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8.おきゅうり様(1)

 ある村に何でも願いを叶えてくれるきゅうりがありました。

 人々はそのきゅうりを尊敬を込めておきゅうり様と呼んでいました。

 その村の噂を聞きつけたネコはそのおきゅうり様に願いを聞いてもらおうと長い長い旅に出ました。


 普通に考えたらそんなうまい話がある訳がありません。

 もしそれが真実だとしても村の秘密がそう簡単に漏れる訳がないと考えるものです。


 けれどネコには夢がありました。野望もありました。

 その目的の為にどんな眉唾な話でもぶち当たる覚悟がありました。


 ネコはまず噂の出処を探り、その情報を元に村の確かな所在地を知ろうと思いました。

 人の噂は移ろいやすいものです。伝言ゲームのように伝わる内に内容も変わります。

 噂を辿る内にそんな村は存在していないと言う悲しい結果になるかも知れません。

 例えそうだったとしてもネコは自分の中に湧き上がる探究心を止める事は出来ませんでした。


 全ては自分の欲望の為に!


 では、そんなネコの夢とは何だったのでしょう。

 それは何でもいいから何かのジャンルの一流になる事でした。

 ネコはある程度の才能はあったのですがいつも中途半端で一番になった事がありません。

 だから何でもいいから一番と言う称号が欲しかったのです。


「一流への道は果てしなく遠いにゃ…」


 旅の途中でネコはつぶやきました。

 それはいくら頑張って一番になれないもどかしさのようにも聞こえました。


 噂を辿ってある村に辿り着いた時の事です。

 村に着いたネコは早速おきゅうり様の噂について村の人々に話を聞いて回っていました。

 ネコが噂について話を聞き回っていると言う話はすぐに村中に知れ渡りました。

 しばらくしてネコの前に近付く一つの影がありました。


「おめぇさん、あの村に行きたいようだが…悪い事は言わねぇ…やめときな…」


 いかにも何か知っていてそうなおじさんがネコに対してそう言いました。


「おじさんは何か知っているのかにゃ…?」


 おじさんはしばらく何か考えている風でしたがやがてその重い口を開きました。


「そんなに知りたきゃ、付いて来な…」


 おじさんはそう言って歩き始めました。

 勿論ここで諦めるネコではありません。

 ネコは素直におじさんの後を付いて行きました。

 きっとおきゅうり様の村について何か大きな手がかりが得られるだろうとネコはとても興奮していました。


 前を歩くおじさんは小さな家に入って行きます。

 どうやらおじさんが案内したかったのはこの家のようでした。

 雰囲気から言ってそれはおじさんの家のようです。

 ネコは何一つ疑う事なくこのおじさんの家に入って行きました。


「お、お邪魔しますにゃ…」


「おう、まぁ遠慮せずに入れや」


 おじさんはそう言ってお茶を出してくれました。


「あ、有難うにゃ…」


「おめぇさん、あの村を探して旅をしているんだってな」


 おじさんの質問にネコは思わず頷きました。

 おじさんのあまりにも真剣なその眼差しにネコは思わずつばをごくんと飲み込みました。


「あの話は知っている…だがな、いい話ばかりじゃないんだ」


「それはどう言う事にゃ?」


「いい話には裏がある…あのきゅうりは誰の願いも無条件に叶えるってそんな有り難いものじゃないってこった」


 そう話すおじさんは表情は何かを悔やんでいる…そんな風にネコには見えました。


「つまり、願いを叶えてもらうには何か条件があると言う事にゃ?」


「それだけじゃない…あのきゅうりが認めないヤツはとんでもない目に遭っちまうんだ」


「にゃっ…?」


 おじさんの話は今までのおきゅうり様の噂では語られていない事でした。

 この雰囲気から言っておじさんの知り合いか誰かがおきゅうり様に願いを叶えてもらおうとしてそれで失敗したのだろう…と、ネコは想像しました。


「もしかしておじさんは…」


「ああ、俺の弟だよ…馬鹿な弟だった…」


「弟さんは…どうなったのにゃ?」


 このネコの質問におじさんは黙って顎をクイッと動かしてネコの視線を誘導しました。

 誘導された視線にあったものは…かなり出来の悪い不格好なきゅうりでした。


「おじさん…ボクをからかっているのにゃ?」


「嘘じゃねぇよ!信じるも信じないもの勝手だが俺の弟はきゅうりにされちまったんだ!」


 そう言ったおじさんの真剣な顔はこの話が真実だと納得させるのに十分なものでした。

 おじさんの話を聞いたネコはちょっと怖くなりました。


 でもここまで来て何もせずに旅を終えるなんてやっぱり出来ません。

 おきゅうり様の機嫌を損ねればきゅうりにされてしまうとしても上手くご機嫌を取ればそうはならないはず。

 まず、このおじさんにおきゅうり様について知っている事を全部話してもらおうと思いました。


「おじさん、弟さんの事は残念だけどおきゅうり様について他に何か知っている事はないのかにゃ?」


「お前、本気か?下手したらきゅうりにされてしまうと知ってまだあの村に行きたいのか?」


「勿論にゃ!ボクだって生半可な覚悟で旅をしていないのにゃ!」


 そう話すネコの気迫にその覚悟を読み取ったおじさんは自分の知っている事を話してくれました。


「お前の覚悟は分かった。村について教えてやる」


「本当にゃ?有難うにゃ!」


「ただし、どうなっても知らないからな!俺は忠告したからな!」


 おじさんの言葉にネコは力強く頷きました。

 それからおじさんは知っている事をネコに全部話してくれました。

 おじさんの話をネコは真剣に一言も聞き漏らさないように聞き入りました。


「本当に行くんだな」


「絶対に後悔はしないのにゃ!おじさんありがとうにゃ!」


「達者でな…」


 おじさんに見送られてネコはついに噂のその村のある場所にまで辿り着きました。

 ネコがこの村を探し始めて苦節数年、ついにここまで辿り着いたのです。

 もうすぐ願いが叶う…そう思うだけでネコはとても感慨深い気持ちになりました。


 しかしここまで辿り着いてもそこから先へ進むのはそう簡単な事ではありません。

 何故なら村は結界に守られていてこのまま素直に入る事は出来ないのです。


「ここからおじさんの弟さんは村に入っていったのにゃ?」


 ネコが辺りを見回すと目立たないようにぽつんと佇む小さな祠が目に入りました。

 その祠をよく見るとどうやらきゅうりが祀られているようです。

ここまではおじさんの話の通りでした。


 すうっ…。


 まず、ネコは大きく息を吐いて深呼吸しました。

 さて、ここからが本番です。


「おきゅうり様!あなたの話を聞いてここまでやって来ました!どうか話を聞いてくれませんか!」


 ネコはそう宣言しながら想いを込めて真剣に願いました。

 それからどれだけの時間が流れたでしょう。

 ネコは自分の想いが村に届くと信じてただひたすらそこで待っていました。


 ギィィ…。


 ネコがここに着いて半日ほど経った頃、どこかで扉が開いたような音がしました。

 きっとネコの想いが村に届き封印が解かれたのでしょう。

 想いが強ければ村の扉は開かれると、これもおじさんの話の通りです。


 ネコは恐る恐る音のした方に向かいました。

 そこには最初に来た時には見当たらなかった大きな鳥居がありました。


「…きっとここにゃ!」


 初めて体験する不可思議現象にネコは思わずつばを飲み込みます。

 まだ今なら引き返せると心の何処かで警告が鳴り響きます。

 けれど、ここまで来て引き返すだなんて勿体ない!

 少しの葛藤の後、ネコは引き返せない一歩を踏み出しました。

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