コンピュータの天才
「はぁはぁはぁ...」
必死で走る。止まったら死ぬ。
コツコツとコンクリートを踏む足音が妙に響いて聞こえてくる。
「久しぶりに外出てこんな事件に遭遇するとかどうなってんだよ...!!!」
だがこうなってしまっては仕方ない。
歩は藁にもすがる思いでスマホから電話をかける。
「頼む...出てくれよ...」
数秒たったあとガチャっと電話から音が聞こえた。
「もしもしー、どうした歩。」
「助かったっ!よく出てくれた。和也!」
電話の相手は親友桜井和也だった。
「どうしたんだよ。こんな時間に。」
「とりあえずパソコン立ち上げてくれ!緊急事態だ!」
「パソコン?ゲームか?」
「事件に巻き込まれた!今ヤバイ能力者に追いかけられてる!」
「...わかった。」
その会話だけで全てが分かったようだ。
流石、話が早くて助かる。
「いつまで鬼ごっこするのかなー?」
歩いていたはずの男はもう既に近くまで来ていた。
歩はまた裏路地を巧みに使い逃げ切ろうとする。
「どこに逃げたって一緒だってのに...無駄な努力が好きだねぇ〜」
ブ-ブ-とマナーモードにしてるスマホが鳴り出した。和也だ。
「もしもし、生きてるか?」
「縁起でもねぇこと言ってんなよ。」
「とりあえず逆算して求めた最初の被害者の所に一般警察は呼んどいた。」
「流石の腕前だな。」
実は桜井和也は中学時代機械科やコンピュータ研究所などからスカウトがかかるくらいの凄腕である。能力こそないが監視カメラのハッキングくらいなら訳ないのだ。
「一つ質問、確かこの裏路地抜けると川だったよな?」
「あぁ、そうだけど。それがどうかしたか?」
「その川沿いに研究所なかったか?」
「あぁ、あるよ。あれだろ?気体や液体を能力に応用できないかってやつ。」
「調べて!その付近に人や住人は?」
「おっけー。少し待ってろ。」
とりあえず川の方に逃げる。後ろから奇妙な笑い声が聞こえてくる。
こんな所であんなイカれた奴に殺されるなんて真っ平ごめんだ!
「大丈夫だ。周辺は研究所しかないし、その辺の研究所は夜は無人だから人はいない。
てか、歩、お前何する気なんだ?」
「おっけー。それだけ分かれば充分だ!ありがとよ!」
「お、おい!あゆ...」ピッ
電話を切って目の前の壁と向き合う。
行き止まりだ。だが歩の目的の場所でもある。
「うまくいってくれよ...」
「やっと観念したかぁ。」
気持ちの悪い笑みで俺の方をみてくる能力者。
「喜べ。異名持ちに殺されるなんて名誉の死じゃねぇの?」
「異名持ち?」
そんな能力あったっけ?
「なんだ?知らねぇのか?なら冥土の土産に教えてやるよ。この世界じゃ、桁外れの能力に目覚めた者には異名ってのが与えられる。日本で10人しか異名持ちはいない。その1人に殺されるんだぜ!感謝しろよ!」
つまり走って追いかけなかったのはその余裕ってところだろうか。
両腕に付けられた金属の爪。
その武器ごと体を纏う炎。
その異名は
「紅蓮獅子
たった数十秒だが覚えておけぇぇぇ!」
男が突進してくる...。
左にある川に飛び込むのも手だが追いかけられたら逃げ場は無い。能力の火は普通の水じゃ消えたりしない。だから途中で殺されるリスクを背負ってでもこの研究所のところまで来る必要があった...!研究所までくれば...
「このボンベがあるからなぁ...!」
ボンベを自分と男の間に引っ張ってくる。
「はっ!そんなもんで俺の炎を止められると思ってんのかぁぁぁ!」
思ってなどいなかった。むしろ止められない前提で考えていたのだから!
その時、歩は川へ飛び込んだ。
男の攻撃がボンベに当たる瞬間に...!
その刹那大爆発が起こった。
「痛ぇ...」
爆風で川に叩き付けられた衝撃で痛みが走るがそれ以外に怪我という怪我はないようだ。
実は研究所の裏には基本的にいろんな気体や液体のボンベが置いてある。最後に使ったボンベは灯油のボンベだ。
爆発させれば相手は追いかけることも出来ないという訳だ。
「とりあえず、和也に連絡を...」
というところでとんでもない事に気づいた。
「俺のスマホ...防水じゃなかったのか...。」
スマホなんて変えたらまたお金が...食費が...って
「やべぇ!カップ麺あのボンベの所に置いたままだっ!」
あ、でもどっちみち川に潜ったら多分食えないから一緒か。
飯抜き確定かぁ〜。
とりあえず現場の女の子がどうなったのかが気になる。なんとかして和也と連絡を取らないとな...
その時川沿いを登ったところに電話ボックスが見えた。
「もうこの際食費はどうなってもいいやぁー。」
もはや自暴自棄である。急いで和也にかける。
「もしもし、桜井ですが。」
「和也。歩だけど。」
「歩。生きてたか!爆発がニュースになってるから死んじゃったかと思ったよ...。」
電話の向こうから安堵の声が聞こえてくる。
「ごめんごめん。それで最初の被害者はどうなった?」
「それがさ、警察の無線も聞いてみたんだけどどうやら怪我人がいないらしい。」
「どういうことだ...?」
「明らかに致死量を越える量の血痕だけ残ってるんだけど死体だけ無いんだ。」
どういう事だ?誰かが運んだって言うのか?いや、和也に警察を呼んでもらうまでにそんなに時間はたっていなかった。
もしかして男の仲間か?
「まぁこればっかりはお手上げだ。
その子の行方は警察に任せるしかない。」
「そうだな...
ありがとう、和也。お陰で助かったよ。」
「今度なんか奢ってくれよー?」
「俺の食費に空きができたらな。」
電話を終え家に向かうことにする。というか、夏になりかけとはいえ、夜にびしょ濡れは寒い。帰って風呂入りたいなーと考えつつ家に急ぐ歩だった。
家に帰りお風呂に入った後、ニュースで爆発の被害がそこまで大きくなかったことに安堵しながら今日1日を振り返ってみた。
「もう外に出たくねぇ...」
一層引きこもり欲が高まった。
まぁもう流石にオンラインゲームのやる気が起きる訳もなく寝ることにした。
(にしても、異名持ちってあんなイカれた奴ばっかなんだろうか?もう二度と会いたくねぇな。)
なんて考えながら眠りについた。
次の日
昨日疲れて寝たせいで案外早起きが出来た。
時刻は6時頃だろうか。
学校に行くために出なきゃ行けない時間は7時半なので、ゆっくり出来そうだ。ある程度の用意を終わらせてゲームでもしてのんびりしていると...
ピンポーン、と音が鳴った。
「誰だよこんな朝早くから...なんかデジャブだ...」
ガチャ、「はいどちらさまー?」
と、扉を開けると目の前にはアクアブルーのロングヘアーに俺と同じ高校の制服を着た美少女がいた。
「だ、誰ですか...?」
「えーと、とにかくちょっと付いてきてもらえますか?
てか、付いてきてください!」
「え、え、ちょっと!?」
付いてきてくださいと言う割に腕を掴んでグイグイ引っ張って連れていかれる。
え、てか女の子だよね?どこにそんな力がぁぁ!
あっという間に誰も使ってないようなビルに連れてこられた。
途中で抵抗するのが面倒になったのは内緒。
「あの、一体なんなんですか?俺殺されるんですか?」
「え、何のことですか?なんで貴方が殺されるんですか?」
全く意味を理解してないご様子。これって誘拐と変わらないんじゃなかろうか?いや、歳同じくらいでしかも同じ学校の制服でそれはおかしいのだろうか?
「ここです!この部屋です!」
ビルのある一室に入れられる。
そこに居たのは...
「なんであんたがここに来るのよ!」
「いや、連れてこられたんだからどうしようもねぇだろ!」
小鳥遊舞だった。