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09

 天の階を使い、ハイドとスクアそれにヒューエは焔愛の館へと向かった。本来であれば、他の女神が入れないようにするとの事なのだがハイドはそれをしていない。

 フォルテスタは以前その事について聞いたことがあった。その時の答えがこうだった。


「そんな面倒で無駄な事やっても意味ないだろう?。むしろ来てくれるのならばそれに越した事はない。むしろ大歓迎だ、手間が省けるしな。それに、見られて困るものなど無いしな。」


 書類整理などは速攻で片付けるし、見られて困るものなんてフラールの私生活くらいじゃないか?と笑っていた位だった。


 そして、そんなあの方の殺意と怒りが此処まで届いた。私が真っ先に抱いた感情は恐怖だった。私がどんな事をしても苦笑いしながら好きにさせてくれる方が、あそこ迄感情を剥き出しにしていた。それも負の感情を全面に。

 私は震える身体を自分で抱き、堪えるが涙は止まらない。止められない。嗚咽が漏れてしまう。


 涙で視界がぼやけ、自分が何を見ているのかさえ分からないほどだった。


 館の中は酷いものだった。使用人達は皆青い顔をして身体を震わせていた。中には号泣する者や、錯乱している者など様々だ。

 これを自分で招いたかと思うと、反省せねばなるまいと改めて思った。これだけの影響力が今の自分に有るのだと知り、今後は律する事をしていかなければと誓うのだった。


 フラールを含み四人?で、執務室へと向かう。ガチャリと執務室の扉を開けるとガバリと何かが取り付いてきた。

 よく見ると、目を真っ赤にして身体を震わせるフォルテスタだった。嗚咽が漏れ、未だに泣いているのがわかる。俺は彼女を抱きしめて安心させる。


「大丈夫、大丈夫だ。俺はもう怒ってないから、な?」


 そう言って頭を撫でていく。その様子をちゃっかり動画に収めているのはヒューエだった。よし、後であの端末は破壊決定だな!。内心俺はそう言った。


 暫くして、フォルテスタは落ち着いた。だが、俺の側から離れようとしない。上目遣いは中々卑怯だが、今回は俺が悪いし好きにさせておこう。


「そうだ、ハイドさん!。此処は新たな焔愛の女神としてのお仕事です。」


 その言葉に嫌な予感がする。ギギギギギ、と擬音がする様にスクアの方を向くと物凄い笑顔でこっちを向いていた。そしてその素晴らしい笑顔のまま近づいて来てこう言い放つ。


「女神として、館の者達を安心させる為に女性姿で言葉をかければいいのです!」


 やっぱりな!そんなこったろうと思ったぜ!。いや、安心出来そうって言うのは間違っちゃいないけどさ…。


「姉様、アレを着てもらったら良いのでは?」

「まあ!良いアイデアよヒューエ!」

「…あまり聞きたくはないが、アレって何だ?」

「うふふ、そ・れ・は〜、これよ!」


 何処からともなく出てきたのは、黒基調に白のアクセントの入ったドレスだった。やっぱロクなもんじゃないな!。物は良さそうだけどな…。それだけに、残念ダヨ…。


「これは貴方をイメージして作ったモノよ。今度の会合用にと思って作らせた正装なのだけれど、数種類作ってあるから安心して下さいね!」

「うむ、コレはその一部だからな!」

「…どれだけ作ったんだよ。」


 半ば呆れるしかない。一体何着作ったんだよ…。まぁ、確かに男の状態で言うよりかは女の姿で言った方が良いだろうし…。そう言い聞かせながら、震える手でドレスを手に取った。


 女性へと姿を変え、ドレスを着る。それと忘れてはならないのがメイクだ。お世辞にも綺麗とは言えないのでしっかりと化けさせて貰おう。とは言え、生まれてこの方、メイクなんてのはやったことが無い。男で生きる上では必要ないスキルだしな。

 ここは女性歴ホニャララ年の先達にして貰おう。


「ハ・イ・ド・さん?。余計な事は思わなくていいですよ?」

「…、気の所為じゃない?」

「本当か〜?」

「信じられません」


 そう言いながらも、ヒューエは髪を結い上げ炎をモチーフにした髪留めで纏める。スクアはファンデやアイシャドウ、映えるように口紅や頬紅を的確に選んでいく。時折、「このモチ肌、羨ましい!」と口走ったりしていたが概ねメイクは終了した。


 姿見で全体を確認する。うむ、まるで別人…。性別変わってるしホントに別人と言っても過言だはないのだけれどね。


「うむ、綺麗系だな!」

「ヒューエや私と違ってまた良いわ」


 後ろにいたフォルテスタへと向いて喋り掛ける。


「どお?。これならみんな安心出来ると思う?」


 顔を真っ赤にしたフォルテスタに笑いかけるのであった。



◇◇◇◇◇◇   ◇◇◇◇◇◇


 私が使えている今の主は特殊である。何しろ、前の焔愛の女神であるフラール様と融合しているからです。それによりあの方は性別を自由に出来ます。

 今回、下界で何かありその主が怒りその余波で私達にも影響が出ました。館の者たちは恐怖で仕事になりません。かく言う私も先程まで震えて泣いていたのですが、その主が抱きしめてあやしてくれたので落ち着きましたが…。


 そんな主である、ハイド様が今女性姿でメイクされています。あの方は、男性の時はなんと言いますか、年相応と言うとしっくりきますね。女性の時は見た目綺麗系な顔立ちで、男性の時より落ち着きがあります。

 メイクが終わったハイド様はご自分で変なところがないか確認していきます。一通り確認が終わり、こちらを向き直り言いました。


「どお?これならみんな安心出来ると思う?」


 そう言って妖艶な笑みをしていらっしゃいます。正直言いましょう、かなりえっちな感じです。男なら俺誘われてんじゃね?って感じで勘違いしそうですね!。


「コホン、少し自重された方が良いかと…。」


 私がそう言うと、主は「どうして?」と首を傾げ聞いてきます。


「笑い方がえっちぃです」

「ふ、普通に笑っているだけなんだけど…?」


 その言葉にスクア様やヒューエ様も一同に頷いてらっしゃいました。それにしても、あ、アレが、普通、だと!?。天然エロスですか!?貴女は!!と叫びたくなります。グッと堪えましたがね!。


「でも、元気になってくれて良かったよ。」


 そう言った時のハイド様のお顔は見惚れるほど綺麗でした。そして何処か寂しそうな印象も同時に感じたのでした。


「では、早速館の皆さんに届く様に魔法を使いましょう」

「姉様、対象は館内のすべての使用人で?」

「そうです、お願いしますねヒューエ。」

「おまかせ〜、では始めるぞ〜」


 そう言った後、館全体が魔法陣で包まれ執務室以外の部屋にいる者たちへ魔法が行使されました。どうやらハイド様の姿が皆さんに写っている様です。

 そして、その近くではヒューエ様がカメラ片手にニヤニヤしていました。正直、ちょっとキモかったです。


◇◇◇◇◇◇   ◇◇◇◇◇◇


 この姿で何か言うのは正直緊張ものだ。第一性別違うし、なんか自分が喋っている気がしない。今だけの我慢と自分に言い聞かせ、喋り出す。


「館で働いているみんな、ほとんどの方々が初めまして、だな。前女神、フラールの代行のハイリアだ。今回のことは本当に申し訳なく思っている。」


 そう言って頭を下げる。そこかしこから大きな声で「滅相もございません!」、「寧ろ、ハイリア様を怒らせた者たちに制裁を!」、「お綺麗ですわ…。」など様々な反応があった。

 俺はふと視界に入ったモノを横目で再確認した。


「ぐへへ、えぇね、えぇねぇ!。」

「ハァ、ハァハァ!?」


 どちらも涎をダラダラと垂れ流しながら息を荒くしている。まあ、正体はフォルテスタとヒューエなのだが…。大丈夫なのか、この世界は!。そう思わずにはいられない程の光景だった。

 そんな気持ちの悪いモノを目にしておきながら俺は、館の者たちを想うと嫌な顔が出来なかった。何せこの放送は館内全てに流されているからだ。


 例え生理的に嫌なものでも、ここは耐えなければならない。ホントに嫌なんだけどな!。


「ついては館内のみんなにはしっかり休んでもらう為に休暇を与えることにした。2日と短いけれど、しっかり休んでくれな。」


 そう言って俺は魔法を切り、踵を返すとドレスがふわりと舞う。ドレスに合わせたTストラップの付いたパンプスを履き慣れないながらもフラールの元へと向かう。


「如何したんですの?」

「いや、この姿はやっぱり慣れないなって思っただけだよ…。」

「わたくしはそうは思いませんわ。何時もの姿も良いですけれどこちらも中々良いと思いますわ」

「あ、う、ありがとう…。」


 俺はこの姿にも慣れないといけない。今後はこの姿で表に出る事もあるだろうし、早く分離する方法を見つけないとな。


 その日はもうお開きになった。俺もフラールも、それにフォルテスタまでも疲れていたので解散になったのだった。


 後日、神界のgod tubeでとある動画がアップされた。濡羽色の様な黒髪に白金の様な白いメッシュの入り、ドレスも黒基調に白のアクセントが入ったもので統一されたドレスを身に纏い透き通るような声で女神が喋っている動画だ。この動画が瞬く間に噂になり再生回数はうなぎ上りになった。それが消されるのはハイドの耳に入ってからになるのだった。


◇◇◇◇◇◇   ◇◇◇◇◇◇


 焔愛の館の休暇騒動から数日、ハイドことハイリアは全女神の館から中心部分に位置する場所の大神館へとやって来ていた。傍らには半可視化したフラールとフォルテスタを連れて。


「申し訳ない、お、コホン、私が最後だったか…。」

「無理もないでしょう、初めて訪れる場所ですからね」


 俺の言葉に対し、しょうがないとばかりにフォローを入れたのはスクアだ。


「それにしてもやけに気合い入っとんな!」

「堅苦しい、のは、最初、だけでいい。」

「そうは言うが、皆も人のことは言えんな。」

「そんな事より、座ったらー?」

「そうだな、失礼するよ」


 そう言って割り当てられた席に座る。何だろうか、やけに視線を感じると思って周りを見ると、スクア以外の女神が目を逸らす。なるほどこれかと俺は納得した。

 今の俺は所謂パンダなのだ。注目を集めるだけの珍獣って所だ。全く厄介な、正直面倒だと思ってしまった。


「さてさて、先ずは自己紹介からしましょう」


 そう言ったのはスクアだ、正直助かる。スクア以外マジで分からないからな。そう思っていると、茶髪のショートヘアの娘が立ち上がった。


「じゃあ、あたしからね!」


 元気よく言ったのは、風を纏う幼女…。


「今何か失礼な事考えなかった?。まぁいいや、私は風豊の女神のヴェメアだよ!。よろしくね、ハイリアちゃん!」


 完全に見た目は8歳くらいなのだが、風格が違う。そこはやはり女神と言わざるを得ないだろう。瞳は鮮やかな翠色だ。


「焔愛の女神代行のハイリアだ。こちらこそ、よろしく。」


 そう返し、ヴェメアと握手したあとに頭をついつい撫でてしまった。

 その瞬間、周りの反応が止まった。それはフラールも例外ではなかった。


「?どうしたんだ?」


 訳が分からず、思わず聞いてしまう。すると、彼女たちは指を差しながら青ざめた顔を見せている。


「何してんねん!はよぅ、その手やめんかい!」


 久々に関西弁みたいなの聞いたな…。止めろって言われても、撫で心地が抜群なので止められない、止まらない!そんな状態だ。


「でも、凄く撫で心地が…。」

「阿保う!死にたいんか!?」

「そ、そうだぞ!。はやく撫でるのを止めるんだ!」


 そう言われても困るが、ヴェメアがプルプル震えているのに気付く。


「嗚呼、終わったな…。」


 誰かがそう言ったあと、遂にヴェメアが言葉を発した。


「ふにゃあぁぁぁ、気持ちイイ〜!!」

「「「「「「はっ!?」」」」」」


 頬は上気して息が荒く、口の端には涎が垂れている…。ただの変態じゃねーかよ!?。

 自分でも分かるほど顔を引きつらせながら頭を撫で続けていた。次は黄色の衣装に身を包んだショートボブの女性が声を発した。


「次は私だな!。私は雷戦の女神、ルルベムだ。よろしく頼むよ、ハイリア。」

「あぁ、こちらこそよろしく。」

「素っ気ないな、まぁ、今はそれでもいいだろう!。すぐに私に夢中になる様にしてやるからな!」


 勝ち誇った様に腕を組み、その豊満な胸が持ち上がる。その様子にヴェメアはキッ!と目を鋭く威嚇していた。…しょうがないよ、その見た目であんなのがあったらドン引きだから。


「うふふ、あんなおバカさん達は置いておきましょう。私は智地の女神、ウィーラ。よろしくね?」

「ハイリアだ、色々お世話になる事があるだろうがその時は頼む。」


 ウィーラはニコニコしながら観察していた。この手の奴が一番厄介なんだよな…。


「次はワシじゃな!。ワシは日煌の女神のソルスじゃ!よろしく頼むぞ!。」

「続きまして私は闇夜の女神、ラエノと申します。何卒、よしなに」

「こちらこそ、二人は血縁者か何かか?」


 かなり似ていたので俺は思わず口にした。所々色が違うだけで、瓜ふたつなのだ。


「ワシらは双子というやつじゃ!」

「私達は双子なのです。、」


 同時にそう返ってきた。ステレオ状態だな…。

 それにしても、個性派揃いのラインナップだなこれは…。そう思い、周りを見回す。ヴェメアと目があった時は期待の眼差しを向けられたのは言うまでもないな…。


「それでは、定期会合を始めるぞ。皆、着席せよ!」


 先程と違い、威厳たっぷりに言うソルス。俺も割り当てられた焔愛の女神の席に座る。


「さて、今回は代行とは言え焔愛の女神がおる。先ずは各々の下界での人気投票じゃが、残念ながらルルベム!お主が最下位じゃ!」

「何故だ!」

「そりゃあそうよね、普段があれじゃあね〜」

「仕方ないですわ。」

「だが、そう悲観することはないぞ?。アンケートでは、「戦っている姿は勇ましいので好きです」や「甲冑姿はカッコいいんですけど、それ以外とが差がありすぎますね」などの声があったのぅ。」

「つまりは、戦っていない時は魅力を感じないという事ね。」


 辛辣な言葉がルルベムの身体に刺さっていく。それ程酷いのか?この人、もとい女神は。


「フラールはやはりそこそこ人気がありますね。」

「サボってるんだが、それを下界の人間に隠すのだけは上手いからなアイツは。」


 暫くそんな会話が続いた。終わった頃には数名屍と化していたが…。


「して、焔愛の女神代行、ハイリアよ。何か話す事があると聞いておるが?」


 そう言われ、ソルスの方を向き頷く。


「この間下界に行った時の事だが、女神の加護が為されていない場所があった。そこについて何か情報が欲しい。それと出来ればだが、そこに各女神の加護を与えたい。」


 スクアとソルス、ラエノ以外の女神の顔が驚きに染まる。口々にそんな場所があるのか?と言っている。まぁ、実際に見ないとそう思うよな…。


「それは、魔族の地を言っておるのか…?」

「そうだ。」

「ふぅ、あの場所を見つけられてしまったのですね…。」


 ソルスの目つきが鋭くなる。それと同時に威圧感が跳ね上がった。それとは対象的にラエノは気落ちしていた。


「それは、意図的に隠していた、或いは加護をしていなかったと見ていいのか?」


 俺の問いに対し、ソルスとラエノは頷く。他の女神は知らない様だったが、この二人は違う。何かを隠しているのは間違いないだろう。


「その理由を聞いてもいいか?」

「それは、言えぬ。」

「…。」


 俯くソルスとラエノ。人気投票だの何だのと先程まで馬鹿騒ぎしていたのが嘘の様に静まり返ったのを破ったのはスクアだった。


「言えないのならしょうがないわ、その話は次の会合での議題にしましょう?。それから、私から一つ提案があります。」


 スクアの言葉に若干だが、場の空気が緩む。他の女神は親指を立ててサムズアップしていた。


「ん?なんじゃ?」

「ハイリアちゃんを次の焔愛の女神にする事を提案します」


 スクアの提案に各々思うところがあるのか、概ね了承したのだがルルベムだけは違った。


「良いとは思うが、条件がある!!」

「また脳筋が変な事言いそうなんですけど〜」

「まあまあ、ヴェメアちゃん。取り敢えず聞くだけ聞いてみようね〜」


 ウィーラがそう言って、ヴェメアの言葉を遮る。俺を含めみんなの視線がルルベムに集まるのだった。

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