01
「エル、まだ?」
「んー、もう少しかな」
ひとつを手に取り、ためつすがめつ眺める。
「いいにおいだね」
「そうだね」
その爽やかな香りは空気の中に溶け込んで、息を吸うたびに鼻を柔らかくくすぐった。
「おおきいのつくれそう?」
「しゃぼん玉のこと? どうかな。まずはポプリが上手にならないとね」
そういって、わたしは手に取っていた石鹸を木箱に戻した。
石鹸作りはおおよそ一ヶ月、その時間の多くはこうして熟成に費やされる。作業としては水と油と灰汁とを煮て固めるだけだから、それほど難しいものでもない。ただちょっと時間がかかるだけ。以前に作った分が少なくなってきたからと早々に着手したけど、棚にはまだ充分残っていた。
「ポプリ、しゃぼん玉作ろうか?」
「おふろはいるの?」
「そうじゃなくて、外でしゃぼん玉を作るの」
最近のポプリはしゃぼん玉作りに夢中で、お風呂の時間はヒマさえあれば作っている。わたしが遊びで作ったのを気に入ったらしく、自分でも大きいしゃぼん玉を作ろうと毎晩奮闘している。指が小さいから作れるのは泡と変わらないものばかりなのだけど。
でも、これなら。
麗かな陽射しは温かく、草木の緑も鮮やかな光彩を放っていた。風も穏やかに流れて、これならしゃぼん玉がすぐ壊れてしまうこともないだろう。
「きれいなお花」
ポプリが庭の一角を指す。
「なんていうお花なの?」
「バラだよ」
「ばら?」
長いくせっ毛をふわふわ揺らしながら、バラの茂みに駆け寄っていくポプリ。
鼻を近づけたと思うと、今度は琥珀色の瞳を輝かせながらこちらを振り返った。