11.悪夢を見る猫(34)SF編3
「僕は待機、かな」
次に声を上げたのはコンドーさんだった。やっぱり彼にしてみれば建物の中より外の植物群の方に興味があるのだろう。
「俺は断然探検だ」
こう答えたのはサイトーさん。彼にはぜひ探索に付いて来て貰いたかったからこの返事は有り難い。
「私も珍しい動物とか見たいから…」
こう答えたのは勿論シノハラさん。僕はその答えを実に彼女らしい答えだなって思った。
「ここで僕が待機、何て言う訳がないでしょう?」
最後に答えたのはユウキ君。彼がいないとこの探検は始まらない。
さて、これで全員の希望が出揃った訳だ。うまい具合に自然に班分けが出来たぞ。それじゃあみんなの希望通りと言う事にしよう。
「よし、これで決まりだ。シノハラさんとコンドーさんは待機、何かあった時はよろしく頼むね」
組み分けも決まって僕ら4人は未知の遺跡に探検へと出発した。興味深い何かの発見を期待しながら…。
まずはピラミッドの階段を登って中腹の入り口を目指す。見た目より急な角度に気をつけながら僕らは登っていった。
苦心しながら何とか入り口らしい場所に辿り着くと…想定通りそこはピラミッドの入り口で間違いなかった。
僕らは慎重に警戒しながらピラミッドの内部へと入っていった。
ピラミッドに入った所でサイトーさんが僕に話しかけて来た。
「待機組の2人…多分自分達の好奇心を満たす事で頭が一杯なんじゃないか?」
「だろうね。でもそれは僕らだって一緒だよ」
「確かにな」
僕らはそう言って笑った。ピラミッドの中は狭くて暗い通路が続いていたけど仲間が一緒だから何の恐怖も不安もなかった。
ある程度歩いていると先頭を歩いていたユウキ君が何かを発見したらしい。
「見てください、道が分かれています!」
見てみると今まで一本道だった道がこの先で二手に分かれていた。
うーん、これは悩むぞ…一体どっちに進めば正解なんだ?いや、正解なんてないのかも知れないけど。
取り敢えずこれは僕の独断で決める訳にも行かない。みんなと相談してみよう。
「これは…どっちに進む?」
「この中で二手以上に別れるのは危険です。どちらかを選ばないと」
「この中ではユウキ君が専門だ。君に任せるよ」
みんなに相談と言いながら結局僕はユウキ君の判断に頼ってしまった。
でもみんなその僕の判断に誰も異議を唱えなかった。
後は例えこの先に何かがあったとしても誰も彼を非難しないように気をつける事だな。
みんなの期待を一身に背負ったユウキ君はしばらく考えた後ゆっくりと口を開く。
「任せてくれるなら…そうですね、上の道を行きたいと思います」
「みんなもそれでいい?」
僕は一応みんなに聞いてみた。やっぱりその意見に異議を唱える者はいなかった。うう、何て良いチームなんだ。
でも裏を返せばこれは主張のないチームとも言えなくもないかも。
何もトラブルのない内はこれで良い、僕はそう自分に言い聞かせていた。
「良し!それで行こう!」
しばらく進むとその先が登り階段になっていた。どうやら僕らは上に進む道を選んだらしい。
僕らが一列になってその階段を登っていると列の真ん中にいたサキちゃんが心配そうに一言こぼした。
「罠とか、ないよね?」
確かにこの手の建物には大抵罠が付き物だ。サキちゃんだけじゃない、誰もが当然のように罠を警戒していた。
ユウキ君はこの事についてしばらく考え込んだ後、みんなを安心させるように自分の考えを口にした。
「建物の構造や設計思想などを想定して慎重に進んでいますが今のところ罠の危険性は少ないと思います」
「それでも慎重に進んで行かないとね」
ユウキ君の答えに安心した僕は彼の言葉にこう返した。
その言葉に対してユウキ君が言葉を続ける。
「それは当然です。僕の判断ミスでみんなを危険に遭わせる訳には行きません」
「それより前を見てみろよ。階段が終わるぞ」
サイトーさんのこの指摘の通り、しばらく続いた階段が終わるとまた道は水平に戻った。水平な道はまるで長い長い廊下のようだった。
その時、先に進んでいた隊員達が次々に驚きの声を上げた。
「おおお!」
「す、すごい…」
「素晴らしい…!」
探検する僕らを歓迎してくれたのは一面に描かれた壁画だった。
壁画は平坦になった道の両脇の壁全体に描かれている。
壁画の内容は宗教的なものだろうか?意味はさっぱり分からないけど、その芸術的な美しさはとても神聖な雰囲気が感じられた。
見ようによってはエジプトの古代遺跡でよく見るアレに何となく似ている気がする。
これが描かれたのは何千年かそれ以上昔だろうか?それとも実は結構最近なのだろうか?
とにかくこの壁画はずっと見ていても全然興味は尽きなかった。
「これはすごい、文化的にも芸術的にも大変価値のあるものですよ!」
「ああ…壮観だね…」
壁画を見たユウキ君が興奮している。うん、その気持ちはすごくよく分かるよ。門外漢の僕でもそう思うんだから専門家のユウキ君の興奮はきっと計り知れないものなのだろう。
一緒に壁画に感動していたサキちゃんはここでまたポツリと一言こぼした。
「この壁画を残した生き物はもう絶滅してしまったのかなぁ?」
「さあ、それはまだ何とも…」
この質問に関する答えを僕らはまだ何も持ってはいない。
だから流石にユウキ君でもちゃんと答える事は出来なかった。
サキちゃんも別にハッキリした答えを聞きたかった訳ではなかったんだと思う。
「どうする?まだ道は続いているけど」
真剣に壁画を観察しているユウキ君を見て僕は気を利かせてひとつ聞いてみる事にした。
もし彼がここでこの壁画をじっくり調べたいならそれはそれでいいと思ったんだ。
「え?ええ…調査はいつでも出来ます。この場所は覚えましたし先に進みましょう!」
「良し!それじゃあ行こう!」
僕としてはどっちでも良かったんだけど、ユウキ君がそう言うならここで異を唱える事もない。
僕らは改めてこの道の先へと歩き始めた。探検は道が続く限り歩みを止められないものなんだ。
この壁画の間は思ったよりかなり長く続いていた…進んだ先に待つのは行き止まりなんじゃないかって思うくらいにこの道は長かった。
探検組全員が歩き疲れてしまいそうになった頃、ようやくこの道の終わりが見えて来た。
「どうやらこの道、行き止まりではなさそうだね」
僕がそう言ってユウキ君に話しかけると彼は納得出来ないような顔をして話しかけて来た。
「けれど不思議です。外側から見た感じだとここまで長い空間があるとは思えなかった」
「もしかしてピラミッド内では空間が拡張されているとか?」
僕は何となく思いつきでユウキ君の質問にこう返した。
すると彼は一瞬驚いた顔をして…それでもその答えを素直に受け入れていた。流石若者、頭が柔軟!
「そんなまさか…でもそれ以外では説明出来ないかも知れないですね」
「異星の文明だし何か僕らの知らない技術が発達していても何も不思議じゃないからね」
道の向こうを抜けた先に待っていたのは実に怪しげな部屋だった。
正面には邪神の像のような巨大な像が意味ありげな配置で三体設置してある。その像の手前には人工池…今は枯れているけど。そしてその池を渡す橋。橋を渡った向こうには祭壇のような場所があった。
部屋の壁面にはまるで神話を連想させる彫刻が床から天井まで彫られていて床もよく見ると血管を連想させるような装飾が施されている。
この部屋自体、かなりの広さがあってやはりそれはこの遺跡の外観から計算すると有り得ない事だった。
「嘘だろ?この期に及んで何でこんなでかい部屋が存在出来るんだよ!」
「ここは本当に興味深いですね」
「何だかこの部屋…ちょっと怖い」
この巨大な部屋に対する反応が3人3様で面白い。で、僕はと言えば正直面白いと思っていた。
今のところ別に罠もなさそうだし、この部屋の中も無人みたいだし、派手な事さえしなければ安全に探索は終えられそうだ。
そんな事を僕が考えていたその時だった。