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03

 焔愛の女神の神殿の転移魔法陣から移動したハイドとフラール。視界を包む紫の光が収まったらそこは、既に別の場所だった。かつては神殿だったであろう場所。柱は一部折れ、所々は既にひび割れ無残な状態と言わざるを得ない。


「…廃墟、だな。」

「ええ、廃墟、ですわね…。」


 俺は振り返って通ってきた魔法陣を見やるが、そこはには風化しひびの入った石床が無残な姿で主張していた。


「ひとまず、ここを出よう。」


 俺の言葉にフラールも「こんなところ嫌ですわ」と答え同意したので、俺たちは足早にその場から移動した。元は立派な神殿だったのだろうが、外に出るとその無残さが余りにも目立った。建物はほぼ倒壊寸前で、最早どの女神を信仰していた神殿か分からないほどだった。


「酷いですわね」


 フラールのその言葉に俺は「ああ」としか返せなかった。見ているだけだが何故か胸が締め付けられる、そんな感覚に襲われたのだ。

 俺は心の中で行ってくる、と呟きその神殿を後にした。


 歩き出して感じたことだが、この土地はかなり痩せており植物もろくに育っていないという事。乾いた土に空には厚い暗雲と最悪である。

 ハイドはしゃがみこみ土を触り確かめる。するとボロリと乾いた土の塊が崩れ、風に舞って手から消え去った。


「これは…。こんなのじゃろくに作物が出来ないだろうに…。」

「この様子では、他の女神の加護も届いてはいない様ですね…。」


 フラールも俯き唇を噛み悲しんでいる。よもや自分たちの加護のない場所が世界にあるかと信じられない思いのようだ。恐らくこの地ではどう足掻いても作物は枯れ果てるだろうし、生物の生態も狂いいずれは人の生活できない地へと成り果てるだろう。今はその一歩手前で、まだやり直せる範囲ではあったが時間がかかるのは事実だ。


「他の女神に協力を仰げないか?」

「そうですわね、この世界にこの様な土地があってはなりませんし」


 よかった、フラールは乗り気のようだ。


「なら戻ったら頼んでみるか。」

「あの女神(かた)たちに頼むのは気が進みませんが、人々の為ですもの」


 あー、フラールよ、正直お前のヒエラルキーはフォルテスタが下に見ているくらいだから他の女神も似たような感じなんだろうな…。


「ハイドさん、あなた今失礼な事考えませんでした?」

「…気のせいだろう。」


 チッ、変な所で感との良いヤツめ。


「取り敢えず、この問題は帰ってからだ。まずは人がいないか探そう」


 俺がそう言うと、フラールは「魔力探知した方が早いのでは?」と言い放つ。


「魔力探知って、俺はそんな事出来ないぞ?」

「またまた〜、わたくしを騙そうったってそうは行きませんよ?」

「いやいや、マジで。そんなスキル俺は持ってないからな」

「……、どうするんですかぁ!私はこんなところで貴方なんかとの垂れ死ぬのなんて嫌ですからね!!」

「こっちだって嫌に決まってんだろうが!」

「全く、早く私に身体を渡せば解決なんですよ…。」


 そんな事をやっていると、前方に砂煙が上がっている。商人の馬車か何かだろうかと、俺たちは揃って期待する。だが、その期待は呆気なく裏切られる。前方から来たのは腕を手錠で塞がれながらも、捕まらないように全力を振り絞って走る少女とそれを追い回す馬車だった。


「おい、アレはなんだ?」

「そんなのわたくしに聞かないで下さいまし!」


 だよなぁ〜、知らないし普通じゃないよな〜。

 少女はプラチナブロンドの髪をたなびかせながら走っている。少しウェーブがかった癖のある髪だが、それに加え真紅の瞳がより一層少女の美しさを際立たせていた。もちろん、ハイドはロリコンでは無いがそれでも目を引く容姿だった。


「将来が楽しみだな。」

「呑気なこと言ってないで、早く助けに参りましょう!」


 たまにはいいこと言うんだな、と俺は思った。


「ム、また失礼な事を考えていますね?」

「……気のせいだろう」


 チッ、不用意に考えられんではないか!と心の中で悪態をつくが無論表には出さない。そんな事をしても意味ないしな。それよりも、今はあのロリ美少女を助けるのが先決だ。

 そう思い全力で少女に向かって走りだす。十数歩でかなりのスピードが出ているが全力ではないのが自分でも驚きだ。

 少女は自身の後ろばかり気にしていて俺に気付いていない。が、それも時間の問題だ。

 そして少女は気付く。少女とすれ違い様に抱き寄せジャンプすると10メートルほど飛び弧を描き、馬車を飛び越える。少女をお姫様抱っこしふわりと舞い降りる。


「大丈夫かい?」


 俺がそう口にすると少女は静かに頷いた。俺は「そうか、良かった」そう言って少女を自分の後ろに隠すように立った。

 馬車か6人ほど男が出てきた。ガラの悪い馬鹿どもだな、と俺は思いながら睨み合う。


「おうおう、兄ちゃん。ソイツは俺らの奴隷(しょうひん)なんだがなぁ!?」

「「「「「そうだ、そうだ!」」」」」


 面倒な奴等だな…。

 俺は少女を安心させる様に頭を撫でてこう言った。


「少し待ってろ。終わったらお前を家まで送ってやる」

「おい!聞いてんのかよ!?」

「ぶっ殺すぞ、テメェ!?」

「まぁいい、テメェを殺った後でそいつにいろいろ仕込んでやるか!」

「「イイっすね!がはははははははっ!」」


 その瞬間、俺と同時にフラールもブチ切れた。

 目つきが変わっていくのが自分でも分かる。恐らく他者から見たら酷い顔だろう。

 目の周りに模様が出て、髪も白のメッシュの量が増えた。そう少女が見ていた…。


「人の道を捨てるか、どうするフラール?」

「無論、外道に身をやつした者は裁くのが神の仕事の一つ。よって死を与えるのが最良ですわ…。」

「…だな。」


 そんな会話をフラールとしていた俺を、男たちは奇妙な目で見ていた。


「あいつ一人で何言ってんだ?」

「さぁな、頭でもおかしいんじゃないか?」

「さっさと殺っちまいましょう!」

「だな、行くぞ野郎ども!?」

「「「「「おぉ!!」」」」」


 どうやらフラールはあんな男たちに見せる姿など無いと言うことなんだろう、半可視化を使っていないようだった。

 男たちは得物を抜き此方に向かって走ってきた。

 ならこっちも行かせて貰うぞ…。


「行くぞ、グラム、ティルヴィング!!」


 そう言って二振りの剣を鞘から抜くと同時にそれぞれの剣が動くたびに淡い緑と蒼の軌跡が剣たちを追いかける様は幻想的でもあり、少女は見惚れていた。


 俺は剣をクルクルと回し、身体をならしながら走り出す。先ずは一人目、すれ違い様に左手で持っているグラムで胴を斬りつけそのままの勢いでしゃがみながら半回転し下から二人目の顎を蹴り上げる。そして宙に浮いて邪魔なので剣の腹で横薙ぎに吹き飛ばす。

 この工程を一瞬で行った。周囲の男たちは一体何が起きたのか把握出来ずにいた。それも無理はないだろう、彼等との技量などが違いすぎる。


「さて、俺は今たいそう機嫌が悪い。何故だか分かるか?」

「んな事知るわきゃねぇだろうが!?」

「まぁ、分かるわけ無いわな…。」

「仕方のない事ですわ。この様な外道など生きる価値もない…」


 なら焼き尽くすか?と俺はフラールと相談するも、「あんなケダモノに私の炎を使わないで下さいまし!」と心底嫌そうだった。まぁ、分からんでもないけど其処まで嫌ってやるなよ。俺も嫌いだけど…。


 仕方がない、と俺はティルヴィングを横に薙ぐと剣圧で地面の一部が剥がれ賽の目切りされていた。

 浮き上がった賽の目大地をハイドが剣の柄や足を使って男たちに飛ばしていくと、全て物の見事に命中していく。そしてハイドは止めを刺すことを忘れない。男の一人は首を刈り取られ、またある一人は心臓をくり抜かれ確実に屠っていく。そして最後の一人は男たちの中心人物だった男。

 ハイドはこの男たちに興味など微塵もないので名前など教えられても覚える気などさらさらない。むしろ言われても迷惑だろう。


「た、助けてくれ!金なら幾らでもやる!だから!?」

「……、で?」

「いや、だから、助けて…」

「訳がわからんな、今からお前を殺すのに何で助けなきゃいけないんだ?」


 俺はコイツ何言ってんだ?みたいな目で喋っていた。そして、容赦なく上から下へとグラムを滑らせると男は崩れ落ちた。

 周囲はおびただしい迄の血の量に加え、死臭が辺りを包み込んでいた。

 ヒュンヒュンと剣を振るい血を剣から飛ばす。飛ばしきったら剣を鞘へとしまい込んだ。そして俺はクルリと少女の方を向いて歩き出した。

 少女は怯えた様子もなく、ハイドを迎える。


「ありがとうございます、人間の方。」

「いや、問題ない。」


 少女の言い方はまるで自分は人間ではない様な言い方だった。


「君は…」

「わたしは、魔族です。」


 魔族、ゲームだった時は確か魔力の扱いに長けた者のことを魔族と分類していた筈だ。見た目はヒューマンと殆ど変わらない見た目で、唯一の特徴は耳が少し尖っていることくらいだった。キャラメイク時に種族を選ぶんだが、魔族の場合耳の選択が出来なくなる。これは、エルフも同様である。但し、装飾品なんかは確か選べた筈だ。

 っと、そんな事よりもこの少女だ。


「そうか、魔族なんだな。と言うことは魔術師タイプ、なのか?」

「はい、わたしは魔族の中でも魔力が高い様なので…。」

「そっか、それは大変だったんじゃないか?」


 そう言いながら、少女の頭を撫で始める。最初目を瞑り怖がっていた様なのだが、撫で続けているうちに顔がにやけていた。

 うむ、可愛いじゃないか。


「ロリコンですの?」

「違うわ!」


 突然俺が大きな声を出したので、少女はびくりと体を震わせた。


「すまない、君に言ったんじゃないんだ。ちょっと待ってくれ」


【焔愛の女神 フラールを強制半可視化させますか?】

 メッセージウィンドウにそう表示され、はいを選びフラールを半可視化させると少女は驚き身を見開いていた。


「この方は?」

「焔愛の女神 フラールだ。知っているか?」


 その問いに少女はこくんと頷いた。何でもこの地では女神の見放された地と揶揄されているらしい。


「だそうだぞ、フラール?」

「そのような事を言われましても…。私たち女神がこのアルファガイアを見放すなんてあり得ませんわ!」


 腕を組み思案する。何故か気になる。俺の中でモヤモヤとするこの感覚は何なのだろうか。

 情報が少なすぎる、本当に一旦帰って神殿や館内、はたまた他の女神にも会わなければいけないだろうと考えていた。だが、コートを引っ張られて思考が其方へと強制的に向かわされた。


「ん?、どうした?」

「送って、くれるんでしょ?」

「あぁ、そうだったな。じゃあ、行くか。」


 そうやって歩き出すも、「そっちじゃないよ」と早くもダメ出しをくらった俺だった。


 そして歩くこと数時間、辿り着いたのはやたら高い門だった。どうやら町全体を覆っているらしいその壁は非常に高く、また対魔力コーティングされているようだった。


「凄いな、コレは…。」

「大きい、ですわね…。」

「早く行こ?」


 そう言って少女の後を追って歩いて行くと、門衛がこちらに気がついた様だった。


「ッ!?」


 二人いた門衛のうち一人が中へと入って行き、暫くしたらワラワラと大量に人が出てきた。

 ドドドっと砂煙を上げながら一人のメイドが猛ダッシュで向かって来た。


「マシューリアさまぁぁぁぁ!!!!」


 俺は直感的に思った、こいつはヤバイ類のヤツだと。そしてその直感は当たる。

 猛烈な勢いで少女に抱きつき滝の様に涙を流し泣きついていた。愕然とする俺など気にもしていなかったのは言うまでもない。


「して、マシューリア様、そちらの人間は?」

「わたしを助けてくれた人。後ろにいるのが女神さまよ」


 先程とは打って変わって、きっちりとした姿勢でまさに使用人の鑑と言わんばかりの態度で挨拶をしてきた。


「この度は我らが主、マシューリア・ザルク・フォン・ファンクベルク様を助けていただき誠にありがとうございます。」

「いや、それは良いんだが…。すまないな、俺も時間がない。一応これを渡しておく。」


 そう言ってゴトリゴトリと出したのは、少女にかけられていた手錠だった。魔封石で出来た手錠。魔封石とは魔力の操作を阻害する石である。ゲームだった時もこの魔封石で作ったアイテムで結界を張り、レイドボスの魔法を封じていたのは記憶に新しかった。


「こ、これは!魔封石!?」

「対魔封石用のアイテムを作った方がいい。君たちには死活問題だろう。それと、マシューリア、でいいのか?」


 俺が少女に向かって名前を言うと、其処彼処から「人間ごときがマシュ様を呼び捨てだと!?」といった声が聞こえたが俺はスルーして続けた。


「お前にはこれを」


 そう言うと、思惑通りメッセージウィンドウが現れた。


【双焔神の加護を対象に付与しますか?】

 効果内容は以下になります。

 地形からの炎属性影響を80%軽減し、全状態異常をかかりにくくする (60%で防ぐ)。また、炎属性攻撃を吸収しダメージの5%を魔力に変換する。


 俺は迷わずはいを選び、加護を付与する。ポゥっとほのかに紅く光った後には指輪が嵌められていた。


「今のは?」

「俺の、双焔乃神としての加護だ。その加護がお前を護ってくれる様に、な?」


 そう言った直後に、天から翼を生やした女性が舞い降りてきた。フォルテスタが自身の眼鏡をクイっと上げこう告げる。


「参りましょう、ハイド様。」


 要約するとこうなる訳だ。「お仕事です、ハイド様!。帰ってきてください!駄女神はいりませんけどね!」何ともフラールのヒエラルキーの低さが伺えるがまぁ良いだろう。


「分かった。」


 そう言って踵を返すと少女が叫んだ。


「また!また、会えますか!?」


 必死に叫ぶ少女に、彼はこう言った。


「折を見て様子を見に来てやるよ。それまでいい子にしているんだそ?」


 そうして焔の神と、一人の少女の出会いが成されたのだった。

出来るだけそれなりの頻度で更新していく、よ?

ホントだよ?


がん、ばる、よ?

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