表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

安舍とさきも幸せそうです。

 安用やすもちは、息子夫婦の部屋に向かう。

 最近さきを後添いに娶って、安舍やすおくは、仕事にも熱心に取り組んでいる。

 さきはさきで、元々年上の安舍に憧れており、安舍の仕事を傍で見守るのが嬉しいらしい。

 その視線に益々職務に励む……よい夫婦の鏡とは、この夫婦のことなのかもしれない。


「入るよ」


 声をかけると、書簡を書く安舍と、その後ろでにこにこと控えるさきがいた。


大祝職様おおほうりしょくさま。何かありましたか? お伺いしましたのに……」

「いや。あったと言えばあったが、真鶴まつるが熱を出して寝込んでいると、安成やすなりがね……あぁ、さき、ありがとう。でも、君は私の娘なのだから、しなくていいのだよ?」


 さきは、上座を勧め、動きはじめるのを止める。

 すると、恥ずかしげに、


「申し訳ございません。昔の癖で……」

「怒っている訳ではなく……安舍? この棟は人が少なくないかな?」

「そうですか? 何時もですが」


視線をそらす息子を睨み、


「嫁を、働かせてどうするんだね?」

「すみません……」

「あの、働くのは好きですので……」


さきは夫をかばう。




 後添いにと言われた時には、あっけにとられた。

 前の夫とのことで迷惑をかけているのに、その上、弟は本物ではないものの鶴姫を妻に迎えた。

 それなのに自分を?


 すると、照れたように、


「一度は姉上に頼んだのだよ。でも年が違うと……幸せになって欲しいからと断られた。でも、辛い思いをしているのは知っていた。だから、こちらに働くと言うことで来て貰った。何回か頼んだけれど……ようやく、思いが届いた……ありがとう」


その言葉に瞳が潤む。


 知らなかった……。

 憧れていた、年上の安舍に。

 弟にかこつけて、この社に訪れては会えるのが嬉しくて……でも嫁ぐときには諦めて……それなのに……。


「う、嬉しいです……」


 微笑む。


「わ、私は……貴方様と、幸せになりたいです……」

「そうだね……」




 それからは、かいがいしく世話を焼いていたのである。

 それは逆に嬉しくて……忙しい安舍を独り占めできると思っていたのだ。


「まぁ、夫婦仲良くしなさい。真鶴も熱は出しているようだが、幸せそうだ」

「そうなのですか……良かったです。真鶴様は一線を引いていて、心を閉ざしていた感じがありました……何かもろい、必死で自分で自分を抱き締めて、壊れそうな物を抱えているようで……見ていて辛かったです」


 さきの一言に、親子は黙り込む。


「そうだね……苦しんでいた。だから、苦しまなくていいと遠回しに伝えてはいたのだけれど……」

「安成で良かったのか……」

「安成だからいいのだと思ったよ。あれは自分に自信のない男で、自分が信じられなかった。逆に、跡取りとしての自分位で、自分はこの程度と思っていた。真鶴に会って変わったよ。成長した」


 安用は、懐から出した物を開ける。


「安舍。さき。これを、真鶴と安成から預かった」

「こ、れは……地図?」

「真鶴が、心配しているのだそうだ。昨日は大変だったろうに……」

「あぁ、安成は……」


 くくくっ……


安舍は笑う。


 安成は見た目は端正な優男だが、自信がないだけで、剣の腕も武術も長けており、体力面は同年代の船漕ぎ並みである。

 あの男では、真鶴が熱を出すのも無理はない。


「あの、これは……」

「地図だよ。この島の……私たちが知っている島の形よりも細かいし……かなり詳しいね」

「真鶴は、未来から来たと言っていましたし、地図を写したのでは?」

「ここがこの社、そして、湊……近隣の島もある……潮の満ち引きやこの海域の波については解らないだろうけれど、もしかしたら、注意しろと言っているのかもしれないね」

「そうですね……」


 ふいに、さきは示した。


「貴方様。ここ……ここが、私の前の嫁ぎ先です。ここからは実は、海岸に降りる階段があって、そこから歩くと分かりにくいのですが、小さい入り口の洞窟があります。満潮の時には沈むのです。干潮ならば……」

「何だって?」


 慌てて安舍は筆で記す。


「他は私は安成と違って、船に乗れますので、回ったことがあるのです。ここの波が、一定時間落ち着きます。父が教えてくれました。他にも……」


 安舍は書いていき、安用は見つめる。


「……ここまで知られたら、この島は敵に狙われる。早急にことを運ばねば……」

「もしかしたら、元の夫はここを調べる為に……」

「大丈夫だよ。時間は余りないがそれなりに動こう……さき、お前は普段通り落ち着いていなさい」


 安舍は微笑む。


「父上……」

「そうだね。こちらも手を打てるだけ打とう」


 安用は息子夫婦とうなずいたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ