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11.悪夢を見る猫(41)原始時代編5

「だから…僕ひとりだけでいいんです、残るのは」


「そうはいかん、分かった。2人残そう。それでいいか」


「十分です、有難うございます。それじゃあ脱出の準備を始めてください」


 結局シノザキさんは僕の事を心配してくれて一緒に残る人を2人選んでくれた。

長の言葉には誰にも逆らえないのでその2人はすぐに決まった。

長が選んでくれたのはオオタさんとサイトーさんだ。うん、この2人が残ってくれるなんてちょっと心強いぞ。


「何か面白い事をするみたいじゃないか。俺にも楽しませてくれ」


「長の頼みだから仕方ない。けどあんまり無茶な事はするなよ」


 オオタさんは僕の決断を面白がっているようだ。豪快に笑うその陽気さが頼もしい。それに対してサイトーさんは僕を心配してくれている。彼の言葉からもその優しさが伝わってくる。

タイプの違う2人だけどいざとなれば頼りになる頼もしい仲間である事に変わりなかった。

この心強い仲間を得て僕は少しも不安を感じる事なく日食までの日々を過ごせる気がした。


 それから程なくして集落脱出大作戦は始まった。子供も大人もおねーさんも先導者の指示に従って落ち着いて移動を始めた。

事前に準備がしっかり出来ていたのでこの動きに大きな混乱もなく予想以上にスムーズに行われた。


「フクは?フクは一緒に来ないの?」


「にーちゃんはちょっと大事な用事が残っているんだ。先に行って待っていてくれな」


「分かった。じゃあ待ってるから」


 子供達との簡単な拶を済ませ、僕はまだ広場にいるマロ達を見る。

聞いた話の通り集落のみんなが出て行くと言うのに彼らはその場から全く動こうとはしていなかった。

無視しようとも思ったけどやっぱり気になってしまったので僕はマロに近付いて話をしてみる事にする。


「マロ、君が残るなら僕も一緒に残るけどいいよね」


「どうして残るのです?災いが怖くないんですか?」


「怖いよ?でもそれは君も一緒だろ?」


 条件は一緒だと言ったつもりだったのにどう受け取ったのかマロの表情は急に険しい物に変わった。

やれやれ、この世界のマロはどうにもやり辛い…いつも通りならきっと軽口を叩き合えたんじゃないかと思うのに…。

マロはじっとこちらを見て…それからしばらくしてその重い口を開いて僕に聞いて来た。


「一体何を考えているんですか?」


「それはこっちの台詞だよ」


「好きにしてください。どうなっても知りませんよ」


 この様子だときっと何を話しても無駄だろうと思った僕はすぐにその場を後にした。

何、まだ日食の日までは時間はある。それまでに少しでも奴と打ち解ける事が出来れば…いいんだけど。


 その日はそうやって一日が終わった。

次の日、残った3人で狩りに行って戻って来ると相変わらずマロは広場の定位置に座り込んでいた。

僕は食事を準備して彼らに持って行った。食事のついでに話をしようと思ったんだ。今度こそ何か収穫があるといいんだけど…。


「ただ待っているだけでも暇だからさ、話をしようよ」


「何の話をするって言うんですか?」


 相変わらずマロの反応は芳しくない。それどころか敵意に近いものすら感じる。

何で奴はそんなに僕を嫌っているんだろう…いや、その態度は誰に対しても同じだった。

集落に僕ら以外がいなくなってその態度をもっとあからさまにしている気すらしてしまう。

僕はそんな奴の醸し出す雰囲気に負けじと平然とした顔で質問をする。


「君が今まで何をしていたかとか、サキちゃんの事とか…」


「私はこの通りただの流れ者…語る事など特にありません」


 うう、取り付く島がないとはこう言う事を言うんだろうな。

この難攻不落の牙城を取り崩すのが今の僕の使命だ…見てろよ…。

取り合えずはこのまま質問を続けるぜ。まずはこんな話題でどうよ!


「その予言の力はどこで手に入れたの?生まれつき?」


「生まれつきです」


 あ、意外と素直に答えてくれた。そんなに嫌がっている訳でもない…のかな?

質問には答えてくれたはいいけどその表情は笑っていない…つまりはそう言う事か。早く話を終わらせてお帰り願おうって雰囲気がこっちにビンビンと伝わって来るぞ…。

そうは行くか。こちとら聞きたいことが山程あるんだ。その全てに付き合ってもらおうか。


 しかしその力は生まれつき…大抵の預言者は生まれつき力を持っているらしいからそこは普通かなぁ。

じゃあ、どこで生まれたんだろうって話になるよね、当然ね。

マロに聞く次の質問はこれに決まった!


「君はどこで生まれたの?サキちゃんとは昔から?」


「ずっと流れて来たので…生まれたのも親の旅の途中でしたし」


 なるほど…マロは流浪の民だったのか。それは定住せずに旅を続ける一族。確かそう言う生活をしている人には特殊な能力を持つ人が多いって昔サキちゃんが言ってた事があったぞ。

もしかして…そう言う記憶がこの夢に影響しているのかなぁ…。

マロの両親は一体どう言う感じなんだろう?ちょっと気になるぞ。


「御両親は?」


「両親はもういません…もういいでしょう、私に構わないでください…」


 あら、怒らせちゃったかな?どうやらここらが限界みたい。

考えてみたら結局サキちゃんの事を聞き出せてないじゃないか。

むう…これは話す順番、間違えちゃったかなぁ?

これ以上しつこく聞くと奴の気を悪くさせてしまう気がする。

そうなったら聞きたい事も聞き出せないかも知れない。

僕はあまりしつこくならない内にその場を離脱する事にした。


「いや、悪かったね。じゃあ僕はこの辺で。あ、ゆっくり食べてね」


 引っ越しした集落の人の話をまとめるとマロの存在はやっぱり異質だ。

大体、人がいなくなった集落でどうやって物を食べていけたんだろう?

ずっと広場で座りっぱなしで食べ物が空から落ちてくるなんて事はない。

マロは日食の当日もずっとその場所で座っていたんだろうか?それじゃあまるで…。


(何にせよ、コンドーさんが頼りだなぁ。どうか何かいい情報を持って帰って来てくれますように…)


 マロが宣言した日食の日まで残り5日を切った。

奴の話の通りならもうこれでどんな屈強な戦士が走って逃げても僕らは日食の被害からは逃れられない。

僕と一緒に残ってくれた2人は本当に勇気があると思う。下手したら死んでしまうかも知れないって言うのに。

よく考えたらそんな状況になってコンドーさんがわざわざここに戻ってくるかって考えると…。

僕は一度生まれた心の不安を取り除く事が中々出来なかった。


 マロの話が正しければ後もう少しで日食が起こる…けれど今日もまた何も不安もなくいつも通り過ごせていた。

狩りに行けばちゃんと獲物は取れるし木の実もしっかり実っていて収穫も出来た。

地鳴りが聞こえる訳でもないし強風が吹き荒れる事もない。動物達が騒ぐ事もなければ日も月もいつもと変わらなかった。

そう、このまま日が進んでもまるで何も起こる気がしないんだ。さらに細かい事を言えば悪い予感すら全く感じる事はなかった。

本当に日食なんて起こるのか…起こったとしてこの集落にそんな異変なんて…。


 日食まで後3日。その日もマロは同じ場所にいた。相変わらず表情は険しいままで。

でもその日は朗報があった。追加の情報収集を頼んでいたコンドーさんがついにこの集落に帰って来たんだ。

これでマロにまつわる謎のバラバラのピースが全て揃うといいんだけど。


「コンドーさん、お帰りなさい。もうここに戻って来ないものかと」


 僕はそう言って安心した顔で彼を出迎えた。

コンドーさんは笑顔で僕に対して戻った挨拶代わりにこう返してくれた。

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