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02

 ぼんやりとしている意識が次第に覚醒していく。身体に触れている冷たく硬い感触。

 これは起きないと身体が痛くなるタイプのヤツだな。一つ一つ確認していく。先ずは指が動くかどうか、次に腕、足先から脚全体へと範囲を広げていく。


 あぁ、問題ないようだ。これならば、とゆっくりと瞼を上げていく。自分がうつ伏せである事は感触で分かっていたが、これは長時間だったらかなりキツかっただろう。


 石造りで出来た神殿の様な場所だった。


「見たことない場所だな。何処だ、ここは?」


 そう独り言を呟きながら立ち上がる。

 やはり、見たことも無い場所なのは間違いない。それにしても、神殿ならば他にも人が居ても良いのだが…。


 そんな事を考えてもいると、何処かからガチャガチャと鎧を着た状態で走っている様な音が響いてくる。

 恐らくはこの神殿の衛兵かも知れない。どの程度の強さなのか気になるところだが、今はそれどころではない。そんな事よりもより多くの情報が欲しいが、どうやり過ごすか思案しているとどうやら遅かった様だ。


「いたぞ!!賊だッ!?」


 槍を携え、鎧を着込み翼の生えた男が周囲に聞こえるように叫んでいた。


 マジか、面倒な。そう思いながら、愛剣であるグラムとティルヴィングを抜く。

 相変わらず、グラムの薄緑に淡く発光している様は良い。それに負けず劣らずティルヴィングも蒼い軌跡を描きながら存在感をアピールする。


 ワラワラと、何処から出てきたと叫びたくなるほど同じような格好した者たちがひしめいていた。

 …、多すぎじゃないか?。いや、マジで。


 俺も意識を戦闘モードに切り替える。

 切り替えた瞬間に相手が数歩下がり、手が震え持っている武器か静かに揺れていた。


「行くぞ、グラム、ティルヴィング…。」


 そうボソリと呟くと同時に、二振りの魔剣を強く握り直す。そして、何時もの様に一歩踏み込んだ。だが、其処で誤算が出た。


 俺はいつも通り踏み込んだつもりだった。だが、それはいつもと比べ物にならないくらい強かったんだろう。

 小さなクレーターが出来てしまっていた。そして次の瞬間には弾丸の様に飛び出していたのである。


(おいおい、一体なんだっていうんだ?)


 俺は軽くジャンプする為に片脚をついて跳んだ。まだまだ加減が分からないが、今回は偶々上手くいき天井に当たることなく兵たちの頭上をふわりと舞った。


 敵のど真ん中に降り立つと同時に剣を振るう。淡い緑の軌跡と蒼の軌跡が様々な形を描いていく。それと同時に敵兵を容易く両断し、その命を散らせていった。


 敵の槍をサラリと避け、時にはグラムで受け流しまたある時はティルヴィングで打ち合う。

 どれだけの時間斬り合い、どれだけの時間が経っただろうか?。周りには兵の屍の山と血だまりが其処彼処に出来ていた。


「お前で最後だ、幾つか聞きたい事がある。」


 俺がそう言い放つと青ざめた顔で見上げ、身体は震え失禁までしていた。


「ヒッ!?」

「此処は何処で、お前達は何者だ?」


 俺がそう質問すると、視線を彷徨わせる。

 全く、こっちは情報が欲しいだけなんだがな…。


「もう一度聞くぞ。此処は何処で、お前達は何者だ?」


 少しだけイラついてみせると、男は泣きながら答えた。


「こ、こごは、焔愛の女神ざまのじんでんでず!」

「それで?お前達は何者なんだ?」

「女神ざまに、づがえる、兵、でず!!」


 女神、ね。一体その女神とやらは何処にいるんだか…。所謂ここはその女神の領域って事だろう。


 俺は辺りを見回す、先ほどはこいつらの所為でゆっくりと確認できなかったからな!。

 乳白色の石で造られ、灯りとして松明が有るのだがその炎が神聖さを出している。暖かな炎の光が心に余裕を持たせてくれた。


『…、…ますか?」


 なんだ?何か今、聴こえた気がする。俺はもう一度集中し声が何処から聴こえてくるのか確かめる。


『私の声が聴こえますか?。あー、面倒ですわ!なんで私がこんな事にならなければいけないんですの!?本当に意味が分かりませんわ!?』

「おい、全部聴こえてるんだが?」

『あ!?やっと返事しましたの!。この私が呼びかけているというのに無視をするなんて!?』


 …認めたくない、認めたくないんだが!。この声、なんか俺の中から出てねぇか?。いやいや、あり得んだろう。いつの間に俺は妖精さんを頭の中に飼ったんだ?。


「それで、何で俺の中から声が聴こえてくるんだ?」

『それは貴方が私を取り込んだからでしょう!?』


 そんな記憶はさらさらないんだが…。


「あ、あの〜、何方どなたと話していらっしゃるんでしょうか…?」


 羽根付き男も何とか持ち直した様だ。それにしても、今の反応からするとこの声は俺にだけしか聴こえていないのか?。


『それはそうですわ。だってその位の権限しか貴方がくれないんですもの!』

「知らねぇよ!なんだよ権限って!って云うか誰だよお前!」

『わ、わたくしを、しらない、ですって!?』


 あ、いま orz←こんな感じになったのが分かったぞ。そんな風に言われてもな、分からんものは分からん。


「それで、お前は誰なんだ?」

『クッ!わ、私こそが!焔愛の女神!炎と愛を司る、美しき女神ですわ!!』

「うわ…、コイツ自分で美しき女神とか言っちゃってるし…。」


 ていうか、こんなのが愛を司る女神って…。なんかこの世界、色々残念系なんじゃないかと思ってきた。

 いやいや、まだマシな神がいることを祈ろう。


「あ、あの!」


 突然、大きな声が辺りに響く。発生源の方を振り向くとさっきの羽根付き男が、たらりと汗を流しながらこちらを見ていた。


「あの、先ほどから何方と話しているのですか?」

「あぁ、すまん。お前達の主の焔愛の女神だな。」

「フラール様!?何処におられるのですか!?」


 縋るような眼で見られる。堂々と自身の胸を指し俺の中からだぜ!…なんて言えるか?。唯の頭のおかしな奴にしか思われねぇって。


 くるりと回れ右をしてしゃがみ込み小声で焔愛の女神 ーーどうやらフラールという名前らしいーー に語りかける。


(どうすんだよ、なんて説明したらいいんだ?)

『仕方ないですね、ここは素直に私に身体を明け渡してくれれば…』

(却下だ、却下。どうにかならんのか…)

『恐らくですが、私と貴方が一つになっているのは実験が失敗してしまった為でしょうし…。』

(おい、今聞き捨てならない事を聞いた気がするぞ?)

『そんな事は後で良いでしょう。この状況、貴方も私も望んだものではない、という事ですし。私が直接説明出来れば良いのですが…。』


『焔愛の女神 フラールが半可視化の許可を求めてきています。許可致しますか?』


 ほぅ、半可視化とな。これはいけるんじゃないか?。ひとまず此処は許可をする方向でいってみよう。

 俺は迷わず許可する方を押す。するとどうだろう、俺のすぐ側に紅く長い髪を揺らめかせながら綺麗な女性が立っていた。勿論半透明だがな!!。


 俺もゆっくりと立ち上がり目線を合わせる。


「喋れる、んだよな?」

「えぇ、大丈夫ですわ」


 じゃあ、説明宜しく!と言わんばかりに俺は羽根付き男の方へと視線を向ける。


「心配をかけましたね。あなただけではなく、フォルテスタにも聞いておいて欲しい話です。呼んできて頂けますか?」

「は、はい!仰せのままに!!」


 羽根付き男は喜び勇んでこの場を後にした。さて、どんな話が飛び出すか楽しみではあるが…。

 っとその前に一応ステを確認しておこう。この確認をしておかないとは、駄目だな。何か変な事になってないか不安だしな。


 そう思い、俺はランチャーを出すために左手で半月を描くように振る。VRMMOならではの直感的な操作だ。癖になってつい現実でもしそうになるけどな…。


 そう思いつつ、ランチャーの中のステータスを選択する。


名前:【ハイド】Lv.650

種族:【神族】

職業:【双焔乃神】

称号:【焔愛の女神】(全ステータス大UP、****)


HP:3940/3940

MP:4680/4680

STR:3420

VIT:2900

DEX:3870

INT:4110

MDF:3560

AGI:4290

LUK:99


 …なぁ、これ可笑しくねぇ?。あり得ないだろうが!なんだよLv.650って!いやいや、その他のステータスもヤバいからね?ちょっ!STR3000超えとるやん…。そら力入れたらクレーター出来るわ!

 なんなんだよこれ、バグか?。


 あと称号な。【焔愛の女神】で全ステアップとなんか伏せられとるぅー!。えっ?ちょっ?バッド系じゃないよね?。違う、よな!?。

 職業もなんか違うし…。おーい、種族が人じゃないんだけど?。あー、これ運営に見つかったらBANされるタイプのヤツだろ絶対…。


 終わった、俺のVRMMOライフ…。こんなのがそこいらうろついてたらソッコーでバレるだろ。


 そんな事を思っていたら、コツコツとちょっとヒール高めの履物の様な音が響く。ついでにグリーブのカツカツという音も…。

 しばらくすると音の主が姿をあらわす。少しくすんだ感じのゴールドの髪に細めの眼鏡をかけスタイルが凄い、所謂我が儘ボディというヤツだ。胸元なんかはパッツンパッツンだし、短めのタイトスカートに黒ストッキングと出来るOLか真面目で厳しい女教師という単語が思い浮かぶ様な女性だった。


「おや、そんなところで存在感を半分にして何をしているのですか?。昨日渡しておいた報告書はどうなっているんです?。まさか、まだ、とか言いませんよね?」

「えっと、あの、それは〜…。」


 おい女神、お前は主だろう。なぜ補佐に負けてんだよ…。


「それで、そちらの殿方は一体どなたなんです?」

「はじめまして、俺はハイド。お宅の女神さんが実験とやらに失敗した挙句にそのせいで此処に飛ばされて来た憐れなプレイヤーだよ。」

「ぷれいやあというのは分かりませんが、ウチの駄女神がご迷惑をお掛けしています。ご説明して頂いても?」

「まぁ、分かる範囲でなら…。」


 そう言って、俺はこれまでの経緯を説明し始めた。最初にアスベルト平原で狩りをしていたこと、友人と話していたらノイズが走った直後に意識が飛んだことと気付いたらこの場所にいた事。問答無用で羽根付き男たちが俺を襲った事に対してはフォルテスタは羽根付き男に対して冷やかな視線を向けていた。


「貴方の事情は理解しました。ウチの駄女神は分離出来そうですか?」

「恐らく無理、だろうな。」

「やはり、ですか…。仕方がないです、こうしましょう!」


 そう言うとそのボリュームのあり過ぎる胸を張り、妙案!と言わんばりに眼鏡をクイっと上げながら言い放つ。


「ウチの駄女神に変わって女神のお仕事をして下さい。なに、簡単です。書類に了承の判子押すか却下するかの書類整理みたいな仕事です。溜め込まなければ1時間もあれば終わる作業ですよ」

「その作業が終わったら、好きにしていいのか?」

「そうですね、定期的にして頂く仕事ですのである程度溜まったら使いを出します。そうしたら、またお願いします。」

「なるほど、その空いた時間で分離する方法を探せば良いわけだな?」

「流石ハイド様です。ウチの駄女神とは違いますね。」


 そう言って微笑む彼女は凄く良い笑顔だったのは言うまでもない。

 フラール、どれだけフォルテスタに見放されてんだよ…。


 そんな会話をしながら、俺とフォルテスタは執務室へと向かう。神殿の奥から洋館へと移動する。普段はこの洋館で生活しているらしいが、フラールはたまに神殿のなかで何か実験していたらしい。その道中に彼女から如何にフラールがサボっていたかを耳にタコが出来そうなほど聞かされた。

 洋館の中をしばらく移動すると、執務室であろう扉の前まで来ていた。そしてガチャリとドアノブを捻り扉を開けると机の上には書類の山がそびえ立っていた…。


 その光景に絶句する俺と申し訳なさそうにするフォルテスタ、知らん顔をしているフラール、キョロキョロする羽根付き男 ーどうやら、アソッドという名前らしいーー と反応はバラバラだった。


「これは、また酷いな…。」

「本当に申し訳ありません…。」

「いや、大丈夫だ。元はこれ以上あったんだろ?。フォルテスタが判断出来る分は処理してくれてこの量かと思っただけだ。気にするな」


 そう言うと彼女の顔色が少し良くなった。

 さて、これを処理、か。さっさと終わらせたいからな、全力で処理するぞ。そう思った時だった。


 隣にいるフォルテスタが驚き口を押さえている。その後ろで羽根付き男はガクガク震えていた。


「ん?どうした?」

「あ、いえ。急に目の周りに模様が出たりしたんで驚いただけです」


 丁度鏡があったので確認すると今度は俺が驚いた。なんじゃこれは!目の周りに見た事のない模様があり髪は黒髪から黒髪ベースに白のメッシュと言えば良いのだろうか。


「くっ、色々不満はあるが、此処はこの山を処理する!」


 そう言って物凄いペースで書類の山を捌いていく。あの書類の山をおよそ二時間程度で片付けてしまった。


「あぁ、最高です、ハイド様!。こんなにも早く業務が終わるなんて!あの駄女神とは違いますね!」

「これで一応終わり、だよな?」

「はい。一時は大丈夫かと思います」

「わかった、それじゃあ一旦ここを出るから何かあったら使いを寄越してくれ。」


 そう言って部屋を後にする。もちろんフラールを連れて。そのフラールの案内でやって来たのは先程の神殿内の別区画。魔法陣が8つ程ある。

 その中でも手近な魔法陣に入る。どうやらこの魔法陣が転送してくれるらしいので躊躇せず入る。しばらくすると目を瞑るほど眩い光が視界を塞ぐ。


 そして、気付いた時には見知らぬ場所に立っていたのだった。

どうも、二度目です。

白凪 ありすの片割れの白です、よろしくお願いしまーす。


前回に引き続き、白だけです…。

申し訳ない!。


ありすくん今忙しいので一時は白だけかも…。

寂しい(T . T)

でも頑張る!


あと、ご意見やご感想お待ちしてます。

それでは、3話でお会いしましょう〜


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