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遊亀は熱が下がって、義理の両親の為に色々な準備です。

 ようやく起きられるようになった遊亀ゆうきは、家の中を歩き回り、顔をしかめる。


安成君やすなりくん、安成君。これはどう言うこと?」

「はい? 何? 遊亀」

「何じゃないやろ、トウッ!」


 夫の額に手刀を叩き込む。


「いてて!」

「ここの段差だよ、段差! お父様が目が悪いのに、どうすんの! 転んだら大変じゃない!廊下から、部屋に上がるのも苦労されてるのに……」

「いや、ここは、事情があって……」

「どういう事情?」

「回廊で、この回りは壁が近いだろう? 敵をここで止めるんだ、一時的だけど」


 その言葉に遊亀は、


「……難しいね……柱に手すりも考えたんだけど……」

「手すり?」

「うん。ほら、あそこ」


示す。


「お父様、あそこに寄りかかって上がってたから、つけて貰ったの。手で握ると上がりやすいでしょ?」

「あ、ある……考えたの?」

「そりゃそうでしょ? ここは、お父様とお母様のお家だよ。居心地よくないと大変じゃない」


 真剣である。


「安成君の家だけど、一番はご両親が安心して過ごせること! それと、ちゃんと相談」

「……遊亀は、本当にうちの家族、大事にしてくれるよね」

「そりゃ、家族だもん……お母様の為にも」

「……頑張らなくていいんだよ? 遊亀。皆、遊亀が怠けていたって何も言わないよ」


 安成は抱き締める。


「怖がらなくても、父も母も、姉だって……皆、遊亀の事を家族だって思ってる。だから怯えなくていいんだよ」

「怯えてないよ~。辛いな~と思うのは、安成君がベタベタしてくること位だし~」

「あ、そう。じゃぁ、今日は……ベタベタしようかなぁ?」

「ぎゃぁぁ! 待って、待って!」


 慌てて逃げようとする。


「う、うち、分からんけん……自分のどこが、安成君が好きになったんか……解らんし……うちのせいで、何かあったら……それに、あんなこと口にしてしもて……」

「あんなこと?」


 口を押さえ、涙目で、


「安成君が……死ぬこと……お父様、お母様……さきちゃんに、ひどいこと宣告した。神様でもないのに……なのに……」


ヒックヒックしゃくりあげる遊亀を抱き締める。


「泣かんでかまん。遊亀が泣いたら本当になってしまう。笑っとき。俺は、戦でなんか死なへん。遊亀と二人……両親や子供たちもおってもええ。皆で仲よう生きるんや」

「おばちゃんやで? 先に逝くわ」

「その時は一緒や」


 唇を重ねる。


「遊亀は俺の嫁や。越智家の宝や。守ったる。絶対に。でも自分の命を捨てたりはせん。誇りもな」

「あ、ホコリ。これは?」


 泣き顔で笑う遊亀に、


「また、人の真剣な告白を~! 夜、覚えとけ~!」

「ぎゃぁぁぁ! 安成君が~! 犬から狼に!」

「狼も犬も一緒や」

「あ、そう言えば、狼って『大神』。大きな神って書くこともあって、神聖な獣なんだって……でも、安成君は神聖さもないわ」

「何だと~。子供を作ること、それのどこが悪い! 遊亀そっくりな子供がようけおったら嬉しいな」


にやにや笑う夫に、嫌そうに、


「不細工より、綺麗な顔の安成君一杯の方が目の保養やで?」

「はぁ? 俺が綺麗な顔? 幼馴染みとか皆はもっと逞しいで?」

「……暑苦しいの嫌や。安成君とお父様で充分」

「と言うことは、俺が好み?」

「……と言うことにしといて。一応、初恋は別やけどな」

「なぁぁぁ~! どんな男やねん!」


安成からスルッとすり抜けた遊亀は、ニッコリと、


「内緒や。じゃぁな。うちは、ちょっと休んでくる。骨折のせいで腰がうずくわ……」


ヒョコヒョコと去っていった妻に、


「初恋の相手って誰や~!」


と叫び、


「何子供のようなことをいっているの!」


と母、浪子なみこにたしなめられたのだった。

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