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遊亀は頭のなかが真っ白になりました。

「落ち着かれては……? 安舍様やすおくさま


 浪子なみこの一言に安舍は、


「しかし……」

「あ、そうです。内々にお願いがあり、参りました。大祝職様おおほうりしょくさまにもお伝え願えないか……と思っております」


頭を下げる。


「何です? 従姉上」

「さきはもうすでに2年、前の嫁ぎ先から離れております。離縁をお認め頂ければと思っております。そして、新しい夫の元にと……お願い致します」

「離縁、それは構わぬと思います。再婚先は……」

「前回は、私どもが誤った嫁ぎ先を選んだ為に、さきは苦しんだのです……今回はその失敗を犯さぬ為、安舍様にお伺いを……」

「従姉上方は構わぬのか?」


 問いかけに浪子は、


「子を思う親の思いが、子を苦しめる結果に……これ以上辛い目には……」

「解った。で、他には?」

安成やすなりは何時まで経っても、嫁に孫を見せぬので……呼び、問いただしたのです。そうすると、好きな女人がいる。そう言いますので、相手は? と問いましたところ、そちらの鶴姫様だとのこと。様子を伺いに参りましたら、考え方も道理が通り、柔軟。賢く、この愚息に見る目があったと感心しております。出来ましたら……」

「……は?」


 遊亀ゆうきは、安舍と安成の視線に、自分を示し、


「これ……ちょっと待ったぁぁ! ムリムリムリ! 帰ります! 即刻! 今すぐ! サヨウナラ~!」


逃げようとした遊亀の体を引き寄せ、


「逃がしません! と言うことで、思う存分口説きます! 何でしたら、正式な婚礼前に、ややができた! という形でも結構です! どっちがよろしいですか?」

「ぎゃぁぁぁ! あ、兄上! な、何か、何かいってるぅぅ! セクハラ、変態発言! 助けて!」


必死に表向きの兄に助けを求めるが、


「御免よ? 真鶴まつる。兄さまも、これからさきを口説こうと思っていてね? 頑張って」

「うそぉぉ! 助けて! さきちゃぁぁん!」

「えっと……頑張って下さい」

「わぁぁん、お母さん! 息子が、貴方の息子さんが~!」

「祝言の準備。楽しみだわぁぁ……」


周囲が固められたのを思い知った遊亀だった。




 祝言当日……遠い目をした花嫁姿の遊亀がいたのだった。


「うりゃぁぁと、脱走……したいです」

「無理です。頑張りましょう」

「何でやねん! さきちゃんは可愛いけんかまんけど、うちはおばちゃんやがね~! うおりゃぁぁ、やっぱり、逃げる!」


 着物の着方を覚えれば、脱ぎ方位はお手のものである。

 脱ごうとした遊亀を、引き寄せる。


「はいはい。その体力を夜まで温存しておいて下さいね」

「よ、夜……ぎゃぁぁぁ! セクハラや~! 変態や!」

「おらばんように。折角の祝言ですよ。久々に父も戻ってきたし……」

「……安成君のお父様、亀松かめまつって、本当に名前なんかね?」

「婿養子なんですよ。父が婿です。元々母が安舍様の従姉で、越智家の末娘だったんです。上にお兄さんがおられて、生まれてすぐ、結婚したばかりのお兄さんが亡くなったんです。で、他の兄弟は皆結婚するなり、婿に入るなりで、母が。で、父が決まったんですよ。元々船乗りですが知識が深く、勉強家でしたから、皆、慕ってくれていましたが、目が見えなくなったんです。今は、船に乗る時のまとめ役ですね」

「目が悪い?」


 眼鏡は今日は取り上げられている為、よたよたとうっすらとぼやける視界を頼りに近づく。


「お父様、お母様……至らぬことがあるかと思いますが、今後ともよろしくお願い致します」


 深々と頭を下げる。


「……鶴姫様」

「いえ、遊亀ゆうきと申します。遊ぶ亀と書きます」

「わしと一緒や」


 笑う男は、がっしりとしているが、瞳が白い。


「……若年性白内障ですね」

「ん? 何や? それは……」

「うーんと、簡単に言いますと、卵の白身に火を通すと白くなります。お父様や私たちの瞳には、卵の白身のようなものが入っているのです。ストレス……極度の緊張感とか、必死に頑張らないととかずっと考えたり、急に強い光にさらされて、目に疲れがたまったりするとか、それが重なっていくと、目に影響を与えて、目のなかの、黒い部分の中の白身のような部分が濁ってきて、その奥の目を見ると言う部分を隠してしまう……その状態です。いつ頃からそんなに酷くなったのですか?」

「いつ、か……? 最近完全に見えんなった」

「……200年ほど前に、日本にも、この病に対処する手術が明の国を経由してあるのですが、多少……強引な方法で、安全性、後遺症の目の病等があるのです……私も詳しくなく……専門的な知識がないのですが……もしあったら……治せたかもしれません。済みません。それだけの知識がなくて……情けないです」


 唇を噛みしめる遊亀に、亀松はおや? とした顔をする。


「義理の父親や。気にせんでもよかろ?」

「よくありません! 義理でも、お父様とお母様は私の両親です!」


 遊亀は食って掛かる。


「お父様は亀松……とお名前をお伺いしました。亀は私と同じ。『鶴は千年、亀は万年』と長寿を祈る為の名前です。松は一年中青々とした葉を繁らせる、祝福の木であり、松ヤニ、松明等の長い間用いられる素晴らしい木です。お父様に名前をつけられた方は、本当にお父様の為に考えられたのだと思います。それに亀は、知っておられますか?」

「ん?」

「中国からもたらされた『陰陽五行説いんようごぎょうせつ』によると、北の方角に『玄武げんぶ』と言う聖獣がおります。北は不吉と言うのは誤りで、陰陽五行では水を示します。玄武と言う意味はご存じですか?」

「亀や」

「違います。『玄』は黒い。『武』は武器等と言いますが、本来は、二つの文字が重なっているのです。『ほこ』を『める』。玄武は誇り高い、戦いを止める強い意思を持った聖獣です。亀に、尾は蛇となっていますが、方角は北で、季節は冬……春を待つ為にじっと耐えると言う意味です。水の神でもあります」


 遊亀は義父に告げる。


「お父様は、とても素晴らしいお名前です。それに、一文字ですが一緒の名前で嬉しいです」

「……そんなことを言われたことはなかったわ……とろくさい亀や言うて……ようバカにされとった」

「うちも……私も同じです。どじで、馬鹿で……年子に兄弟はいるのですが、皆ある程度できるのに私だけ……体も強い方じゃなかったのに、頑固で負けず嫌いで……」


 苦笑する。


「でも、お父様はお名前の通り、どっしりとした強さと今まで努力して得た知恵があります。大丈夫です。きっとこの家は……父上と母上を中心として支えられるでしょう」

「……遊亀」


 見えない目で探る手を、安成が握らせる。


「……よう来てくれた。安成には勿体無い、でも、ワシの娘や。安成はまだ頼りない息子や。でも、あんたの傍におれば、きっと男になる。よろしゅう頼む!」

「えっ! えと……越智家の嫁として恥ずかしくない生き方を! お父様、お母様の自慢の娘として努力致します!」




 最初、亀松は反対していた。

 武芸などはある程度身に付けているが、気の弱い息子が妻。

 しかも相手は鶴姫……。

 気は強く、それに越智家の分家であるが、勢力のないこの家に嫁いでもどうすればいいのだ。

 それでなくとも息子は大人しい。


 しかし、妻が是非にと行ったと告げられ驚き、今日の祝言ではこの言葉……。

 嬉しいやら、涙が出てくる。


「いい娘を……迎えた。良かった……」

「まぁ……あの子が、遊亀さんに釣り合うかですわ」

「……まぁ、今日は祝おうやないか……」


 亀松は、ぐいっと酒をあおったのだった。

一応、白内障は刹那の祖父が若年性白内障で、第二次世界大戦で赤紙が来て、エッチラオッチラ山を降りて、戦争の検査のため向かったのですが、一月かかり、検査をすると、白内障で外され、一月かけて帰っていったら父が生まれていたと言うオチがあります。

つまり、臨月間近の妻と、子供二人に、家族を残して当主が出征して行く訳です。


で、紀元前800年頃にはインドで記録が残っていて、白内障の手術は始まっていたそうです。日本にはインドから中国を経て1360年頃に伝わりました。

手術方法は現在よりも恐ろしく、麻酔はなかったので、そのまま針で眼球を突いて、水晶体を後ろ側(硝子体内)に脱臼させる方法です。

難易度、安全性、痛み、感染症のリスクが高い上に元の見え方にはなりませんが1800年頃までありました。

現在は、角膜を切って、水晶体を砕いて出す摘出手術です。

そして、折り畳まれた人工レンズを拡げ装着します。


一応、簡単に調べてみましたが、よく考えたら、自分も気を付けるのと、その前に視力を良くする手術受けた方がいいのか?と思ってますf(^_^;

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