけ聞いてみても良いですか?」
「かまわないぞ?世界が引っくり返るような物だからな。よく考えてくれ。俺としては、そっちの竜達の真意を聞いてから判断したつもりだ。お前らなら大丈夫だと、な」
そう言って手を目の前に出した。ヨイヅキはその手をしっかりと握った。
その間、他の三人は一言も喋ることができずに筋肉で石のようになっていた。