0001-03
「げっ、てなんだい!げ、って」
ズカズカと入ってきて、ヨイヅキの近くに来た。
と、思ったらそのまま素通りして後ろのキッチンに入っていった。ガチャガチャと音がしたと思ったらまた出てきた。椀と匙を手に持って。
そのままカーミレの前に座った。スープを一口飲む。
「さっすが、ヨイヅキ。ねぇ、そこのパン取って」
「はい、どうぞ」
「ありがとう‥‥‥‥‥‥?誰?」
今の今まで認識していなかった、それに驚いていた。気付いた上で、気が付かないフリをしているのかと思った。
「カーミレ。カーミレ・ソーレイド」
「ソーレイド?まさか、嫁?」
「んな訳、あるか。弟子‥‥‥いや息子だ」
「誰の子?」
ソーレイドは、ヨイヅキの苗字である。それを名乗る子供は家族、ということになる。
初めは、嫁かと聞いてきた。どれだけ若い嫁なのだろうか。歳の差が三桁もあるのだ。
「昨日の夜に助けたんだが──」
「へぇ、じゃ!また食べに来る!」
「いや、来るな」
「やぁだねっ」
ケラケラ笑いながらそのまま扉から出たいった。嵐のように現れて去っていた。
その間、カーミレはどうしたものかととあたふたしていた。
「あの人、だれ?」
「あぁ、シュトラウスだ。狐人族の」
「へぇ、」
すぐに興味を失ってしまったように自分の碗の中の残り少ないスープを飲み干した。
この世界には、三種族が住んでいる。
人間と呼ばれる種族。太古の昔から生きており、今も一番たくさん住んでいる。
そして、獣人と呼ばれる種族。人間と魔獣が混じった種族と呼ばれている。身体能力を持つが、人工は少ない。
最後に、竜人。だが、これは絶滅してしまったとされる。していないのだが。
竜が人の姿をとったとされる、最強とされた種族。他の二種族に排斥されて、絶滅したとされる。
「さて、風呂に入ろうか?」
「うん!」
夜から調整していた風呂に入るらしい。その前に、食べた椀などを水に浸けてカーミレを連れていった。
※※※
「ん?どうした?」
「うんん、何でもない」
ちなみに、カーミレの着替えも今着ている服もヨイヅキの物だったりする。ブカブカだが捲りあげてなんとか着れる状態である。
「ほらほら、さっさと脱げ!」
そう笑いながら、カーミレの服を脱がした。カーミレの抵抗も虚しく、すぐに服が脱げてしまう。
「な、カーミレ。女だったのか」
「う、うん」
ヨイヅキが驚愕した。髪も短いので、ずっと男だと思っていた。
「ちっ、なら。アイツに言い間違えたな。息子じゃなくて、娘だったか」
舌打ちをした時に一瞬、カーミレが震えた。それに気付いて謝った。
「ひろーい」
「だろう。大枚叩いて作ったんだ。自慢の風呂場だ」
風呂場だけかなり広い。走り回れる程の広さである。その為、他の場所は少し狭いのだが。
「こい、洗ってやろう」
「うん!」
もうこの頃には、カーミレは完全になついていた。早いものだ。
「くすぐったいよぉ」
「我慢だ。我慢」
凄まじく汚れていたので、水を掛けると茶色く濁った水が流れた。買い溜めしている石鹸をふんだんに使い洗ってやる。
ついでに、体に怪我や傷が無いかも確認した。
風呂場から楽しそうな声が朝、響いていた。
風呂から上がり、体を冷ましていた。カーミレはのぼせたのか机に体を預けてぐでぇ、としている。
洗ってやると、確かに男ではなく女に見えた。しかも、かなりの美形である。将来有望だ。
ヨイヅキは、やることを考えていた。なにせ、子供を育てたことはない。
まず、神殿で住民として登録してもらう。これは、おおよそ7~9歳までに神殿で祝福してもらう。これをして、晴れて住民となるのだ。
まだまだ、6歳までに死ぬ子供が多いため、7歳から登録ができるのだ。昔からの習わしである。
そして、服なども買いに行かないといけない。何せ、男物で大人のものしかない。さすがにずっと、ブカブカの服を着せるわけにはいかない。
「やることは、たくさんあるな」
そんな、呟きはカーミレには聞こえなかった。
10/31は、ハロウィン。ということで。
「トリック、オア、トリート!お菓子をくれなきゃイタズラするぞっ」
がちゃりと扉を開けた瞬間、尖った黒い帽子に紫のラインの入った黒いローブを着たカーミレが目の前に立っていた。
「あー、えっと?まったく分からないのだが」
「えー、ヨイヅキ知らないの?ハロウィンっていう催しらしいよ。旅人が教えてくれた!」
これまた、不思議な衣装に身を包んだシュトラウスがヨイヅキに語りかける。
どうやらたまたま出会った、旅人にハロウィンと呼ばれる催しを教えてもらい実践してみたのだろう。
「そうか。それで、その姿なのか」
「そー、どう?可愛いでしょ?」
くるりとその場でシュトラウスが回る。このような異国の衣装をどこで買ったのかとても気になる。だが、似合っていた。
「あぁ、似合ってるな」
「カーミレもっ。どう?」
トコトコとヨイヅキに近づいてきてじぃっとこっちを見ている。カーミレはカーミレでとても似合っていた。恐らく昔の魔女と呼ばれる物を模しているのだろう。
本物を見たことあるが、カーミレの方が可愛く思えた。
「とても似合っているぞ。魔女を模した衣装だな?」
「うん!シュトラウスおねぇちゃんが買ってきてくれたの」
「そしてこの催しではね。お菓子をあげるかイタズラされないといけないんだよ。さぁ、ヨイヅキ。お菓子は持ってる?持ってないなら大人しくイタズラされろ!」
「イタズラされろぉ」
シュトラウスはニヤニヤとしていた。持っていないと高を括っているのだろう。カーミレはただ楽しんでいるようだった。
「これで良いか?」
鞄から取り出したのは、何種類かのお菓子が小さく包まれている袋だった。小さなリボンで結ばれている。
「何で、今日に限ってお菓子を持ってるのさっ。せっかくイタズラしようと思ってたのに」
ちぇっ、と言っていたが目はヨイヅキの持っている袋を見ている。
「ほらカーミレ」
ぽふ、とカーミレに小さな袋を渡した。身長的に袋が見えていなかったカーミレが歓声をあげた。
「すごい!かわいい!ありがとうヨイヅキ」
きゃっきゃ、と歓声をあげてヨイヅキに抱きついた。
「ねぇ、ヨイヅキ。私の分は‥‥‥」
「ほら、」
投げ渡したのは箱に入った焼菓子だった。
「うぉっ、危ないな。でも、ありがと」
嬉しそうにはにかみながらそれだけ言った。余程嬉しかったのだろう。特徴的な狐の耳がピコピコ動いていた。
「そ、そうだ。私はもう帰るよ!イタズラしようと思ってたからね!」
そう言うとヨイヅキを家に押し入れて、自分は外に出ていった。
「危なかった。あの時の俺は優秀だった」
実は先程の菓子類は帰り道、歩いている時に見つけたものであった。露店商が売っていたのだが、こういうものが大抵、喜ばれることを知っていたヨイヅキは買って帰ったのだ。
「でも、ハロウィンか。来年も菓子を買ってやろうかな」
小さく呟いて奥の部屋へと進んでいった。