08
「マシューリア様!私をかの者と手合わせさせて頂きたい!」
そう大きな声で周りにはっきり聞こえるようにそう進言するエリック。暫しの沈黙の後、誰かがこう言った。
「良いのではないですかな?。近衛騎士であれば実力は十分。ならば面白い試合が観れるのではないですかな?」
「うむ、それは良い。」
「確かに、エリック殿ならば安心だ。」
「そうだな、エリック殿が勝ったら皆同伴で良いのでは?」
「負けた時は如何するのだ?」
「まさか!?近衛騎士のエリック殿が負けるなど、あり得んだろう。」
「確かにな!」
「なればその時のことなど考える必要もあるまい」
よもや近衛騎士のエリックが負けることなど無いとタカを括った彼らは、そんな事を言い出した。
「まあ、それだけ信頼されているんだろうな…。」
そんな独り言はすぐに霧散していったが、フラールだけは聞いていたのだった。
「それで、マシューリア様。手合わせの許可を頂けますか?」
「よい」
かなり渋々ではあったが、マシューリアは了承し首を縦に振った。マシューリアは直感だけで分かったのだろう、自分の側近がどう足掻いても太刀打ちできない事を。それをあえて了承するとは、鬼畜さんだな!。などと内心思っていた。
謁見の間で剣を抜くなど言語道断なので、闘技場へと一同は移動することとなった。しきりに目で謝っていたマシュへニコリと笑って任せろと返した。勿論アイコンタクトでだが。
城の外へと出た一同は、馬車で向かう者や訓練だと言って走る者などバラバラだった。
俺はフラールとゆっくり歩いて行った。道中に興味深い店があったので帰りにでも寄って行こうと思っていたのだが、フラールがその話をしたのでフォルテスタに文句言われたらフラールにも怒られてもらおうと思ったのは言うまでもない。
「遅いぞ!全く、人間が我らを待たせるなど無礼千万だな!」
闘技場に着いて一番最初に言われた言葉がコレだった。さすがの俺もこの言葉にはイラッとしたよ。
「詳しい場所も言わずに行った連中がよく言うな…。」
少し声を低めに出して言ったら、ビクリと反応していた。全く、あのエリックとかいう男には悪いがさっさと済ませてしまおう。
「ほら、手合わせしてやるんだからさっさと来い」
「な!。貴様、その態度を改めさせてやる!」
気怠げに言うと、青筋を立てて剣を抜きこちらへと向かってくる。
正直、遅い。剣を抜くスピードもそうだが、移動する速度も遅い。俺を基準には出来ないが、これは何かしらハンデが無いと釣り合わないな…。
俺はエリックの放つ剣撃を受けることも無く躱していく。それも必要最低限の動きでだ。
「クソッ!?。何故だ、何故当たらない!!」
「はぁ、全く…。高速戦闘が出来ないのは側近としてどうなんだ?」
「貴方も酷なことを言うのね?」
「なに?」
「さっきの彼、アレでも高速戦闘の領域のスピードよ?」
「……、ウソ、だろ?」
「貴方に嘘をついても仕方が無いでしょう?」
俺はフラールの言葉に愕然とした。あの亀のよう、ゲフン、ゲフン!。あのスピードで高速戦闘の領域と言うのが信じられないでいた。
「戦闘の領域が変わっているのですわ」
「なるほどな、それでコレ、か…。」
「ヒトにしては速い方ですけれど…。」
「神を相手にするならば、無謀か。」
さすがにあのステータスの差は広いらしい。それにしても、酷な事をさせているな。ステータス差を加味して考えると、吹けば消し飛ぶレベルではないか?。
加減が難しい、この一言だ。
「クソがッ!?。余裕ぶりやがって!貴様何様のつもりだ!」
その一言に、フラールがキレた。数々の暴言が彼女の堪忍袋の尾が切れた。
ウィンドウが現れる。
【焔愛の女神 フラール】を強制可視化、第一リンク開始します。
その瞬間にフラールが可視化され、他の者たちにも視認できるようになった。驚き口をふさぐ者、腰を抜かす者、開いた口がふさがらない者など反応は様々だった。
そして、エリックもその一人だった。
「脆弱な人間風情が…。身の程を知れ」
フラールが特大の火球を生成する。フラールの感情が流れてくる、圧倒的な怒り。だが、あくまでこれは俺とエリックの戦いだ。
それをフラールは邪魔する気のようだ。如何にフラールといえど、これを邪魔するだと?。
「やめろ、フラール。」
「ふふふ、アッハハハハハ!!」
止まらない。フラールは俺の声が届いていない様だった。
嗚呼、全く人の話を聞いてない…。
かなりイラッとするなこれは…。
フラールの怒りの感情を塗り潰していく。
あまりの殺気と威圧に天候までもが荒れていく。風は吹き乱れ、雷は鳴り響き、厚い暗雲が空を隔てる。
フラールは震えながらゆっくりと振り返る。其処に居たのはハイドだ。それは分かっている、だがコレは先程までの彼とは違う事に気付く。瞳は紅蓮の炎を思わせる様に紅く、目の周りには紋様が浮かび上がり膨れ上がった怒気はフラールに恐怖の感情を引き出させた。
「何度も言わんぞ、フラール。やめろ」
フラールを射抜く視線は鋭く、止めなければ殺される事を直感で悟る。すぐに火球を霧散させ、慌てて傅く。
「いい機会だ、エリック。俺の今の全力の一撃、どうにか凌いで見せろ。お前は俺より強いんだろう?簡単にくたばるなよ…。」
そう言い放ちハイドはグラムとティルヴィングを抜く。余りの魔力の密度にハイドの周囲がバチバチと爆ぜる。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
グラムを地面に叩きつけると、ものすごい勢いで地面にヒビが入り巻き上がった。その直後に流れるように横一文字にティルヴィングで切り裂く。膨大な魔力を同時に放つ。
一瞬の眩い光が辺りを包む。視界が治った後には、闘技場は半分だけしか残っていなかった。一瞬の出来事で何が起こったかすら分からず、ただただ呆然とするしかなかった。
俺は全力の一撃を放った後、溜息をついた。
(やってしまったぁぁぁぁ!!)
ここまでする予定は無かったんだよ!。ゲームの時の技を使ったんですけどね、ここまでの威力は無かったんだよ。それにしても、闘技場が半分無くなったけどどうしようか。
どうしたものかと頭を抱えていると、天の階が現れる。チラリとフラールの方を見やるが、彼女も首を傾げた。
ふわりと降りてきたのは、スクアとヒューエだった。
「ハイド、それにフラール。これはまた盛大にやらかしましたね…。」
「そっちにも影響が出ましたの?」
「うむ、こっちは大丈夫なんだが、フォルテスタがビビってしまって使いもんにならんのよ」
事も無げに言うが、仕事にかなり遅れが出ることは間違いないだろう。それを見兼ねてわざわざ迎えに来たのか。今回は申し訳ないことをしたな…。
そんなことを思っていると、周りが騒ぎ出す。
「おい、あれはまさか環水の女神、か?」
「あれが、女神の一人。なんと神々しい!」
「誠に!」
…なんか、フラールの時と違いすぎじゃないか?。まあ、フラールだししょうがないか。っと、それよりもマシュに一言いわないとな。
そう思い、俺はマシュの所に跳ぶ。本来なら高速戦闘で使用するスキルなのだが、いろんな場面で重宝する便利スキルだ。
いきなり現れた俺に戸惑いを見せる。周りの連中に睨みを利かせ、話し始める。
「マシュ、すまない。これからすぐに戻らないといけなくなった。」
「そ、それは、やはり、気分を害されたから、ですか?」
そんな事を、青ざめた顔で言った。だが俺は、否定するように首を横に振りしっかりと言葉にしてやる。
「それは違うぞ。俺の家の者がさっきのでビビってしまってな、仕事が進まないんだそうだ。だからその分の仕事をしなくちゃいけなくなったんだ。本当にすまない、次の時はお忍びでいくさ。」
そう言って笑いながら頭を撫でる。顔を赤くしながら撫でられている様子は、小動物みたいですこぶる可愛かったのは言うまでもない。
そうして、俺たちの魔族の町訪問は消化不良のまま終わりを告げた。…、納得がいかーーーん!そう心の中で叫んだのだった。
◇◇◇◇◇◇???????◇◇◇◇◇◇
「ふぅ〜ん、アレが新しい女神?。男じゃないか」
「どうやら、女にもなれるらしいです」
「まぁ、私達には性別なんてあってない様なものだし?」
女性二人の声だけが辺りに響く。一人はハスキーで凛々しい声だが、女性特有のものも入った声だ。そしてもう一人は可愛らしい声だ。こっちは例えて言うなら、アニメで使われそうな声だろう。
「ククク、調教しがいがありそうなヤツだな!」
「全く、悪い癖が出てますよ。」
「なんだ、嫉妬しているのか〜?」
「なっ!?、そんなわけっ、んむッ!?」
ハスキー声の女性がアニメ声の女性の口をキスでふさぐ。アニメ声の女性は、抵抗せずすぐに受け入れ頬を紅潮させていた。
ヲタならばすぐさまこう言いそうだ、「百合、萌え!」と。
「ぷは、顔が蕩けてるぞ〜」
「ッ!?。コホン、フォルテスタさんから聞いたんですが、近々の会合でお披露目なさるそうですよ。その時には無理矢理にでも女性の姿で出席なさるとか…。」
「なに!?ホントか!?。それは実に楽しみだな!」
「……まぁ、本当か分かりませんけれど。」
最後に呟かれた言葉は、ハスキー女性に聞かれることなく霧散していった。そしてそんな言葉を気にもせず舞い上がっているハスキー女性は「堕としてみせる!」などと言っていたのだった。
コイケヤののり塩マジうまい!
おすすめののり塩。
ほらほら、食べてご覧なさい