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11.悪夢を見る猫(37)原始時代編1

「うわああああああ~っ!」


 ガバッ!


 ああ、夢で良かった。しかし恐ろしい夢だった。

もうこんな夢なんて見たくないよ。一生分の悪夢を見た気がするよ。


 さてと、ようやく見慣れた風景に…なってないね。

まだここは夢の中だったね。もういい加減にしてくれぇ…。


「どこだここ…」


 辺りを見渡すとどうやら僕がいるのはどこかの家の中らしい。そこはよく見るとかなり原始的な住居だった。そして今現在、この家の中には僕しかいなかった。取り敢えず僕は状況を把握する為にこの家の外に出てみる事に…。


「うおっ!眩しっ!」


 外に出ると眩しい日射しが僕を手荒く歓迎してくれた。そこは見渡す限りの自然で近代的な建造物はひとつも見当たらない。

家を出てすぐ目の前には何かを燃やした跡がある。この事から見てここに人がいるのは間違いない。

振り向いて家を見るとその家は竪穴式住居だった。似たような家が近くに幾つか建っていた。


 ここの住人達は今頃狩りか狩猟に出掛けているのだろうか?あ、狩りも狩猟も同じ意味だ。僕の予想だとここは…恐らく原始時代だな。マンモスとかを追っかけて暮らしていた太古の時代…。

しかしさっきまで宇宙船に乗って文明生活をしていたと言うのに次は原始時代って何てギャップなんだ…。


「そうか…今はお昼かぁ…」


 お日様の光は大昔も現代も変わらない。本当はきっとそうなんだろうけどこの時代は今よりもっと日射しが強い気がする。

オゾン層の破壊とかを考えたら実際は現代の方が光は強く降り注いでいるのかも知れないけど…ここは夢の世界だからね。

古代=生命力に溢れている=光も強い。自分の中でそう言う方程式が成り立っているんだと思う。


 結局何が言いたいかと言うと…お腹が空いたなぁって事。この集落にはこの時間、誰もいやしない。

きっと男共は狩りに、女性達は木の実などの採取に出掛けているんだ。教科書の通りだと。


 え?何で猫がそんな事知ってるんだって?昔サキちゃんが僕の側で勉強していたんだ。あ、そうじゃないや。サキちゃんが勉強している所に僕が寄って行ったのが正解だった。

だってサキちゃん勉強始めると僕と遊んでくれないんだもん。そんなの寂しいじゃないか。で、サキちゃんの勉強を僕も頭に入れちゃったって訳だよ。こう言うの昔の言葉にあるらしいね。

えぇと、前門の虎、後門の狼…じゃなかった。門前の小僧習わぬ経を読む…だったっけ?どう?僕って結構賢いでしょ。ただグータラ食っちゃ寝しているだけじゃないんだぞ。

…でもこれを披露する場がどこにもないのが残念無念。


 誰もいない集落で僕ひとりお腹を空かしているなんて…この状況は一体何なんだ…。僕にどうしろって言うんだよー!こうなったら僕もう寂しくて泣いちゃうぞ!

…て、そんな事しても腹は膨れないのが現実なんだよね…夢だけどね。


 もしここが現代社会だったらなぁ。どこか探せば食べ物が見つかると思うんだけど…この時代は常に食べ物に飢えている時代。

余分な食料のストックなんてある訳がないよね。ある訳が…。


 僕はふと思い立ってそれぞれの住人が暮らしているであろう家を回ってみた。もしかしたらどこかに何か食べ物が残っているかも知れない…そんな僅かな希望を胸にッ!あ、別に泥棒しようって言うんじゃないよ、ちょっと借りるだけ、借りるだけだから!後で食料が手に入ったらちゃんと食べた分は返すから!


 …それから一通り全部の家を回ってみて分かったよ。教科書は正しかったんだってね。どの家にもどんぐりひとつありゃしない。一体どうなってるんだここは?

こんなんじゃ何か危機が起こった時に一歩間違うと全滅しかねないぞ…。少しでも何か蓄えておかないと…。


 さて、集落をグルっと回って見て気付いたんだけど、この集落は何かおかしい。

大人達がそれぞれの用事で出掛けてここにいないのはまだ分かるにしても子供達までいないなんて…。

そんな集落なんて普通ある訳がないぞ…それともここが夢の中の原始時代設定だから?


 僕は別に子供は好きでも嫌いでもないけど、もしいるなら触れ合いたいと思っているんだ。この集落がまともなら本来一定数の子供達はいるはずだよ。

それもこれも夕方に大人達がここに戻って来れば全て判明するんだろうけど…。


 消えた子供の謎…か。何だかミステリー小説のネタになりそうだなぁ。


 僕がそう考えて一人悦に浸っていると遠くから元気な声が聞こえて来た。やっぱり!やっぱりこの集落にも子供達はいたんだ!

その声は段々とこちらに向かって来ている。多分彼らはこの時間どこかに遊びに行ってただけなんだろう。

その賑やかで無邪気な声は僕の寂しい心にすうっと溶け込んでいくようだった。


「あ、フクが起きてる!もう大丈夫なんだ!」


「ん?大丈夫だよ?」


 僕が出歩いているのを見て集落に帰って来た子供の一人が声を掛けて来た。その子供らしい無邪気で元気な声が可愛らしい。僕は笑顔で手を振って大丈夫アピールをする。

すると次にその子は僕が怪我した理由を教えてくれた。


「狩りの罠の落とし穴に落ちたって聞いたよ?もう平気なの?」


「え?…ああ、そうなんだ…う、うん僕こう見えても結構丈夫なんだぞ!」


「そっか!流石フクだね!」


 何とまぁ。僕はそう言う設定であの場所で寝ていたのか。道理であちこち身体が痛むと思った。

それじゃあ子供達も戻った事だし何をして遊ぼうかな?


「ちょっと、まだ怪我が治りきってないんだから無茶しちゃダメだよ!」


「あ、はい…」


 僕が子供達と遊ぼうとしていると彼らに付き添っていただろう集落のおばさんが僕に注意して来た。うん、この言葉は素直に受け取らないとね。

しかしどの時代もおばさんって言うのは変わらないんだなぁ。


「うっ!」


 子供達と遊ぼうと少し身体を激しく動かしたせいかな…急に痛みが襲って来た。痛みのある夢?でも確かに痛みのようなものを感じる気がする夢ってたまに見たりする…気がする。

迂闊にも痛がっている姿を見られた僕はおばさんに引っ張られて強引に休まされた。


「ほら、ここでじっと寝てな。治るまで無茶はしない!」


 しかし面倒見のいいおばさんだなぁ。ちょっと怖いけど。

この時代に医療なんてものはあるはずもなく…多分頑張って薬草とか祈祷とか。それ以外はこうして安静にするのが一番の治療方法だったんだろう。夢の中の設定とは言え、毎度毎度凝ってますな。

たまには世界観を無視した夢らしい夢の様な展開があったっていいのにねぇ。


 強引に寝かされた僕はまたいつの間にか眠っていた。まぁ猫だし寝るのは好きなんだけど…。気が付くと辺りはすっかり暗くなっていて外から漏れてくる焚き火の音と光に僕は惹かれていった。


「おっ!気がついたのか?もう大丈夫か?」


 僕に声をかけてきたのはサイトーさんだった。見知った顔があるとやっぱり安心するね。そこには前の夢に出てきた宇宙船のクルー達がみんなそこにいた。

うん、これってあの有名な使い回しシステムだ。

集落の大人メンバーの事が分かった所で僕は早速サイトーさんに今の身体の具合を説明する。


「えぇと、多分大丈夫だよ…しっかり寝たから」


「あの罠な、ユウキが作ったんだ…今度はもっと安全に配慮しろって言っといたから」


「ごめんなさい」


 ユウキ君、意外と原始人スタイルが似合ってる。SF編では体力に自信のないオタク風な出で立ちだったので関心した。

基本体を動かしてナンボのこの時代で生活しているからだろうか、しっかり身体の各部分に筋肉がついていた。前の夢ではメガネキャラだったけどこっちでは当然のように裸眼。きっと視力もいいんだろう。

頭の良さは受け継いでいるみたいで、だから罠なんか作るのも得意なんだろうな。

そんなユウキ君、性格もそんなに変わらないようで僕を目にして申し訳なさそうに謝ってくれた。その姿を見た僕は何だかこっちの方が申し訳なくなって彼をなだめるようにこう言った。

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