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遊亀は、運動よりも手先が器用です。

「くぅぅ……無念! 寝込むほど、打っているとは! それに手足も……」

「大丈夫ですか? 姫様」


 傍についているのは、安成やすなりの姉のさきである。

 しかし、年を聞くと年下であり、事情も知っているらしい。

 医師と言うよりも、薬師くすしに近い存在が、先程ペタペタと湿布していったのは薬草らしく、痛み止も飲まされた。


………非常に不味かった。


で、横になっているのだが……。


「あ、姫様なしで。遊亀ゆうきでいいよ。さきちゃん。う、私は29だし。おばちゃんじゃーん!」

「に、29ですか?」

「そだよ~」

「け、結婚は……」

「してませーん。毎日必死に働いてます! それで……うふうふうふ」


にまぁぁ……と言うよりも、にこにこ~と笑顔になり、


「テディベアの作家さんになるの~! 綺麗なお洋服着せてね~? 皆に喜んでもらえるように」

「て、てでぃべあ?」

「あ、えーと、熊をモデルに作ったお人形……かな? ちょっと待って」


袋を引き寄せ、中身を確認すると、


「あったあった。はい。この子がテディベアだよ。手足が動くようになってるんだよ。さきちゃんにあげる」

「えぇぇぇ! き、貴重な……」

「う~ん? 自分で作ったから、そんなに。こっちでの価値は計算できないけど、気持ち。道具はあるけど部品に布がないから……うーん。あったかなぁ……あったあった!」


取り出した物に呆気に取られる。


「何ですか?」

「簡単に、そのテディベアを作れるセット……えーと、一袋。綿と裁縫道具と糸だけ準備したら出来るよ。二人。あ、でも……安成君には内緒だよ~?」

「内緒と言うのは?」


 突然、姉の後ろから登場した安成に、遊亀はとっさに逃げようとして、


「ウギャァァァ~! イタイイタイ!」


悲鳴をあげる。

 さきは慌てて落ち着かせ、


「安成? 遊亀様に何をしているんです! 子供じゃあるまいし!」

「いえ、一応色々と準備や、遊亀殿のことを伝えて戻ったら、私の名前が出たので……」

「うえぇぇん。これは、実は……友達の、結婚式の時にプレゼント……婚礼のお祝いに贈る物で、花嫁さんと花婿さんがいて……」


表を向けて示す。


「ほら、こんな感じで……。鶴姫の恋人である安成君には可哀想かなって、思ったんだもん……うえぇぇん、痛いよ~!」

「あら、可愛い」

「ふーん。何? これ、犬?」

「熊! 多分ポルトガル語は、知っていると思うけど……英国の言葉でベア! テディは人の名前」


 安成は、ハッとする。


「ポルトガル語?」

「あ、わーすーれーてーた! 忘れて忘れて!……やばい……ポルトガル語が入るのは、1543年だったよ……それに、ズボンもボタンもかぼちゃもポルトガル語だった……」


 ボソッと呟く。


「そのポルトガル語……と言うのは?」

「忘れないと、この子のこと教えてあげないよ? さきちゃん。一緒に作ろうね~?」

「あの、そう言えば、遊亀様? 鶴姫様とこの子、恋人ではありません。見ての通りどんくさく、気が小さく、海に出られない子ですので、気の強い鶴姫様に『情けない! 越智家の人間が!』と言われてましたの」

「姉上!」

「あー、そっかそっか、越智家ね……」


 ちなみに、瀬戸内海地域に越智家は多いらしい。


「ほほー。じゃぁ、二人のお姉ちゃんから『安成君に早くお嫁さんが来ます様に』って、これを作ってあげるからね? 綿ある?」

「綿は……織物に……」

「あ、そうだよね~じゃぁ、元に戻って、鉋屑かんなくずじゃなくて、丸太を削っていく時に出来る木屑ある?」

「はぁぁ?」


 二人は呆気に取られる。


「それとか、割れ物を詰める時に、木を削ったりするでしょう? それを頂戴。詰めるから」

「えっと……数日内に」




 返事をした数日後、大分良くなった遊亀の元に、持ってくる。


「上等! じゃぁ、服は仕立てたし、木屑を詰めちゃおう」


 遊亀はさきにやり方を説明しながら、作り始める。

 手足に、頭部を木屑でパンパンにし、目をつけて、鼻を刺繍、耳をつけ、繋いで仕上げて、服を着せていく。


「できたぁぁ~! ほら、お姉ちゃんからあげるよ~! 結婚できますように~! 恋人見つかりますように~!」

「はぁ……えーと、もらってどうするんでしょう?」


 困惑気味の安成に、


「あ、そうだねぇ。男の部屋にこれあったら引く?」

「……微妙ですね。でも、安成ですし、大丈夫でしょう」

「だよね~? さきちゃん、えらい!」


自分勝手に話を進める姉が二倍になったことに、安成は、テディベアを抱きながら遠い目をしたのだった。

思い付かなくて……。

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