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11.悪夢を見る猫(27)天上界編2

「よくいらっしゃいました。マロ…そして大福よ…」


「こ、この度はお目通りを許して頂き有り難うございます」


「え…あ、ご、御座います…」


 天使長の言葉にマロが余所行きの言葉を使うもので僕はちょっと焦ってしまった。

僕はあんまりそんな丁寧な言葉を知らないぞ…こりゃ参ったなぁ。

今は一応マロが側にいるから出来るだけ奴の真似をしてこの場を何とかやりすごそう。

そんな訳でマロが天使長に対して深々とおじぎをするものだから僕もワンテンポ遅れてそれに倣っていた。


「ふふ、頭を上げてください。もっと気楽に話をしましょう」


「え…、あ、恐縮です」


「…です」


 しかしこの天使長、優しくて暖かい雰囲気の声だけどどこか聞き覚えがあるような…。

これは自分の夢なんだし、もしかしたらモデルになった人がいるのかも…。


「今回は何の用かしら?」


「あの…今後の私達の事についてどうか御助言を頂ければと…」


「ればと…」


 うう、何だかこれじゃ僕はマロの木霊みたいだ。

思えばここにだってマロについて来ただけで自分の意志で来た訳じゃないし…。

そりゃおまけみたいな感じになっても仕方ないよね。


 しかし天使ってもっと気楽なものだとばかり思っていたよ。

適当に起きて適当に天使の矢を撃ち込んで恋の手助けとかして適当に死んだ人の魂を天国に送って…。

そんな感じのゆる~いイメージを持っていたんだけど…。


 そもそもこの夢の中の天使って具体的にどんな事をする存在なんだろう?

どうせ僕の夢の中なんだからもっとダラダラ過ごしてもいい気がするんだけどなぁ…。

大体現実の僕は最大限にダラダラしているのに…夢の中の方が働き者って…。


 僕が心の中でそんな事を思っていると天使長からの言葉が響いた。

どうやらこんな僕らにピッタリな仕事を天使長自ら教えてくれるらしい…。


「いいでしょう…それではあなた方には…」


 天上界にそびえ立つ大きな門。そこは魔界と繋がっているため通称魔界門と呼ばれている。

この魔界門は魔界からの侵入者を防ぐ為に普段は固く閉ざされている。

僕らはそこに配属となった。


 そこで僕らが一体何をするかと言うと、門で防ぎ切れなかった侵入者を見つけ、追い返す事。

門で防ぎ切れなかった魔物と言っても決してそれは恐ろしく強い魔物とかではない。

そんな魔物が来たら逆に絶対門は開かないしもし門が破られるようならこちらももっと上の実力者の天使達が対応する事になっている。


 つまり、門が反応しないくらいの弱い魔物を追い返すと言う、初心者でも務まる全く何でもないお仕事だ。

そう言う魔物は天上界の霊気にやられて自然に浄化されるのが落ちなんだけどたまに何とか耐え切るのが出るからそう言うのを見つけてはつまみ出すのが僕らの主な業務と言う事になる。


 僕らは先にその仕事をしていた先輩方に挨拶をしてこの仕事を引き継いだ。

この仕事は職業訓練的な意味も込められていて新人が来るとそこで交代する習わしらしい。


「まぁ、妥当なところだよな」


 仕事についた初日、マロはそうこぼした。

取り合えず楽な仕事につけて僕は安堵していたんだけど。


「ここを出てからが本当の勝負だよな…」


「マロはこれから先、何かしたい事とかあるの?」


「やっぱさぁ…活躍出来る仕事がいいなぁ。この腕を腐らすのは勿体ないぜ」


 とにかく身体を動かしたいマロはこの仕事がとにかく不満みたいだ。

何かあるとすぐに自分の実力を誇示している。まぁ、見ているのは僕だけなんだけど。

それがあんまり度が過ぎるんで僕は奴にどんな事がしたいのか聞いてみた。


「そもそもマロは何がしたいの?」


「何ってそりゃお前、この鍛えた腕でこの世界を脅かす魔物共をやっつけるんだよ!」


「へぇぇ…夢が叶うといいね」


「何だよ…バカにしてんの?って言うかお前はどうなんだよ」


 あれま…素直に感心しただけなのに…この僕の返答がマロには皮肉のように聞こえたらしい。

もしかして返事した時に誤解されるような変な表情しちゃったかな…気をつけないと。


 しかし魔物と戦おうだなんてよっぽど自分の実力に自身があるんだなぁ。

相手も命懸けだろうから怪我したり最悪死ぬかも知れないのに…。

僕はそう言うのは嫌だな…もし願いが叶うなら…。


「僕は…楽な仕事がしたい…出来ればずっと眠っていたい」


「はぁ…やっぱお前は天使になっても猫なんだなぁ」


「マロだって犬だよ、見た目も性格も」


「そりゃどうも」


 門番の仕事はとても楽だった。楽って言うかそれ以前に暇だった。

そりゃそうだよね…大抵の魔物はこの門に防がれて侵入出来ないし抜け出るような雑魚魔物は本当に弱っちいし。

僕らはまるで害虫駆除のようにたまに侵入してくるそんな弱った魔物を機械的に処理していた。

基本的に追い返すだけだから特に心も傷まない。ああ、何ていい仕事なんだ。


 ただ、美味しい仕事だけあって次の人員が来るまでの間しか働けないんだけどね。

マロは仕事内容が緩過ぎて腕がなまるって日々愚痴ってるけど。

楽だから僕はこの仕事がとても気に入っていた。


 実際、魔界から天上界を狙う魔物は多い。天上界を攻略すれば次は神々の住む神界だから。

魔物は神々に取って代わるのが目的だからとにかく天上界を攻略しようと何度もやって来る。

この門は神界から送られて来たもので神々の力が宿っているからよほどの魔界の大物でもない限り破られる事はない。

その事は当の魔物達も知っている。それが分かっていて尚、魔物はこの扉に向かってくる。

本当、少しは学習して欲しいよね。


 魔物がこの門以外を目指さないのはこの門が魔界にあって直接門を通じて天上界に通じているから。

この門を通る以外の方法で魔界から天上界まで上がろうとするとやたらと障害があるらしい。


 何故そうなっているかと言うとかつて天使と悪魔が戦うような時代があってそこでこちらから直接魔界に行く必要があったからだとか何とか…。

最早伝説のような話なので今の天上界でこの事はそこまで重要な話でもないかな。


「うう~暇だ~」


「暇でいいじゃん」


 マロは相変わらずの単調な日々に愚痴をこぼしている。僕はそんな奴の愚痴を右から左へと受け流す。

門番の仕事にも慣れてそんな日々がここ最近ずっと続いていた。ああ、平和だなぁ。


 僕がそのぬるま湯な時間に浸っているとその態度が気に入らなかったのかマロが突然説教をし始めた。


「いいかお前、ここの仕事は交代要員が来るまでなんだぞ?次が来たら強制的に別の仕事を選ばなくちゃいけない」


「そうだね」


「その時に腕がなまっていたら警備隊とか試験で落ちるかも知れないだろ」


 なるほど、マロが焦っていたのはそう言う事だったのか。

確かに体力がないとそう言う仕事は無理だろうからなぁ。

考えてみれば僕はこの先の事なんて全然考えていなかった。

成り行き任せでどうにかなるだろうって…そう考えるとマロは偉いなぁ。

ここはひとつ、そんな先の事を考えているマロの為に一肌脱いでやろうと僕は思った。


「じゃあ自主トレとかしてれば?ここは僕が見ているよ」


「ここは仕事をずっと見られてるんだぞ?真面目にしてないと次の仕事の採用に影響するんだ」


 魔界門はいつ魔物の襲撃があっても対応出来るように24時間常時監視体制が敷かれている。

つまり僕達門番の仕事は常時しっかり記録されていると言う訳。

でもマロの言う通りにこの仕事の勤務内容が次の仕事に影響するって言うのはただの噂でしかないんだけどね。


「本当マロは真面目なんだから…」


 正直な所、僕は不真面目に思われたって別に構わないって思ってる。

だって無理して真面目を演じてその評価を得てもそれを維持するためにその後も無理をし続けていたら結局自分で自分の首を絞める事になるもんね。

仕事だって遊びだって素の自分を素直に出すのが一番楽だよ、うん。

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