遊亀は、人に怯えています。
目を覚めると、遊亀は、
「キャァァァーー!」
悲鳴をあげる。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「遊亀様」
さきは、そっと声をかける。
「大丈夫ですわ。傍におります」
「……さ、きちゃん……」
「ご安心下さい。周囲には私たちがしっかりといますので、安心して下さいませ」
「ご、ごめんなさい……」
うえぇぇ……
泣きじゃくる遊亀を、そっと肩を押さえる。
「大丈夫ですよ。謝らなくてはいけないのは安成です。共に出掛けたのに、遊亀様をお守りできないとは……情けない!」
「ち、違うよ。安成君は大丈夫。悪くないの……私が……怖くて……」
しゃくりあげる。
「ごめんな……うちは……12才の時に……同い年の男数人に襲われかけて……怖くて、ダメなんよ。近づかれると硬直する。やけん……無理なんよ……」
「でも、安成に言われましたが、安房様にあのようにひどい目に遭わされては、もっとお辛いでしょう……」
「大丈夫……えぇぇ?」
左腕に棒が巻き付けられている。
「こ、これは……」
「何度も殴られ蹴られたそうですね。庇われた腕が折れているそうです。大事になさって下さいませ」
「か、帰る! 帰る!」
「どちらにですか? ここは島です。外に出ることなど……」
「帰る!」
逃げ出そうともがく遊亀に、静かに近づいた安成は、
「無理です。遊亀どの。逃げることはできません。貴方は生きるのです。この島で!」
「何で? 私は!」
「生きなさい! 私にはあれ程言ったのに、尻尾を巻いて逃げるのですか?」
「なっ!」
遊亀は安成を見つめる。
安成は、繰り返す。
「貴方は生きるのです。あの男一人に怯え、尻尾を巻いて逃げ出すのですか? 貴方の知っている未来に、この島を巻き込まれないように!……前を向いて生きませんか? 遊亀!」
「うちは舟は解らんのよ! 大潮は解る! 新月と満月の時には、大潮! でも、満潮干潮とか……」
「それで?」
「それでってどうするんよ!」
遊亀は食って掛かる。
「戦えっていうんやろ?」
「言ってませんが? 生きなさいと言っただけです。私にも言いましたよね? 未来は変わる。貴方が知っているのは伝説で、真実ではないと」
「でも……」
「『女は度胸、男は愛嬌』と言っていたのは誰でしたっけ?」
悔しそうに、ムムムッ……と顔をしかめる。
「逃げられないのですよ。まずは生きませんか? 一緒に、道を見つけませんか? 大丈夫ですよ。姉も、周囲の皆も、貴方を信じていますよ」
「そんなこと簡単にいうなって言ってるの!」
「はいはい。では、ちゃんと元気になって下さいね。良い子にしていて下さい」
「腹立つ~! 安成君の癖に~!」
癇癪を爆発させる遊亀に、
「はいはい。では、休んで下さいね」
「あぁ~! 益々~!」
「遊亀様。お休み下さい。又、湿布生活ですよ。お薬も届いております」
さきの一言に、
「わぁぁん! 不味い~! 寝てなきゃいけない……うぅぅ……勉強する……負けるもんか……」
涙目で宣言する遊亀だった。