06
私こと赤崎 葵は幼馴染みの黒嶺 白斗と共にVRMMO RPGであるAlpha Ria Cross gate On lineをプレイしていた。
私達は高校生だったがゲーム内ではかなり有名な部類だった。特に白斗、ゲームではハイドだけどあいつは凄かった。PVPの武闘大会では優勝目前まで行ったが、流石に廃人レベルの奴には負けていた。
まぁ私は一回戦負けだったけどね…。
そんなあいつが失踪して一週間が過ぎた。私はA.R.C.オンラインで情報を集めながら白斗を探していた。おじさんとおばさんも警察なんかに届け出を出して捜索して貰っていた。更に3日が過ぎ、白斗の部屋を訪れた時におじさんとおばさんはは悲しげな顔で私にこう言った。
「あいつが戻ってきた時に、自分の物が一切無くなってたら、文句言うだろう?」
「まったく、あの子は何をしているんでしょうね…。」
私は何も返すことが出来なかった。だからこそ、私は絶対にあいつを、白斗を見つけると心に誓った。
そして今日はあいつが最後にいた場所、アスベルト平原に来ていた。出現する敵のランクはかなり高く、今のパーティメンバーではかなり厳しい場所だ。まぁ、私は一応レベルカンスト組なんでそんなでもないけどね。と言ってもタンクが居ないとダメが直で私に来るから面倒っちゃ面倒ではある。
「全てを焼き尽くせ、エンシェント・ブラスター!!」
私が持てる炎系最強魔法だが、敵を一撃では倒せない。バフが足りない、バフが!。元々この場所は一人で来るような場所ではないし、普通は来ない。
そして何度目かの戦闘の後、それは聞こえた。
「…………、ル。」
「……する、……ですか?」
「…や、……。……グ、ない」
殆ど何を話しているか分からなかったが、片方は忘れるはずがない。あいつの、白斗の声だった。
私は辺りを見回す。だが、何処にもその姿は見えない。でも私には分かる、あいつがこっちを見ている事が。何かをしようとしている事が分かる。だから言う。
「ちょっとハイド!。何をしようとしてるのかは知らないけど!終わったらちゃんと帰るわよ!!」
その直後に、私の意識が途切れたのだった。
『頼むぞ葵。俺たちにはお前が必要だからな』
そんな声が聞こえた気がした……。
◇◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇
どれくらい気を失っていただろう。恐らくは5分10分程度だろう。私は冷たく硬い感触で目が覚めた。
石、これは硬いわ。そう思いながら身体を起こすと私の他にもあと3人が同じ場所で気を失っていた。男が二人と私を含め女が二人。
一人の男はそれなりに髪が長く、色がブロンドと来たものだ。もう一人は何ともワイルドな感じに日焼けしていて獰猛そうな感じがする。そしてもう一人、髪は短めだが結い上げてあるので結構オシャレだった。
「あのぉ、ここは何処なんスかね?」
「んあ?牢屋だろうが、見て分かんねぇのか?バカか?」
「おいおい、レディに対してその態度は失礼だろう?」
「オレはテメェみたいなのが一番嫌いなんだよ」
「奇遇だね、僕も君みたいなのは嫌いなんだ。」
そう言いながら金髪男が髪をかき上げながらそう言った。うわぁ、あれはないわ。いやいや、だってあんなの今時いないでしょ?。
そう思いながら思考を切り替える。ハイドだったら恐らく現状把握に努めるだろう。
私は立ち上がり部屋を隈なく探す。壁や床、そして鉄格子も触る。何もおかしいところはない。そう、おかしいところは何もなかったのだ。ならばここに来る前私は何をしていた?。あった、おかしいところ。
私はランチャーを出すように手首にスナップを効かせると、いつも通り出た。
術リストを確認するとゲームと変わらずにそれはあった。私が作った術の数々、その中でもえげつないと言われた全属性攻撃の術もしっかりあった。ならばと、鉄格子の前に来て手をかざす。
「焼き切れ、フレイムソーサー。」
スパンと切れた鉄格子は音を立ててその場に落ちた。鉄格子と私を交互に見ながら「マジか」と頻りに行っていた。
しかし私は気にせずに牢屋を後にし、ズカズカと進んで行く。その後ろをもう一人の女の子が付いてくる。くるりと振り返り、女の子に問う。
「私はこのままここを出るわ、あなたはどうする?」
そう少女に問いかける。そしてひとしきり悩んだ後に少女こう答える。
「もし良かったら、一緒に行ってもいいですか?」
「それは構わないけれど、私は人を探すから色々と回る羽目になるわよ?」
「そうなんですか?。じゃあ、あたしも付いて行くっス!。自己紹介がまだだったッスね!あたしは桃谷 翠ッス!!」
「私は葵、赤崎 葵よ。」
そう言って自己紹介を互いにすませ、「よろしくッス!」とトコトコと付いてくる。うん、本当に一緒に行くようだ。そう思いながら私は階段を上り、恐らく一階部分に到達したのだろう。周囲の陰気さが無くなって、華やかな雰囲気へと変わった。
だが葵は嫌な雰囲気を感じていた。
嫌な感じ、吐き気がしそう…。そう思いつつも私は城の外へと出ようと城外への道を探しながら進む。先ほどの男連中とは別れ、ほのかに抜ける風を頼りに歩く。
「とはいえ、合っているか分かんないんだけどね…。」
「むむ、あっちじゃないッスか?」
そう言って指さすのは、先ほど出会った少女の翠。確かにそこは外へと繋がる扉だった。私はガチャリと扉を開け、確認するとそこには兵とこの城の王であろう者が待っていた。
「いやはや、素晴らしい!」
そう言いながら手を叩き、まるで賞賛を送っているようだ。正直、気にくわない。
「あなたがここの王?」
「左様。余がこのザーグブルグの王を務める、バフォット・ザーグブルグだ。君たち勇者を試したのは非常に申し訳なく思うよ。だがこれも必要なことでねぇ、分かってくれ給え。」
私は直感的にこの男は信用できないと感じた。さて、如何したものかと考える。暫定だが、敵であると考えるとこの戦力差だと厳しい。ハイドが居れば安定するのだけれど、無い物ねだりはダメか。まずはこの男から情報を引き出す事にする。まぁ、信用に値する情報かは後で決めるとして、ね?。
「それで、その王様がこんな小娘に何の用?」
「これは失礼、まずは説明させてもらうとしよう。君たちはこことは別の異界から勇者として召喚させて貰った。全ては魔王を倒すために…。」
「……魔王?」
「そうだ、今人々を脅かす魔王がいるのだ。その魔王を討伐して欲しくて君たちを呼ばせてもらった。」
「……。」
「なにせ魔王は強力な魔法を使い、魔物を従えているのだ。並大抵の戦士では歯が立たん。そこで君たち勇者の出番だ。君たち勇者ならば魔王を殺すことができるのだよ!」
その瞳には危うさがあり、私は警戒した。今すぐにでもこの場から逃げた方がいいと、私の直感が告げているが聞くことを聞かないといけない。
「その魔王云々は分かったわ。」
「そうか!では!?」
「だけれど、私は人を探さないといけないの。だから…」
「なるほど、じゃあ協力しようじゃないか!」
私が言い切る前に何処かのバカが口を出す。そう、あの金髪野郎だ。名前なんて知らないけれど、こいつは迷惑極まりないわね!。人がしゃべってんでしょうが!!。
内心で悪態を吐く。そんな事より何時からいたし!。
「その魔王とやら、この僕たちが退治してくれよう!」
「ったく、面倒くせえがやるか!」
…、あんたたちバカなの?。どう考えても怪しさ満点でしょうが…。
「うむ、流石は勇者たちよ。して其方の方々も、もちろん魔王討伐に協力して頂けますな?」
「さっきも言ったけど、私は人を探さないといけないの。そんな事に付き合っている暇はないわ。」
「魔王討伐に協力して頂ければ人探しに我々も少しは協力できると思いますが、どうですかな?。」
どうやら私たちをここから出す気がないようね。これは隙を見て逃げ出すしかないわね…。
私はそう思いながら、この場はあの王に従うのだった…。