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05

 カツカツ、コツコツと二人分の足音が響き渡る。一つはヒールが高めの音だ。もう一つはグリーブの踵が当たるような音。

 一つはフォルテスタ、そしてもう一つはハイドの足音だ。フォルテスタは見た目出来るOLか女教師風の格好で細めの眼鏡を愛用しているが、違いがあるとすれば背中だろう。純白の6枚の羽根が人とはかけ離れた存在へと昇華させている。

 そして、ハイドは黒ベースの髪に至るところに白のメッシュが入っている。瞳は茶色から、アクアブルーへと変色している。服装はファー付きの白ベースのコートに黒と赤の装飾が施されており、靴は一部鋼鉄を使ったブーツを履いている。そして何より二本の長剣が自己主張している。グラムとティルヴィングは大切なハイドの愛剣、その性能もさる事ながらデザインが素晴らしいの一言だ。刃はそれぞれ薄い蒼と淡い翠だ。剣を振れば後を追うようにそれぞれの色が後を追うように軌跡を描き、彼の操る二本の剣はまるで流れるように敵を切り裂いていく様は宛ら踊っているようだと言われていた。


「フォルテスタ、この道で合っているのか?」

「はい、もう直ぐのはずですよ」


 その台詞はこれで3回目だぞ!と突っ込んでやりたかったが…。似たような作りだから正直マップが無いと分かんねぇよ!と内心叫びたかった俺だが、そこは抑えておく。


 更に30分程歩いた俺たちは完全に迷っていた。そう、迷っていたんだ。


「なあ、フォルテスタ?」

「……なんでしょうか、ハイド様?」

「これ、しっかり迷ってるよな?」

「…そうとも言えなくもないですね。」


 こいつは…。もはや言葉が出ないが、ここはそんなことを言っても仕方がない。ちょいとそこらの奴捕まえて聞いてみるか。

 そう思い更に歩くが、なかなか見つからないがようやく見つけたのがこのちんちくりんだった。


「すまない、道を聞きたいのだがいいか?」

「うむ?なんだお前らは?」

「申し遅れました、わたくしは双焔乃神 ハイド様に仕える補佐官のフォルテスタでございます。この度は貴女様の姉御のスクア様に会いに参りました。」

「うむ?お前が仕えているのはバカールではなかったか?」

「そうですね、つい先日までアレに仕えていましたが…」


 そう遠い目をするなよ、フォルテスタ。最近ぐうたら具合が酷いからって…。それにしても、スクアの妹か。神でも親族がいるんだな等考えていた。

 おっといかんいかん、ちゃんと挨拶しておかねばな。


「すまないな、俺はハイド。今はフラールの代行をしている。」

「なるほど!代行か!。納得、納得。するとこの男はかなり有能という事か!」

「それはもう!。あの駄女神とは違います!」

「ふははは!?。という事は、アレを蹴落としてこの男を据える気なんだな?」

「左様でございます。ステータスをご覧になったら納得頂けるかと。」

「ほぅ、其処まで自信があるか!」


 当の本人である俺を置いてけぼりにして二人は話を進める。ちんちくりんがニヤリと笑いながら此方を観察している。何ともあの笑い方は駄目だろう、女の子としては…。

 どうやらステータスを確認したようだ。まあ、女神の妹だからそれなりの実力もあるし、此方としては信用を貰えるのなら構わない。


「なんじゃ、コレは!?。性別消失とな!!」


 喰いつくとこそこかよ!?。


「お気づきになりましたか?。あの方は今は男性ですが、女性にも自由自在、という訳です!」

「夢が広がりングだな!」

「流石です!ヒューエ様!?」


 何だろうか、俺の話なんだが関わり合いたくない気がする…。むしろ積極的に避けたい話題だな!。


「フォルテスタ、それよりも案内をしてもらった方が…。」

「コホン、失礼しました、ハイド様。ではヒューエ様、スクア様の所までご案内頂けますか?」

「おっとスマンスマン、そうであったな!。では行こうではないか!」


 それにしても、と思う。この神殿は、水と廻り還る事を司る女神スクアの神殿だが至るところに水が流れている。サラサラと流れる音は心を落ち着かせてくれるが、それは同時に無防備になりかねないという事だ。

 そのことに関して、少し危険だなと感じた。

 そしてヒューエの案内で歩く事数十分、ようやく女神スクアの元へとたどり着いた。

 彼女は広い部屋の中央にいた。水を思わせる水色の髪、深海を模したかのようなエメラルドグリーンの瞳に手にはトライデントを握り其処に佇んでいた。女神の真白のワンピースに加え、水の羽衣が妖艶さを出していた。


「姉様、お客人を連れて来たぞ。」

「ご苦労様です、ヒューエ。」


 その澄んだ声は、神殿内に響き渡る。

 俺は構わずツカツカと歩み寄る。彼女はこちらを視界に捉え、微笑んでいた。これは、健全な青少年はイチコロだろうなと思うくらいに綺麗だったのは言うまでもない。


「貴方が、焔愛の女神の代行をしている方ですね?」

「…、よく知っているな。」

「それはもう、あの神殿は仕事が溜まりすぎててんてこ舞いが基本ですが、最近は落ち着いているともっぱらの噂ですよ。」

「あいつは…。」


 流石の俺も呆れざるを得ない。他の神殿まで、フラールのぐうたらッぷりが伝わっているという事だからだ。ホント、マジで仕事しろよ…。


「まぁ、彼女の気持ちも解らなくは無いのですが。永い時をこの神殿や、館で過ごしていると退屈になってしまうのですよ。」

「だからと言って自分の仕事を放棄する事は駄目だろう。確かに適度な息抜きが必要ではあるだろうがな」


 そう言うと、横にいたフォルテスタが頻りに頷いていたのは言うまでもない。

 雑談はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろう。


「すまない、今日は雑談をしに来たんじゃないんだ。」

「あらあら、違いますの?」

「あぁ、今日は聞きたい事があってな。」

「聞きたい事、ですか。スリーサイズは上から」

「そんな情報は今はいらん」

「あら?今はという事は後に聞きたいという事ですの?」


 何だろうか、女神はみんなこんなのなのか?。マトモなのは居ないのか?。


「冗談はこれくらいに致しましょう。それで、わたくしに聞きたい事とは何ですか?」

「魔族の地、神々に見放された大地の事だ。」


 俺がそう言うと、頭の上にはてなマークを複数出すみたいな反応だった。やはり知らないかと思い、俺は確信した。何かある、あの地には。


「やはり知らないか。」

「どういう事ですの?」

「フラールもな、知らなかったんだよ。自分の神殿に移動用の魔法陣があったにも関わらずに、だ。」


 そう言うとスクアもヒューエも驚きを隠せないでいる。まるで信じられないといった顔だった。


「フォルテスタよ、それは本当なのか?」

「はい、私はおろか、フラール様ですらその存在を今まで知らなかったのです。


 フォルテスタがそう言うと、スクアは直ぐに部下を呼びつける。


「お呼びでございますか?」

「この神殿の移動用の魔法陣を今すぐ調べなさい。」

「今すぐに、ですか?」

「そうです!今すぐにです!」


 今のスクアには先程までの余裕が無かった。それもそうだろう、自分の神殿に得体の知れない場所への移動用の魔法陣があるかも知れないのだ。

 情報が足りない。それも圧倒的に、だ。おそらく調べるのは少し時間が掛かるだろうし、スクアの気を紛らわせる為に何か話題を振ろうか考えていたら横から声がした。


「スクア様、この方のご紹介をさせてもらいたいのですが!」


 眼鏡をキラリと輝かせ、ニヤリとする。その笑みやめれ。だが、その笑みをしたのはフォルテスタだけではない、ヒューエもだった。


「おお、そうだそうだ。姉様、この男が噂のハイド殿。フォルテスタ曰く、非常に夢のある男みたいでな!」

「ゆめのある?」

「そうなんですよ!」


 そう言ってスクアに耳打ちをすると、スクアは「まあ!まあまあまあ!!」と目を輝かせてこちらを見ていた。


「なにか?」


 もちろんスッとぼける。大体予想がつくしな、どうせ女性化(アレ)の事だろうしな。正直あまりなりたくないのが本音だ。


「み・せ・て?」

「だが断る!!」

「えぇ〜、何でですか?」

「そうだぞ、見たいぞ!」

「ほらほら、ハイド様。このお二人がここまで言っておられるのです、ここはスパッと見せて楽になった方が…」


 ぶぅぶぅとぶうたれるスクアとヒューエ、よだれを垂らしながら息荒く擦り寄ってくるフォルテスタ。

 正直言おう、最近のフォルテスタはちょっとキモいし怖い。ほんと、マジないわ。


「ちょっ!?ハイド様!それは酷うございますよ!」

「あぁ、すまん。口に出ていたか。だが安心しろ、本音だから。」


 そう言うと膝をつき、なにかブツブツと言っていた。こんな時は放置だな、放置。そう思いスルーしスクアに話しかける。


「それとだな、フラールは一時女神の仕事が完全に出来なくなる。」

「そうですか、まぁ彼女は最近女神の仕事もしてなかったようですし…。そちらも貴方が?」

「そうなるな、その時は女の姿にならざるを得ないだろうが…。」


 そう言うとスクアは、「ではその時は見学に参りますね」としれっと言い放った。


「会合も今後は貴方が参加でよろしくて?」

「会合?そんなものがあるのか?」

「あらあら、フォルテスタから聞いておりませんの?」


 そう言うと全員がフォルテスタの方へ視線が集まる。クイっと眼鏡を上げ、答える。


「すみません、会合の事失念しておりました。何分あの駄女神が何時もサボっていたので…」

「まぁ、いいだろう。その時は参加させて貰うさ。」

「では、その時に他の皆さんにお披露目ですのね」

「お披露目?。まぁ、他の女神とは初対面になる訳だが…。」

「うふふ、新しい焔愛の女神として紹介するから!」

「いや、それは別に…」

「では姉様!他の方々へメッセージを送られては?」

「イイわね!流石よヒューエ!!」


 あぁ、なんか知らないところで変な話が進んでいく…。


 そんなことを思いながら、ハイドは焔愛の館へと帰るのであった。

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