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しばらくヒバリを眺めていたポプリは、でもすぐにしゃぼん玉作りに意識を戻し、納得がいくまでなんどもなんども麦藁を咥えては息を吹きかけていた。
それからというものポプリのしゃぼん玉づくりは加速の一途をたどった。昼間は決まってバラの茂みのそばで、夜はもちろんお風呂場で。飽きもせず、本当に毎日毎日。
しゃぼん液もはじめのうちはわたしが作っていたけど、最近では自分で作るようになって、どうすれば一番われにくいものが作れるかというような研究までしはじめている。この前はバラの花を混ぜて、香りつきのものを作っていた。
いったいどこでそんなことを覚えたのかと感心しつつも、そういえば──と自分にも似たような経験があったことを思い出す。
見習い時代、わたしは師匠に隠れてある薬の研究を行っていた。それはエリキサーという、すべての錬金術師の夢ともいうべきしろものだった。不老不死の薬とも称され、その製法は長い間確立されておらず、賢者の石を用いるだとか、東の島国のどこかにそれがあるだとか、伝説めいた話があるのみだった。それでもわたしは毎日研究に没頭した。結局、師匠の生前には完成に到らなかったし、手に入れた後で振り返ってみればつまらないものではあったのだけど、ああしてなにかに夢中になることはとても楽しかった。
今では研究心はおろか、その感情すら湧くことはない。
錬金術師として一人前になった代わりに、わたしはあらゆることに興味を失ってしまったのだ。まわりのことはもちろん、自分自身にさえも。
だから、ポプリがこうして興味を持って楽しむのはいいことだと思う。
実際ポプリは楽しくて仕方ない様子だ。それが証拠に。
「たくさんできたね」
お風呂場は今、泡だらけだった。壁に床にと、しゃぼん玉はわれずにひっつき、しゃぼん玉同士もつながって空間のほとんどを埋めてしまっている。これだけ作ってさぞご満悦かと思ったら、ポプリはなぜか少し浮かない顔をしていた。聞けば、外でする時のように飛んでいかないことが不満らしい。
「風が吹いてないし、湿気も多いからね」
それに、われないよう工夫したためにしゃぼん玉自体が少し重くなっているのも要因のひとつだろう。そういうと、とりさんもおもいよ、と返ってきた。
「ねえ、エル。どうしてとりさんはおそらをとべるの?」
「どうして、か。どうしてだろうね」




