05
指先でそっとしゃぼん玉を弾く。ふわりと浮いたそれは、わずかな空間を縫うようにして飛び上がり、やがてどこかへ行ってしまった。
「ヒバリはなにかいってないの?」
「ヒバリ?」
「ほら、いつもポプリの上を飛んでるでしょ?」
ポプリは少し考え込むような顔をした後で、ゆっくり首を振った。
「こんどきいてみる」
そういってしゃぼん玉に息を吹きかけて、いくつか無造作に浮かび上がらせた。
ヒバリはなんて答えるだろうか。
舞い上がるたくさんの泡を見つめながら、ぼんやりそんなことを考える。
『自然の声を聴きなさい』
師匠は生前、口ぐせのようにそういっていた。その言葉の本当の意味を、そしてその声を耳にしたのはつい最近のこと、それもポプリを通してのことだった。声を聴くのと話しかけるのとではまた違うのだけど、ポプリならあるいは──と、そんなことを思う。
声を聴くには、それを受け止めるだけの『耳』がなくてはならない。古来より錬金術師はその耳を得るべく、長きに渡って自然を観察し、記録し、研究してきた。
それでも、ほんのわずかしかわからなかった。
いや、少しもわからなかったというべきだろう。
きっと永劫にわからないのだろう。
でも、今でもわかろうと、耳を得ようと研究を続ける錬金術師もいる。あるいは術そのものを生業として生きているものもいる。わたしはでも、そのどちらにもならなかった。なれなかったのではなく、ならなかった。錬金術はわたしにとって生き方でしかなかった。
だから今は、表向き翻訳家として生計を立てていた。




