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11.悪夢を見る猫(23)アイドル編1

「うわああああああ~っ!」


ガバッ!


ああ、やっぱり夢からは覚めてない。

でも今回はまた夢の中で良かったよ。あのマロに負けたまま夢から覚めるなんて夢見が悪いからね。

それにしても今度はまた現実的な部屋だなぁ。まるで芸能人の楽屋みたいだぞ…。


 おっ?ちょうど目の前に鏡がある。ちょっと確認してみるか。

そう言えばこの夢の最初から自分の顔が死にそうな顔とか言われていたからなぁ。

今でもまだ景気の悪い顔をしてるのかな…。どれどれっと。


「おおっ?」


 鏡に映った僕の顔は死にかけどころかきっちりメイクされていた。

その顔は例えて言うならまるで売出し中のアイドルみたいだ。

つまり状況から判断して今度の夢は…僕は芸能人になっちゃったのかな?かな?

僕が今の状況をぼんやりと想像していると突然部屋のドアが開いた。


 ガチャ。


「おい、早くしろよ!出番もうすぐだぞ!」


「おお、マロ。どうしたそんな格好して」


 ドアから顔を出したのはシュッとした格好のマロだった。

マロもまた僕と同じようなアイドルみたいな格好をしている。

その格好…似合っていると言えば似合っているようにも見える。

しかしまたお互いどうしてこんな格好を?

僕がそのマロを珍しい物を見るような目で見ていると奴は急に怒鳴って来た。


「アホか!俺達ユニットだろーが」


「え?そうなん?」


「ちゃんとしてくれよ…この番組での評判が俺達の将来に直接関係してくるんだぞ」


 番組?そうか、この楽屋はそう言う事なんだ。

どうやら僕らは音楽番組か何かに出演する事になっているらしい。

しかし根本的な事がまだ分からない。これマロに聞けば分かるかな?


「ところでさあ」


「何?!」


 うーん、僕の態度にマロがイライラしている。

そんな態度を取られたって状況が分からないから仕方ないじゃないか。

やっぱりここはハッキリ知っておかないといけないな…。


「えっと、僕らって何やってんだっけ?お笑い?」


「おまっ!アイドルに決まってんだろーがっ!」


 ああ、やっぱり。今度の夢はアイドルの世界が舞台なんだ。

この夢の元ネタもサキちゃんかな?彼女、芸能界にも憧れていたからなぁ。

でもアイドルと言えば歌やダンスのプロ…それを今から僕にやれと?

マロの話を聞いて僕は急に不安になってしまって奴に一応確認してみる。


「やっぱり?歌とか歌うの今日?」


「それで呼ばれたんだよっ!まさか歌詞忘れたとか?」


「えぇと…」


 僕の質問にマロはイライラを爆発させた。どうもマジみたいだなコレ。

しかしいきなり歌を歌えって言われてもこれは流石に困るなぁ。

大体、歌うって言ったって曲も歌詞も何も全く知らないんだけど…。

この僕の心配を察してかマロが声を荒げて説明をした。


「いいんだよ今日は、カンペあるから!多分被せだろうし自信ないなら口パクでもしてろ!」


「被せ?」


「あーもう!歌自体は別音源流す方法だよ!」


 あ、そう言えば聞いた事がある。アイドルの中には生歌じゃない人もいるって。

最近のアイドルはダンスも激しいから中々踊りながら歌えなかったりするんだって…。

でも被せって手抜きじゃないかって批判も多いらしい。

でも演じる側となったら被せの理由も分かる気がするなぁ…。

特にこう言う場合とかだと大助かりだし。


「なるほど、つまり曲とか覚えている必要はないんだ」


「取り敢えず今日だけだぞ!後でちゃんと覚えろよ!」


「ところでマロは大丈夫なの?」


「馬鹿!お前とは違うわ!それより早くしろよ!」


 マロは最後にそう言うと楽屋のドアを勢い良く閉めた。

僕の質問がマロの機嫌をより悪くさせてしまったみたいだ。

ふと心に浮かんだ言葉がつい口から出ただけで特に悪気はなかったんだけどな…。

それにしても…こんな僕がアイドルか…これは大変な事になったぞ。


 確かアイドルにはマネージャーって言うのがいてスケジュールの管理とかをしているはずなんだけどやっぱり僕らにもそう言うのっているのかな?

マネージャーに聞けば今の僕らの立ち位置とか今後の方針とか聞けると思うんだけど…いるとしてその人は今どこにいるんだろう?

ここは夢の世界だし現実のそれとは違うんだろうけど。


 あ、そうだ!ここでグダグダしていたら呼びに来てくれるかも!

でもそれは正しい方法じゃないか。周りにも余計に迷惑かけちゃうし。


 で、それはそれとして準備って具体的に何をどうしたらいいんだろう?

一応メイクは出来ているっぽいし服もこれでいいような気はするし…。

うん?それじゃあこのままでいいって事かな?

そこで僕はひとつ大事な事に気が付いた。テレビ番組に出演と言う事は…。


「そうだ!台本だ!」


 前にサキちゃんと一緒に見ていたテレビで番組には台本と言うのがあってそれに段取りとかが書かれているって言うのをやっていた。

ここが僕の夢の中だとしてもその情報が反映しているとするならこの楽屋の中にもきっと台本が…っと、あった!


 僕は楽屋を見渡してすぐに台本らしい冊子を見つけた。それは楽屋にある机の上に無造作に置かれていた。

台本を見つけた僕は早速それを手に取ってペラペラとめくってみる。


「えぇと…何々?」


 どうも僕らが呼ばれたのはコメディっぽい音楽番組らしい。

司会はお笑い芸人の人で簡単なインタビューの後にコントだとかゲームとかやるみたいな…最近の音楽番組でよく見かけるタイプのアレだ。

でもそれはメインで呼ばれた人がするコーナーで僕らはまだそのレベルではないっぽい。


 えぇと…僕らの仕事はっと…呼ばれたらカメラに向かってちょっと挨拶してそれから歌を一曲収録して終わり…。

この扱いからして僕らは新人かまだそれほど売れてないアーティスト枠って事だな。ふむふむ…なるほど。


 おっと、ずっとここでこうしてもいられない。時間が押してるんだった。

この台本によると収録は第7スタジオか。お、そこまでの地図も書いてある。

早速この台本を手にスタジオに向かうとしよう。何か不備があったらきっとマロが指摘してくれるだろうさ。

僕はようやく重い腰を上げて楽屋を出てスタジオに向かう事にした。


「第7…第7…」


 目的の階に着いた僕は地図を頼りに収録スタジオを探す。

局内はあんまり分かりやすい間取りではなかったけど台本に書いてある地図とにらめっこしながら何とか目的の場所に辿り着いた。

ああ…遅刻していないかだけが心配だよ。

スタジオの扉を明けるともう番組の収録が始まっていた。

突然扉を開けたのでいきなり僕に注目が集まる。


「何やってんだよ!」


 スタジオに入ってすぐにマロに怒られた。随分遅くなっちゃったもんね。

迷惑をかけたお詫びも兼ねてここは素直に謝っておこう。


「ごめんごめん…もう始まっちゃった?」


「出番はまだだけどこう言うのはもっと早くスタジオ入りするもんなんだよ」


「ごめんって…次から気をつけるよ」


 遅れはしたけどどうやら僕らの収録には間に合ったっぽい。

時間があるならマロに色々聞くかな…それとも…。

僕は番組収録の方に興味を持って少し収録している様子を眺めてみた。

どれどれ?呼ばれているのはどんな人かな?

ひょいと覗くと今回メインで呼ばれていたのは可愛い女の子だった…しかもすごく見覚えのある…。


「えええっ!」


 女の子をよく見た僕はびっくりしてしまった。この声がマイクに拾われてなきゃいいけど…。

でもびっくりするのも当然だよ…だってそこにいたのはサキちゃんだったんだもの!


 彼女、芸能界に憧れてはいたけどついに芸能界デビューしたんだね!僕の夢の中だけど…。

僕はサキちゃんにおめでとうって声をかけに行こうとしたけど、その行為を見つけた周りのスタッフ達に止められてしまった。

あはは、そりゃそうだよね。ここで僕が出て行ったら番組が無茶苦茶になっちゃう。


「何やってんだよ!こっち来いよ!」


 その騒動を見てマロが僕を引っ張っていく。周りのスタッフ達に何度も頭を下げながら。

ああ…自分勝手な行動をした事を後でマロにちゃんと謝らなくちゃ。

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