3 訓練の約束を取り付けました
読んでいただきありがとうございます!
しばらく(受験終えるまで)更新不定期となりますが週に一回を目指しています
初夏の快晴のもと、少年は必死の思いで土下座をしていた。
「お願いします!厳しい訓練でもします!人が割けないなら場所を貸していただくだけでもいいので…!」
「…何度言ったら理解できるのか。この騎士団には貴様のような呪われし無能者を受け入れる余裕など一片もない。わかったらもう帰れ。属性が代わりでもしたらまたやってくるのだな。」
「無情なことをおっしゃらないでください…。片隅でいいのでどうか」
風乃はもう朝からずっとこのような問答を続けているのだった。
今はもう日も真南に見える頃だ。
最初は魔法使いに魔法を教われないか打診しに行ったが門前払いであった。曰く、呪い子を教えるなんてとんでもない、俺はまだ死にたくないんだ、ということだった。他の魔法使いも似たり寄ったりな反応をし、まあどうせすごい魔法が使えるようになるわけでもなかろうからとすんなりと諦め、次は騎士団に向かった。相手にされなかった。
風乃はもうくたくたに疲れていたが、諦めるわけにはいかなかった。なんせ彼は何の力もないただの人間で、異世界から来たので伝手も信用も帰る場所さえないのだから。このままでは十分に仕事にありつけない恐れが大いにあるのだから。この1週間のうちにせめて力を得る基礎を習得するのは最低条件だった。
「おい、これはどういう状況だ?」
「副団長!!この穢れた異世界人が騎士団に入りたいと意味のわからないことをぬかしてしつこいのです!」
「ほう…。坊主、こっちの世界にに勝手に呼んどいて悪いんだがお前を騎士団に入れることはできないんだよ。こっちだって国民への体面があるからな、なんせ波属性が入っていた試しがない。」
「副団長、そんな奴にわざわざ構わなくても…」
「おめえが俺の対応に文句つけるってか。いつからそんなに偉くなりやがったんだ?」
「い、いえ。失言でした。」
「ちっ、もういい。それで坊主は解ったな?騎士団に入れてやることはできない。」
先ほどまで対応に当たっていた騎士は恐くなったのだろう、そそくさとその場を去っていった。
この副団長という人物は今まで風乃が城の中で会った人たちとは比べ物にならないほどまともに対応してくれている。他の人は皆罵詈雑言を浴びせるばかりであったのだから。風乃はそれをチャンスだと捉え、お願いを始める。
「違うんです。私がお願いしていたのは私に訓練をつけてほしいということです!それが無理なら自主訓練ができる場所を貸していただけないかと。私の住んでいた世界ではモンスターのような危険は全くなく、戦うこと、まして軽く走るということですら日常ではなかったのです。これから生き残るには体を鍛え、戦いに慣れねばならないのです!」
そう言い切った風乃を見て副団長はふむ、と何やら考え込んでいる様子である。風乃は土下座の姿勢を維持してはぁー、はぁーと荒い息をついていた。
「…よし、それならば私が直接施してやろうじゃないか。どうせ他の奴らに任せてもろくなことにならんだろうし。坊主、名をなんという。俺は謁見の場にはいなかったんでな。」
驚きと感動のあまりガバッと体を起こしてきらきらした目で副団長を見上げる風乃。副団長は一瞬怯んで顔をこわばらせ、すぐに苦笑いに変わった。
「ほんとですか!?ありがとうございます!っと、私は葵風乃と言います。葵が苗字で風乃が名前です。」
「風乃か…。そうだなぁ、俺は結構忙しいからな。早朝4時からいつも自主訓練をしているからそっから6時くらいまでと、俺の仕事が終わる午後6時から8時くらいは付き合ってやろう。疲れるがまあ1週間だけなら問題ないだろ。」
「そんなに時間を割いてもらえるのですか!?ありがとうございます!いくら感謝しても足りません!」
「いやいや、まだ俺なんもやってないしな?じゃあそういうことにしよう。そういや風乃、魔法は教えてもらえるのか?あんな奴らだから引き受けてないと思うんだが。」
風乃は露骨に嫌そうな顔をした。今までは相手に者を頼む態度ということでそんな風に顔を歪めてはいけないと抑えていた反動なのかもしれない。
「いえ、私に関わったら呪いが移るだの、呪い子などに教えるなんてもってのほかだと追い払われました。」
「む、名を名乗らせておいてこっちは言ってなかったか。俺は騎士団副団長のアジキ マムールという。まあアジキさんでいいだろ。
それでだな、俺たちだってこの世界の人間として魔法は使えるし、魔法使いたちと比べればずいぶん劣るかもしれないが攻撃魔法だってできる。まあ属性が違うからあれだが最低でも魔力の扱いくらいは教えられるだろう。」
風乃からするとそれは本当にありがたいことだった。周りの人はみんな大なり小なり魔法や魔力の使い方は知っているのに自分だけ知らない環境になってしまうことを覚悟していた。魔法の使い方を教えてくれ、なんて言ったらいぶかしまれるに違いない。何も知らないやつだと舐められ、足元を見られることになると風乃は考えていたのだ。
「ほ、ほんとですか!?(本日二回目)これで城を出ても生きていくめどが立ちそうです。アジキさんに惚れてしまいそうなくらいです!」
感謝と驚きにまたもやきらきらした眼差しをアジキに向ける風乃。それでも流石に惚れることはないので冗談だったのだがアジキはそれを本気ととったらしく、顔を引きつらせながら言った。
「いや、俺にはそっちの気はないからな!…それじゃあまた今日の午後6時にここに来てくれ。迎えに来るから。持ち物は、水だな。運動用の衣服はどうせ支給してもらってないんだろうからこっちで用意しよう。じゃあな!」
◇◇◇◇◇
食堂に行き昼食をとった後、(食堂のおばちゃんは優しかった。)風乃は今日の二つ目の目的である図書館にきていた。
この国の簡単な歴史と地理を頭に詰め込んで、次はなんの本を読もうかと本棚に視線を彷徨わせていたところ、妙に風乃の目を惹く本があった。
特徴といえば背表紙に何も書いていないだけというただの茶色の本を風乃はしばし見つめていたが、それを読むと決めたのか本に手を伸ばした。開けてみるとやはり白紙で、風乃が興味を失い本を閉じかけたところ浮かび上がる文字が見えた。風乃は驚き、人気のない椅子に座って、またそっと本を開けた。そこには、このような文字が浮かんでいた。
《異界の少年よ、あなたには私が読めるのですね》
そこで風乃は思わず顔を上げて慌てて周りを見た。誰かが、リアルタイムでこの本の文字を魔法で投影しているとでも思ったのだろうか。
《悪いのですが、あまりこちらに長い間干渉できないので手短に話します。私は大精霊と呼ばれるも存在。
今はこの城に封印されております。》
《帝国には昔英雄がいて、邪神を封印したとされていますが、実はこの英雄は邪神に騙されて邪神の力を借りて亜神を封印したのです。帝国はそれ以来この亜神の力を用いて何度か勇者召喚を行っています。これがこの世界のバランスを少しずつ乱し、邪神が力を強めているのです。そこで亜神を解放しようと私がやってきたのですが、邪神に騙された勇者と邪神本人により封印されてしまいました。》
《その後、この本だけには接触できたのですけどなぜか誰にも私の文字が読めなかったのです。貴方に直接力を注ぎたいのですが、そこまでの干渉はできないので特例として称号を与えます。本当は称号でさえ簡単には与えられないもののはずなのですが貴方にはよく馴染むようです。》
《私はもうあと10年ほどで滅んでしまうので、最後に会えた貴方にはなぜか、好意というか、親近感というか、心が温まるのを感じたのです。泡沫の如き短い時間でしたが、その力が貴方に多大なる幸せを呼ぶことを願っています。》
《ありがとう…。》
……。
しばらくの間余韻に浸っていた風乃は、丁寧に本を閉じ、元の場所に戻した。
とても短い文章だったが大精霊はその力で風乃に感情やイメージを伝えていた。それゆえ大精霊の亜神や遺した仲間への惜別の想いや風乃への慈しむような愛情を心の奥深くで感じた風乃には、その時間はむげんにも、一瞬にも思えたのだった。
「帰るか。もう暗くなってきたし……ん?なんか忘れてる よ…うな…。ぁぁああ!6時から訓練なんだった!!やっべ」
「図書館では静かにしていただきたいのですが……。もう行きましたか。次騒いだら追っ払ってやる。」
翌日風乃は満面の笑みを浮かべた司書さんにひどく叱られたのだった。
◇◇◇◇◇
「はぁ、はぁ…。まにあったぁー。」
風乃は肩で息をしていた。ずいぶん頑張って廊下を走ってきたのだがもう6時を2分過ぎていた。
アジキはもう10分前からここにきていて少しイラついているようだった。まあ、あれだけ必死に頼んでいたのに一回目から遅刻するのだから当然と言えるだろう。
「いや間に合ってねーし。ってか一回目から遅れるってなんだよ、すんげえ熱心だと思ってたのに。」
「すいません。でも違うんです。いや違わないんですけど理由があるんです。」
「理由があるのは当たり前だ、バカ。…で、どうして遅れたんだ?」
アジキに全てを説明し終えると、彼は神妙な顔をして言った。
「風乃、これは絶対に他の人に話してはならん。俺はもう口に出さんし、風乃と俺がしゃべるだけでもまずいだろう。英雄様は文字通り帝国の英雄だし、勇者様だって帝国の象徴の一つなんだ。他人に伝わってみろ、容易に反逆者として捉えられかねない。もらった称号を確認したり実験したりするのは人目につかないところでこっそりとやれ。いいな。」
「わかりました。」
どうやら自分はあまりにも考えなしに話してしまったようだと深く反省する風乃であったが、同時に、アジキの人の良さや初めて話したのが彼であったという幸運に痛く感謝した。
「ったく、変な雰囲気になっちまったじゃねえか。今回の件はお咎めなしにするが次遅れたらその日は付き合わんからな。」
"その日から"と言わないところに彼の性格が表れている。
「じゃ、早速訓練と行きますか。まずはこれから先毎日訓練するところまで走って行くぞ!」
「え?っじゃなくて、はい!わかりました!」
「いい返事だ!しゅっぱーつ!!」
黄昏時に始まった訓練が終わり、辺りもすっかり暗くなったなか、動けなくなった風乃はアジキに部屋に運んでもらった。
この後2人はベッドに入り、お楽しみでs「俺はそんなんじゃねぇ!ノーマルだノーマル!!」←アジキ




