0005-03
アズサ・ツキノキと名乗った女は、そのままサンドイッチを食べ進めていく。
「えーと。アズサさん?はどうしてあんなに魔獣に追われていたんだ?」
「ぬ?あぁ。あれは、妾が一体メスの魔獣を切ったのじゃ。そしたら、みなして襲いかかってきたのじゃ。後、アズサでよいぞ?恩人殿」
思い出しただけでも怖いのか、自分の肩を抱いて震えてみせた。
恐らく、アズサの切ったメスの魔獣がリーダーだったのだろう。それを切ってしまったから周りのオスが興奮して襲ってきたのだろう。
「俺は、ヨイヅキ。ヨイヅキ・ソーレイドだ。そして、隣のがカーミレ・ソーレイド」
「カーミレ・ソーレイドです。アズサお姉ちゃん!」
ヨイヅキに紹介されて、元気よくカーミレが答える。手に持っていたサンドイッチはあと一口程しか残っていなかった。
「お姉ちゃん、か。くふ。嬉しいのぉ」
小さく微笑んでいた。よほど嬉しかったのだろうか。
「なぁ。近くに村があったりしなかったか?町まで戻るのにはもう時間的に無理だから」
「はて?村かのぉ?……あったのじゃ。直ぐそこだから一緒に行かないかの?」
どうやら連れていってくれるらしい。悪人には見えないので、着いて行くことにした。いざとなったら、一撃で仕留めると思いながら、だが。
※※※
「ここじゃ」
そこは定期的に馬車も出ているそこそこ大きな村だった。
「よくぞ、いらっしゃいました。何もない村ですがごゆっくりと」
現れたのは村長なのだろう。旅人が現れたので見に来た、という感じなのだろう。
「あぁ。宿は何処にあるか?あと、ここからナルトリアまでの馬車はあるか?」
「えぇ。どちらともありますよ。宿はこちらです。ですが、申し訳ないが馬車の方は一日待って下さい。先程、丁度馬車が行ってしまって……」
申し訳なさそうに村長が言った。どうやら、ナルトリア行きの馬車は先程出発してしまい、明日一日待たないといけないようだ。
もっとも、ヨイヅキ達の自業自得なので大人しく待つことにする。
ちなみに、ナルトリアというのは、ヨイヅキ達が暮らす町の名前である。そこそこ大きい町である。
「あぁ。分かった。宿に案内してもらってもいいか?」
それだけ言って、村長に案内してもらいその後を追いかけていく。
二日分の部屋を二つ借りることができなかった。そもそも一つしか部屋がないらしく、そこを借りた。
「夜は俺が外で寝るさ。心配するな」
「それは、妾が悪いのぉ。妾が外で寝るのじゃ」
ここで言い争っていた。カーミレは真ん中でオロオロしている。どちらとも自分が外で寝る、と言って聞かないのだ。
「ねぇ、一緒に寝たらダメなの?」
最終的にカーミレの素朴な疑問で終わった。
もはや、一緒に同じ部屋で寝ればいいのじゃないか?という。
「別に構わんが、向かうに悪いだろ?」
「別に妾は良いのじゃが。ヨイヅキ殿に悪いじゃろ?」
カーミレの質問に息ぴったりで答える二人。しかも、言っていることは殆ど同じであった。
「俺は、手を出さないぞ?」
「別に手を出しても構わないんじゃよ?」
くふふ、と笑いながらそう呼び掛けた。本気かどうかは分からないが艶美な笑いかたである。
ヨイヅキは決して手を出さないと心の中で誓った。
※※※
夜が明けた。長い長い夜だった。ヨイヅキは殆ど眠れなかった。
カーミレがヨイヅキとアズサに挟まれて寝たいと言い出して聞かなかった。しまいには、嫌いなの?と上目遣いで聞かれ、しぶしぶどちらとも折れた。
こんなこと誰から教わっ……あ、シュトラウスが犯人か。
後でシュトラウスには仕返しをしようと心に決めたヨイヅキであった。
その後、あまり眠れず結局いつもと同じ時間に起きてしまい、二度寝を床でしていたらしい。
次に起きたら、床の上だった。もっとも、それでも二人は起きていなかったが。
ちなみに、カーミレとアズサは抱き合って眠っていた。




