0005-04
「んはぁ~。よく寝たのじゃ」
昼近くなってからようやくアズサが目を覚ました。
「起きたか。おはよう」
「おはよう!アズサお姉ちゃん」
ちなみに、カーミレはヨイヅキが床で目を覚まして少し経ってから目を覚ました。日常と変わらない、いつもと同じ時間だった。
「おぅ。おはようなのじゃ。ヨイヅキ殿、カーミレ殿」
ボサボサになった髪を手櫛で直しながら答えた。
「改めて自己紹介じゃ。妾は、アズサ・ツキノキ。特異体質《魔力反発》じゃ。故に魔術は使えぬ。得物はそこにある、聖天紅華じゃ」
薄紅と落ち着いた青色の棒を指差しながら言った。得物ということは、剣なのだろう。
自分は自己紹介したからして欲しいなぁ、と言うような雰囲気をだしているアズサ。
「俺は、影と茨の魔術師。ヨイヅキ・ソーレイドだ。種族は人間の先祖帰り。そっちのカーミレもだ。一応、親子だ」
特徴的な耳を見せながら言う。本当は竜人だが言えばどんな対応をとられるか分かったもんじゃない。
また、カーミレに関してもだ。血縁関係など無いがそれは言っていない。
「カーミレはね。カーミレ・ソーレイドって言うの。ヨイヅキの弟子なんだよ!水と影の魔術師だよ!」
カーミレも初依頼を済ませてから水と影の魔術師と名乗れるようになった。
「そうかの。妾はこれから、ヨイヅキ殿達と一緒に居たいのじゃがダメかのぉ?」
「理由はなんだ?」
訝しげにアズサに問う。会ったばかりの人間と一緒に行動を共にしたい等正気の沙汰ではない。
いつ、騙されるか分かったもんじゃないからだ。
もちろん善良な人間もいる。ただ、善良な人間しか居ないわけではないのだ。騙し欲を満たそうとする者も少なからずいる。
しかも、女であるのだ。その危険性は男よりも遥かに危険である。
「理由、かの。恩返しがしたいのじゃ。助けて貰ったこの身。なんとしてでも恩を返したいのじゃ。でなければ、妾のプライドが許さないのじゃ」
そう言うことらしい。プライドの問題らしかった。
「それに、ひ、ひと、一目惚れしたのじゃっ。ヨイヅキ殿に」
きゃぁ、言っちゃったっ!という、顔をしてから直ぐに赤らめた。思い返して恥ずかしくなったらしい。
「そうか」
斜め絵上の出来事にそのようにしか答えられないヨイヅキであった。
「まぁ、今日一日。いや、あと半日か。暇だから何かするか。飯は夜に持ってきてもらうことにして」
ヨイヅキもカーミレも先に朝食は済ませている。そのため、アズサだけが何も食べていない状況である。そんな、アズサに向かってパンを投げる。
見事にキャッチしてそのパンを食べ始めた。そこそこ固いので、ゴリゴリと音が聞こえる。顎の力が強いのだろう。難なく食べ進めていた。
特に何もやることがないので、観光をしていた。と言っても有名な所などこの村には無かった。ただ大きく綺麗な川があったのでそこで涼んでいた。
アズサとカーミレは川に足を浸けて楽しそうに話している。アズサの旅路の話であった。ヨイヅキはあまり興味が無かった。自身も旅をしたこともあるからだ。木の影でうっすらと聞きながら二人を見ていた。
こうして四時間が経った。二人とも肌寒くなってきたからか川から足をあげ日向で今度は喋っていた。
※※※
夜になり、また昨日のように寝たい!とカーミレが言ったが、またも断りきれず三人で寝ることになった。また一睡もできなかったのは言うまでもないだろう。
そして、次の日。ヨイヅキ達は馬車に乗り、ナルトリアに帰って来た。
だが、そこで待ち受けていたのは──