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11.悪夢を見る猫(24)アイドル編2

「ごめん…ついびっくりしちゃって」


「下手な事やったらもう二度と呼ばれなくなるんだぞ!気をつけろよ!」


「だから謝ってるじゃんか」


「いいか、お前がヘマしたら俺も連帯責任なんだ!分かるよな?」


 マロがものすごい気迫で僕の顔を見つめてくる…プレッシャーがすごい…。

ここまで真剣なマロは今まで見た夢の中でも一番かも…。

出来ればマロは今まで見て来た夢みたいに軽くてノーテンキなのがいいなぁ。


 ああ、アイドルしているサキちゃんをもっと見ていたい…。

でも僕らは出番の関係もあってそれを見る事は出来ない…うぅん、残念。

仕方ないからマロに色々聞いてみよう…でも気を悪くさせちゃったから聞いてくれるかなぁ…。


「あ、あのさ…僕らにマネージャーっていないの?」


「あ?サイトーさんならそこにいるだろ?」


「え?あ、本当だ、いた」


 えっ?僕らのマネージャーってまさかのサイトーさん?マロが指し示した場所を見ると確かに見慣れたおっさんがそこにいた。

おっさんなのにこんな我儘な若造のマネージャーなんて大変だろうな。後で挨拶しとかなくちゃ。


「サイトーさんに何か用があるのか?」


「い、いや別にそんな事は…」


「変なやつだな」


 不意に僕がマネージャーの事を聞いたものだからマロにそれを不審がられてしまった。

ただ知らなかったから聞いただけであんまり深い意味はないんだけどな…。

あ、そう言えば肝心な事を聞くのを忘れていたぞ…。急いでマロに確認を取らなくちゃ。


「それで?僕らの歌う歌って確か…」


「『自転車に乗って』って言う青春ソングだよ」


「そうそれ!売れてるんだっけ?」


「発売はこの番組が放送されてから2日後からだからまだかなり先だよ…おいおい大丈夫か?」


 なんだ…今日歌う僕らの曲はまだ発売前だったのか。

出来れば僕らの人気とか知っておきたかったんだけど…残念。

えぇと…ここは取り敢えず話を合わせておこう、うん。


「あ、ああ!そうだったそうだった、うん、宣伝だ宣伝」


「ったく、しっかりしてくれよ…」


 マロと色々話していたらついに僕らの出番が来た…ふぅ、緊張するなぁ。

今回は歌だけの収録だからメイン司会の人とかと直接的な絡みはない…ちょっと残念だけどおかげでそこまで緊張しなくて済むのは良かった。

しかし目の前に沢山のカメラって…うう…やっぱり緊張する。これが生放送じゃなくて良かったよ。


「みなさ~ん、マロ&フクでーす!よろしくお願いしまーす!」


 何故だか分からないけどマロはこの状況に全く物怖じせずに堂々と喋っている…すごいなぁ。

僕はもうガッチガチになって一応口は動かすけど何て喋っているのか自分でもよく分からない。

うーん…こんなんでいいのかな…でももう流れに任せるしかないか。


 頭の中が真っ白になっているとやがて前奏が流れて来た。そうだ歌、歌を歌わないと。


「青い~空を~♪」


 歌い始めると不思議と僕の身体から緊張が取れていた。

そしてこの歌、初めて聞く歌のはずなのに身体が覚えていたのかスラスラと歌詞が口から出て来た。

これが今回の夢の夢補正か…。一瞬の内に歌は歌い終わって僕らのテレビ出演はこうして呆気なく終わった。


 収録が終わって僕らは改めてお互いに感想を言い合った。

最初に口を開いたのはマロの方だった。


「何だかんだで歌はちゃんと歌えて良かったよ」


「マロの歌声、悪くないね」


「何だよ今更、気持ち悪いな~」


「褒めてんだから素直に受け取れよ」


 正直歌の雰囲気はちょっと古臭くてアレだったけど出来は結構悪くない気がした。

それに初めて聴くマロの歌声、これが結構甘い感じでいいんだわ~。

正直びっくりした。普通に女子受けそう。

でもマロはどうも素直じゃないんだなぁ。でもこれがファンからの感想だったら反応も違うんだろうな…。


 そうやって2人で話しているとマネージャーのサイトーさんがニコニコ笑いながら僕らに話しかけて来た。


「いや~お疲れ様~。いい感じだったよ~」


 今回のサイトーさんは優しそうな感じだなぁ。アイドルのマネージャーだからかな?

これが例えビジネス優しさだったとしても怖いよりはよっぽどいいや。

僕はサイトーさんに今後の予定を聞いてみる事にした。


「サイトーさん、今後の予定はどうなってるの?」


「まだ新人だからね…プロモーション、小さい場所が多いけどまずはみんなに知ってもらわないとね」


 それから僕らの営業が始まった。

後で知ったけど僕らはデビューして半年の新人アイドルだった。

今回はセカンドシングルの発売に合わせた仕事をしている最中らしい。

今はリリース前のイベント、いわゆるリリイベを精力的にこなすスケジュールになっていた。

う~ん、夢の中とは言え、何て本格的なんだ…。


 で、僕らの人気だけど流石にデビューしたてだけあってしょっぱい感じだった。

所属事務所が大きければしょっぱなから絶大な人気だったりもするけど残念ながら僕らの事務所は中堅の芸能事務所。

所属アーティストの中には大物アーティストもいない事もないみたいだけど完全な実力主義で事務所の力にあんまり期待は出来ないみたい。


 とは言え2枚目のシングルの宣伝でテレビに出させて貰えるのだから待遇がそこまで悪い訳でもないのか…。

小さな事からコツコツと…まぁそう言う売り方の方が経験がしっかり積めていいんだろうね。


 それから僕らは積極的にイベントをこなしてそれなりに知名度も上がって来た。

今はネットって武器もあるし動画を上げて積極的にアピールしたりファンサービスもしっかり取り組んだ。

セカンドシングル発売時にはそれなりの手応えも感じたんだ。やっぱ夢の中だけあって順調だなぁ。


「ライブのお客さんも回数をこなす度にどんどん増えてる!いい感じだね!」


「俺とお前ならもっと上を目指せるさ!こんなもんじゃない!」


 正直、最初は歌もダンスも全く自信がなかったんだけライブをしていく内にどんどん楽しくなって来た。

もうこれが天職なんじゃないかって思えるくらいに。

頑張ればファンが応援してくれる。反応があるのがただ嬉しかった。


 ある程度人気が出たと言う事でレギュラーラジオ番組の仕事も決まった。僕らの初のレギュラー番組だ。

ここから僕らの快進撃が始まるってその時は本当にそう思えたんだ。


 そうして今日は記念すべき一回目のラジオの収録…ゲストでラジオ番組に出た事はあるけどここでは自分達がメイン、うう、緊張するなぁ。

ディレクターからのサインが出ていよいよ放送が始まった。よし!頑張るぞい!


「どうも~!マロ&フクでーす。今回から始まりましたこの番組…」


 ラジオの第一声はマロが担当した。奴はいつだって物怖じしない。

今回もまたいつも通りのテンションで喋り始めている…ああ、頼りになるなぁ。


「…と、言う訳なんだ。で、フクは何か苦手なものある?」


「ひょえっ?」


うう…いきなり話を振られて焦ってしまった。変な声で反応しちゃったよ。

ここでスタジオから笑いが漏れる。うん、ネタとして受け取ってもらえると有り難いや。


「おいおい大丈夫か?まだ緊張してる?」


「ごめんごめん…えぇと、苦手なものだったよね?特にはないけど…」


ここまでは普通の対応をしていたんだけどこの質問に関してやっぱり無意識にあの事を喋ってしまったんだ。


「強いて言えばきゅうり、かな。何故だか最近すごく苦手になっちゃって」


今思えばあんな事言うんじゃなかったって思えるんだけどあの時はそんな事全然考えていなかったね。

もし時間を遡って当時の自分に会えたとしたならこの時の自分をどうにかして止めたいよ。

本当に、口は災いの元だなって…迂闊な事は言うものじゃないね。


「きゅうり?あれ美味しいじゃん!何が苦手なのよ?味?それとも…」


僕の苦手なものにマロが勢い良く食いついて来た。マロのきゅうり好き、健在だった!

やっぱ自分の好きな物が苦手って事になると追求したくもなるんだろうな…その気持ちも分かるよ。

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