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「私と勝負する事だ!。私に勝つ事ができれば、ハイリア、お前を次の焔愛の女神として認めてやる!」
ルルベムはそう口にして、俺を指差す。本音を言えば、そんな事しなくていいから代行のままにしてと言いたくなる。
全く、迷惑な脳筋だな。そうは言っても、彼女は筋肉質では断じてない。寧ろ、かなり女性らしいしなやかなラインだ。
男としては、目のやり場に困る感じだな。まぁ、それは今の俺も言える事だが…。止めよう、なんか悲しくなる。
「それはちと酷というものじゃないかのぅ?」
「そうですね、如何に彼女が優秀とは言えそれは余りにも…。」
ソルスとラエノがそう言う。まぁ、正直面倒だから戦いたくはないな!。ふと横を見ると、フラールが頬を膨らませていたが敢えてスルーしておこう。
「こちらとしては、別に代行で構わないのだが?」
「あらあら、それではオモシロ、もとい貴女の元で働いている天使達に悪いです。」
ヲイ、今本音が漏れたぞスクア…。ジト目でスクアを見たら視線を外していた。
「はぁ、それはいいが、着替えさせてくれないか?。流石にこの格好では戦いにくいし、破きでもしたら折角作ってくれた者達に申し訳ないからな。」
そう口にすると、周囲の者達は「何言ってんだ?」的な顔をする。それはこっちが言いたいがな!。
「物質変化させれば良いだろう?」
「……、はっ?」
何を言っているんだ?。物質変化とかマジ無理だから!。
ルルベムは逆に何でできないんだ?って顔をしていた。いやいや、こっちは半端者だぞ?。
「とにかく、すまないが着替える時間を貰う。」
「しょうがない、先にコロッセオで待っているよ!」
そう言ってスクア以外の女神は先に魔法陣で転移して行った。ニコニコしながらこちらを見てくるスクア。
「はぁ、にやけすぎじゃないか?」
「そうですか?。でも、今日やっとあなたの実力が見れるんですもの。こんなに嬉しい日はないわ!」
「まったく…。着替えたら転移してくれるか?」
「勿論よ。私がいないと場所、分からないしね?」
「初めてだからな、行くの。」
そう言いつつ、二人して焔愛の館の執務室に転移しスクアにはそこで待っていて貰う。
「すまないが、ここで待っていてくれるか?」
「良かったら私も手伝いますよ?」
そう言ってするりと近寄り、胸に手を這わせゆっくりと指を下腹部に下ろしていくスクア。
待て待て待て待て、そんな関係じゃないだろ、俺たちは!。急いで離れ自室に篭る。
「最近のスクアは悪戯が酷いな。」
そう言いつついつもの服に着替えを済ませ、男に戻る。鏡でおかしなところがないかチェックし、スクアがいる執務室に向かった。
「すまない、待たせてしまったか?」
「ふふ、何だかデートみたいですね?」
「茶化すなよ…。」
そう言っても、ニコニコ顔を止めないスクアだ。俺はこれから戦いなんだけどな!。まったく、変な提案なんかしないで欲しい。
「それじゃあ、頼む。」
「はい、頼まれます♪」
そう言って、やはりニコニコ顔をしながら魔法陣を展開するのだった。
「フラール、今から戦う相手だが…。」
「知りません!。そんな事、スクアに聞いてみたら良いではないですか!?」
何故かフラールの機嫌が悪い。どうしたものか…。そう思っていると、スクアが俺の腕に纏わりつく。
「そうですよ、ハイドさん。私に聞いてくださいよ」
「悪い、スクア。今はフラールに聞いているんだ。すまないが黙っていてくれないか?」
スクアが俯き黙る。しかし、俺はこの事に対してはキッチリしておきたい。確かに、スクアには世話になったがそこまで親しい訳では無い。そうなると、やはり俺としてはフラールから聞きたいし何より不機嫌なあいつは見ていて嫌だ。
「すまないフラール。ルルベムの事を教えてくれ。」
そう言うと、チラチラ伺いながら口を開く。
「ルルベムは、雷戦の女神と云われる神です。魔法は雷属性を得意としますが、特筆すべき点はやはりその戦い方です。彼女はソニックブラストと云われる独自の歩法で高速戦闘を行います。そして、このソニックブラストは常に自身に雷属性を付与し全てのステータスを一時的に底上げします。最悪のコンボはソニックブリッツとパルス・トニトルスです。正確には、ブレイブ・オブ・ヴォルテックスですが。」
「女神のユニークスキル、か?」
「はい、瞬間最大火力は現在の女神の中では抜きん出ています。コロッセオの防御結界でも消し飛び兼ねません…。」
成る程な、これは厄介だな。それにしても、流石は雷と戦を司っている女神だな。聞くだけでも、相手をしたく無い。
正直、勝てる自信なんて皆無だぞ…。って思ったんだが、そもそも戦う必要無いんじゃないか?。そこんところについて聞いてみよう。
「なぁ、思ったんだが、コレって戦う必要あるのか?」
「……、正直に言いますと、必要ないですわね。別段、代行と言うだけでも業務は出来ますし…。」
俺とフラールは同時にスクアを見る。おい、そのニコニコ顔で誤魔化そうとするな。
「無駄骨じゃないのか、これ?」
「まさか、そんな事はないですよ?」
「なら、わたくし達とルルベムさんが戦って何か得があるんですの?」
ジト目でフラールがスクアを見やる。視線をそらすスクアを俺は見逃さない!。何か隠してやがるな?。
「正直に答えろ。俺とルルベムが戦って何の得が、お前にあるんだ?」
その瞬間、スクアの身体がビクリとする。俺は思わず、人生初の壁ドンってヤツをしてしまった。
「隠すな、答えろよ。俺とルルベムが戦ってお前に何の得があるんだ?」
間近で見るとやはり女神、顔は整っている。スクアの顔との距離は数センチだ。近い近い。
顔を真っ赤にしたスクアは、僅かながら震えていた。俺はグイッと身体を引っ張られる、フラールに。
「フラール?」
「い、いいい、いけませんよ!。あんなにち、ち、近付いては!。貴方は、……ごにょごにょ。」
フラール、すまん、最後の方マジで分かんない。何言ってんだ?。
「それよりも、そろそろ行かないとヤバくないか?」
「それもそうですね、では行きましょうか?」
しっかりとフラールを引きずっていき、魔法陣へ入る。眩しいくらい光った後、やはり場所が変わる。何とも便利な移動手段だ。
コロッセオの中を移動し会場へと向かった。勿論先導してくれたのはスクアだ。あの悪戯癖さえ無ければ、非常に良い女だと俺も思うのだが…。
まぁ、それは後で良い。今はルルベムとの戦いに集中しなければ…。
コロッセオの中心には、戦闘準備万端のルルベムが仁王立ちしていた。華美な装飾を施された鎧に盾と槍。盾は円型で、中心には雷の紋様にルーンらしき物が彫られている。槍はトライデントタイプだが、より攻撃的なデザインだ。黄金色だが、赤い線が槍全体に彫られ禍々しさと美しさが相まっている。
「ふむ、遅かったな!」
「悪い、少しばかり悪ノリした奴がいてな。」
男の状態で出てきたので、他の女神も動揺した。
「さぁ、とっとと始めようぜ。仕事が山積みなんでな!?」
そう言って俺は、二本の剣を構えるのだった。