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11.悪夢を見る猫(42)原始時代編6

「君を信頼していたからこそ戻って来たんだよ。ここで待つって言ってくれただろ?」


 信頼…何ていい言葉なんだ。人を信じれば相手もまた信じてくれる…良い循環だね。

この返事を受けて僕は嬉しくなってふっと心が軽くなった。

それで結論を急かすのは悪いかなって思ったんだけど気が付くと彼に話を急かしていた。


「有難う、とにかく嬉しいです。で、どうでしたか?」


「うん、あまり役に立つかどうか分からないけど…」


 そう言ってコンドーさんはこの旅で得た情報を僕に話してくれた。彼の話すその情報は僕の想像通りのものだった。

この話を受け、僕は来るべき日食の日に備えしっかりと戦略を練る事になった。


 それからはコンドーさんを加えた4人で日常生活を営み始めた。僕らが忙しく働く中、マロ達は変わらず何もする気配がなかった。

ああ、現実の僕と一緒だね。ニートですよニート。

その佇まいはもはや不気味さを超えてある種の神々しさすら感じさせていた。

そうしてやはり何事も起こる事なく時は流れ…やがて日食のその日を迎える事になった。


 当日になって僕らはマロの前に立っていた。これから何が起こるのか改めて問い質す為に。

僕らを前にゆっくり目を開いたマロはじろりと僕らを見定めながら口を開いた。


「本当にあなた方は恐れを知らない…この時にこの場にいる事がどれだけ危険かと言う事を」


「あなたはその危険を具体的に何も言わなかった。何故ですか」


 僕はそのマロの言葉に冷静に丁寧に対応した。

今更奴の話を信用していないなんて言わなくても分かる事はもう言わなかった。

この僕の質問にマロは呆れたような態度を取って答える。


「言う必要がなかったからですよ。何故なら今まではそうなる前にみんな避難していたから」


「つまり、あなたにとって今回が初めての経験だと」


「人の言葉を信じないものは破滅に導かれますよ」


 出た!怪しげな勧誘でよく使われる常套句!悪い事を言われると自分に非があると思い込んじゃう心理をついて来る言葉だよね。

残念ながら僕はそこまで純粋無垢じゃないんだよなぁ。嘘を嘘と見抜けない事の方が破滅に導かれるっての。

僕はマロの言葉を使ってそのまま反論した。


「どんな嘘も鵜呑みにしていてはそれこそ身の破滅だ」


「どうも話が通じないようですね…。いいでしょう。ずっとそこで見ていてください」


「結局具体的にどうなるかは言ってくれないんですね」


「今更言う必要がどこにありますか…もうじきみんな実際に体験するのに」


 そう…マロは結局具体的に何が起こるか最後まで口にしないつもりなんだ。

人の話を聞かない相手とまともに話が出来るはずがない。やっぱりどう考えてもこいつは胡散臭い。

そろそろこちらも反撃するべきタイミングかな?しっかり準備は出来ているんだ。


「私は思うんですが…この日食、実は引き起こしているのはあなたじゃないんですか?」


「ほう、これは興味深い発言ですね。つまり全ては私が悪の元凶だと?」


「この日食は自然現象じゃない…間違いなく誰かが意図的に起こしている…それをする理由があるのは誰か…」


 この僕の言葉をマロは興味深そうに聞いている。ここまで聞いて全然動揺する気配がない…だと?

僕は奴のこの反応に一抹の不安を覚え始めていた。真実を追求すればボロを出すかと思っていたのに…。

もしかして何か計算が違った?でもここで攻撃側の僕がそんな態度を出す訳にはいかない…もう賽は投げられたんだ。

僕の焦りが分かったのかマロはにやりと不敵に笑って口を開いた。


「答えは既に出ている…と。中々面白い話ですね」


「俺達はただ真実が知りたい、その為に残っている」


 ここで僕らの話に割って入ったのはサイトーさんだ。

彼が残ってくれたのは長の頼みがあったからだけじゃなくそう言う思いがあったからなんだ。

僕は頼もしい援軍を得て少し心が軽くなっていた。

サイトーさんのこの言葉を聞いてマロはやれやれと言った態度を取って言葉をこぼす。


「私の話も聞かずに疑ってばかりで…本当に失礼な話です」


「僕はあなたが忠告をして回った集落の情報を出来るだけ集めました」


「ほう…何か分かりましたか」


 次に話に加わったのはコンドーさんだった。追加調査を担当してくれただけあって彼の言葉は自信に満ち溢れていた。

それでもマロはまだその不遜な態度を崩してはいない…最後まで話を聞き終わってもその態度を貫くんだろうか?

コンドーさんは早速自分が調べた事を丁寧な口調で詳細に話し始めた。


「あなた方は毎年どこかの集落に行って日食を理由にその集落の住人を追い出している…毎年定期的にこの時期に」


「…よく調べていらっしゃる」


「自然現象はそんな定期的に起こるようなものじゃない…起こっているならそれは起こしているって事になる」


「……」


「あなたは定期的に集落の何かを奪ってそれで生活をしている、いや、そうしないと生きていけないんだ」


 さすがのマロもからくりがバレて腹をくくったのかコンドーさんの話を反論せずに黙って聞いていた。

このマロの様子を見て僕は勝ったと思った。日食を起こしているのがマロだとするならここで奴を追い出せば災厄は未然に防げるはず…。

コンドーさんは最後に決定的な一言を告げ、マロの目的をこう断言した。


「あなたが捨てさせた集落はずっと放置されているのに空き地に草ひとつ生えていなかった…大地の精気を奪ったんだ」


「この集落も同じようにするつもりなんだろう?」


 サイトーさんの出した結論に僕も援護射撃をする。これが僕らの出した結論だった。

ずっと最後まで黙って話を聞いていたマロは悪事がバレて居直ったのか急に態度を変えて来た。

それは悪人が犯罪がバレてその本性を露わにするベタな展開そのものだった。


「くくく…此処の住人はバカではない…か」


「その隣の女の子もずっと見た目の年齢が変わらないって話だ。これは絶対普通じゃない」


「いいだろう、ここまで来たらお前達も共に見るがいい!この日食の真実を!」


 その時、空に浮かんでいる太陽に奇妙な斑点が浮かび始めた。ついに日食が始まったんだ。

本当はこの日食が始まる前にそれを阻止したかったんだけど結局それは間に合わなかった。

マロを精神的に追い詰める事で奴が自在に日食を起こせると言う事を図らずしもそれを証明する結果となってしまった。

僕は自分の説が証明されて嬉しかったものの…事態が最悪な方向に進んでしまい後悔もしていた。

奴を追い詰めるのは失敗だったのではないか…しかしそれが起こってしまった以上もうどうする事も出来なかった。


 この日食は僕が知っているそれと全く違っていた。

まるで悪魔の呪いのようにじわじわと太陽に浮かんだ斑点の黒が広がっていく…。

それはまさにこの間の調査をした時に聞いたあの話の通りだった。


「うわああ~」


「ぐ…苦しい…」


「始まったか…くくく…ここに残った事を後悔するがいい」


「これは一体どう言う…くっ…僕まで」


 太陽が全て闇に覆われた時、突然の異変が僕らを襲った。

いや、僕らだけじゃない…きっと最初にマロが逃げろと言った範囲全体にこの異変は起こっているんだ。

その異変とは生きる力の喪失…みんな急に立つ事も出来ないほど消耗してしまっていた。これがマロの起こす日食の真実…まさかこんな、こんな事になるなんて…。


 そんな異変の中で事の張本人であるマロだけは平然としていた。

奴は勝ち誇った顔をしてその場に次々に倒れた僕らを見下ろしながら事の真相を話し始めた。

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