表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

安成君は元気です……若いっていいなぁ……。

 安成やすなりの家族は、さほど遊亀ゆうきの病にも気にしなかった。

 逆に心配して、


「休みなさい。ゆっくり休めばいいのよ」

「病気がどうした。疲れて参っとるだけや。家におればええ」


浪子なみこはデーンと構え、亀松かめまつも大笑いである。


「自分の親ながら、凄いですよ」


 安成は報告する。


「でも、親が反対しても……」

「連れて逃げてでも、添い遂げるつもりでした。親には申し訳ないのですが……」


 安舍やすおくの一言に苦笑する。


「でも……」

「き、気持ち悪い……」


 浪子に支えられ現れたのは、少々痩せやつれた遊亀である。


「おめでとう。ややが出来たのだって? 父上が『初孫~!』だそうだよ」

「おめでたいもなにも……気持ちの悪さが……ご飯の匂いが駄目だなんて……勿体ないお化けが……」


 嘆く方向がずれているのは、相も変わらずである。


「で、男の子がいいのかな?」

「いえ、私は健康であれば。でも、家の為にはと、言っているのですが……」


 夫を見る。


「女の子を! 絶対に、遊亀に似た女の子で!」

「と、こうなんです……うちに似ても可愛くないのに……それなら、安成君かさきちゃんに似た美人がいいですよね」

「さきは、元気で日々動いてるから、男の子かなと思っているんだよ」


 実は、さきも身ごもっているのだが、つわりはほぼない。


「いや、兄上。年のせいですよ。高齢出産は危険度が高いんです。母体にも負担がかかるし……母体のできていない、10代前半も危険ですけど、私のこの年では、はっきり言って超高齢出産です」

「遊亀は……」

「数えで31です。生まれたときにはすでに1才。新年が来ると2才です。私は、長月(9月)生まれですから生まれて3月で2才です」


 答える遊亀に、


「数え以外でも、年を言えるのかな?」

「『ゼロの概念』ですね。インド……ここから、南西にある天竺てんじくに、グレゴリウス暦628年に正式に用いられた記録があります。グラーマグプタという、数学者……計算を研究したり天文学を教えた有名な人が、使ったとあります。残されている書物の名前は『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』。元々はもっと古く、それよりも500年ほど前に用いられていたのですが、曖昧でした」

「ゼロの概念?」


安舍は不思議そうに言う。


「簡単に言うと、今では計算では子供は生まれた時には1才ですが、私の場合、長月に生まれた時には0才です。で、新年を迎えても年を取りません。翌年の長月に1才になるんです。生まれた赤ん坊は全く何も出来ない、泣いて襁褓むつき、お乳をねだります。次の年の生まれた日位には、ハイハイや立ち上がったり、言葉をしゃべったり……その時に1才なんです」

「ふーむ……面白い考え方だ」

「もし、大晦日に生まれたら翌日には2才も大変でしょう? 人それぞれ生きる時間も違う……新年に全員が年を取るというのも、新年に身を清め新しい気持ちで迎えるのに良いことです。でも、こう言う考えがあることも面白いと思いませんか?」

「あぁ、楽しい話だ」


 安舍は微笑む。


「さきも面白がっていたが、遊亀の考え方は柔軟でとてもいいと思う。遊亀は学者だな。学ぶ楽しさを思い出させてくれる」

「そんな……知識だけで……」

「説明できるだけで凄いものだ。自信を持てとはまだ言わない。でも、自分を否定しないで、自分を誉めてあげなさい。他人よりも自分とお腹の子供を考えなさい」


 年上の青年の言葉に、照れくさそうに、


「はい、兄上。ありがとうございます」

「では、遊亀? 体を大事にするんだよ?」

「はい」


微笑んだ安舍に、頷いた遊亀は、日に日につわりにもなれて、日々を過ごせるようになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ