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「密かに忍び寄る氷。自らの影からその頭を穿て!」
ヨイヅキの影から氷が伸びて突き刺さんと飛んで行く。だが、やはり当たらない。
「良くなってきているな。疾っ」
カーミレに向かい黒い茨が飛んで行く。だが、的確に氷の壁を作り防いだ。もっとも、ぶつかっては砕け、砕けは再生していく。
「氷は壁となり、我を守り抜け」
二度目の詠唱。もはや天性の才能であろう。魔法の創造など普通、何時間も掛かるはずだ。
「ふぅ。終わりだ。よく守り抜いたな」
「うん!」
笑顔でこちらを向いた。実は、あの誘拐事件の後、大喧嘩をしたのだ。それはもう、今までに無いほどの。
だが、これでまた互いのことを理解できたかも知れない。
「外に出てみようか」
朝食は模擬戦の前に摂った。また、今日は珍しく何もやることがない。シュトラウスは今日も来なかった。これまた珍しく十日ほど連続で来ていなかった。
ナルトリア大神殿では元気そうにしていたので恐らく大丈夫だとは思うが。だが、明らかに避けられたのは少しショックであったヨイヅキ。
「うん!ローブ、着る?」
「当たり前だろう?外は何があるか分からないからな」
「やった!」
どうやら、最近着ていなかったので着たかったらしい。
数十分と経たない内に準備が終わった。
カーミレは、黒に青色のラインの入ったローブ。ローブには所々に青色のリボンが丁寧に結ばれている。そして、青水晶のネックレスと杖。
ヨイヅキも金の縁取りの黒のローブに黒水晶のネックレス。そして、鈍い銀色の杖を持ってそこそこ大きな鞄を肩から下げていた。
「じゃぁ、出発だな」
「出発!」
ヨイヅキの声に併せてカーミレも同じように声を出した。町をゆっくりと歩きながら外を目指す。
大通りでは、犯罪が増えて治安が少し悪くなってきている、といった類いの世間話が多かった。
たしかに、カーミレは誘拐されかけていたので、納得できる。普通、こんなにも犯罪はおきない。
「ねぇ、鬼ごっこしようよ!」
町中で子供達が遊んでいる鬼ごっこをイメージしているだろうが、カーミレの言う鬼ごっこはかなり過激である。
影渡を駆使して逃げるという物であり。ポンポン直ぐに追わないと一瞬で何処に居るか分からなくなる仕様である。
「するのか?なら、カーミレ逃げろ!」
一、二、三、四、五と数えてからカーミレを追うために木々の作る影に溶け込んだ。
まるで、もぐら叩きのようにパシパシ出ては消え出ては消えとしている。
実は、遊びながら実力と魔力量を増やすという一石三鳥な遊びなのだ。ヨイヅキとカーミレしかできないが。
しかし、それも少し時間が経ってから終わる。影から影へと渡る魔術であるため、少し先の影に潜んでいれば一瞬で捕まえられるのだが、最近遊んでいなかったので少し泳がせてから捕まえた。
「捕まっちゃった!ねぇ、ヨイヅキ。ここってどこ?」
「ん?ここか?」
辺りを見回して冷や汗をかき始める。どこかヨイヅキも分からないのだ。少し羽目を外しすぎた。
実際問題、ヨイヅキだけなら町に戻れるのだ。竜化すればの話だが。
だが、そうすると竜化した姿を見せることになる。しかも、カーミレをおいてけぼりにすることになる。
安全になったからといっても、まだまだ魔獣が現れる場所なのだ。一人にした瞬間、死ぬ。
「誰かっ、誰かっ。助けて欲しいのじゃぁ~」
どうやら、大人しく帰らせてくれないらしい。こちらに向かって不思議な衣装の女性が走って来た。




