11.悪夢を見る猫(20)忍者編2
そんな訳で僕はほいほいと隣国の城の近くまで来ていた。
うん、まだ顔が知られてない以上、ここまでは余裕だ。
さて、ここからどうやってこの城を攻略しよう…。
取り敢えず作戦決行は日が暮れて夜になってからだ。
まずは昼間の内に徹底的にこの城やその周辺を調べてみねば…。
侵入ルートに脱出ルート…重要機密の眠る城の資料室の場所の確認…。
しかし殿から渡された協力者が描いたと言うこの城の見取り図…これは信用出来る代物なんだろうか…その確認もある…。
ふんふん、ふんふん…良し、大体この城下町の様子は把握出来たぞ…。
次は警備…ほう、それなりに堅固そうじゃないか…城門の前には見張りが2人にその奥も素直に侵入出来ない感じだ。腕が鳴るな…。
対人相手なら夜陰に紛れて動けば気配を消した僕に誰も気付きはしないだろう…。
納得出来るまでに調べた僕は城から一番近い蕎麦屋で空腹を満たした。腹が減っては何とやらだ。
しかしこの世界での一番の疑問はいつもならとっくに出て来ているはずのあいつの存在だ…何故まだ現れていない?
この夢だけ系譜が別ならばサイトーさんがまた現れた説明はつかないんだよなぁ…。
いずれにせよこの先の展開で奴は必ず僕の目の前に現れる!僕は確信もなくそう信じていた。
昼食を済ませて適当な所で暇を潰した僕を夕日が照らしている。
その頃僕は城下町の外れにある無人の神社の境内にいた。
別にこの作戦の成功を神頼みしていた訳ではないんだけど町中で目立つ行動をして変に嗅ぎつけられるのもまずいしここにいるなら誰かがつけて来ていてもすぐに分かる…どうやらその心配は杞憂だったみたいだけど。
誰もいない淋しい境内でしっかり昼寝して体力と気力を蓄えた僕は日が暮れると同時に早速行動を開始した。
すっー。
気配も足音も消して僕は城内に入り込んだ。
まずここまでは何も問題なし。警備の侍もうまく交わして本丸へと急ぐ。
「うーん、この警備の手緩さ…たるんでるんじゃないか?」
僕は走りながらそんな事を考えていた。聞いていた殿の話と少し違う。
殿はこの城が軍備を増強して戦争の準備を急いでいると言っていた。
まさかその情報自体がガセだとでも?
僕はこの頭に浮かんだ疑念を振り払い取り急ぎ城内部にある機密情報を収めた資料室を目指した。
その部屋にはこの城やこの街に関する資料が沢山収められているらしい。
こう言う情報を知っておけば後々必ず役に立つ…。
猫独自の身軽さで安々と城内部へと入り込んだ僕は見取り図の通りに進んで行く。
どうやらこの見取り図はかなり正確なようだ…これを殿に渡したこの城の裏切り者の正体は何者なんだろう?
この情報を入手出来る人物ともなればかなり数は絞られてくると思うんだけど…。
「おおっと、行き過ぎた」
目指すべきは資料室なのに僕は通り過ぎてうっかり大広間に出てしまうところだった。危ない危ない。
しかし城内に入ってからも少し様子がおかしかった。
警戒しながら進んではいるものの…何故だか城に配備されている人員の数が少ない…。
普通夜とは言えもう少し城には人がいるものと思っていたんだけど…。
僕は罠の可能性も考慮に入れてより一層慎重に気配を消した。
城内を走っていた僕はその場所で足を止める。
そして入念に城の見取り図とにらめっこした。
何度も何度も確認をしてこの場所を把握する…うん、ここで間違いはない!…はずだ。
目の前の場所こそが資料室…そう、この見取り図の通りならば…。
僕は意を決して目の前の戸を慎重に開けた。
室内はやたら暗い。そして部屋の中央にはろうそく台に乗ったろうそくが弱い炎を揺らめかせていた。
「こ、ここが資料室?」
じっくり目を凝らしてみても部屋の内部は暗くてよく見えない。
でもろうそく台の置かれている所にきっと机があるんだろう。
部屋の雰囲気から察する限り怪しさ爆発モノだったけど、ここは虎穴に入らずんば虎児を得ずだ!
僕は罠を警戒しながら慎重にこの部屋に足を踏み入れた。
カチッ。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
部屋に足を踏み入れてすぐに僕は足元の謎のスイッチを踏んでしまった。
すると突然何か大きなからくりが動いて部屋自体が装いを変えていく。
部屋の中が薄暗かったので何が起こっているのか詳しくは把握出来なかったけど…。
「ぐ…」
びっくりしても大声を上げる訳にはいかない。何せここは敵の本拠地なのだから。
暗い中で少しでも状況を把握しようと僕は辺りをぐるぐると見渡した。
「一体何が…」
ガタッ。ガタガタッ!
そのからくりは部屋を大きく動かし、僕は不安ばかりが増していった。
けれどここで大声を出して大きな騒ぎにしてはいけない…僕はとっさにそう判断して慌てて口を抑えた。
どこからか聞こえる振動は更に大きく激しさを増し…まるで部屋ごとどこか別の場所に運ばれているような錯覚すら覚えていた。
ズズ…ウン!
やがて大きな振動が止まると急に周りが明るくなった。やっぱりこれは罠だ。
罠にかかった僕を待ち受けていたのは見覚えのあるシルエットだった。
「ようこそいらっしゃった、飛んで火に入る夏の虫よ」
「お、お前は!」
そこで僕を待ち構えていたのは見覚えのある茶色いあいつ…そう、マロだ。
ヤツはこの部屋の奥の上部のガラス張りの部屋でふんぞり返っていた
それはまるで実験室を見下ろす研究者のようなそんな感じだ。
そしてマロもまた立派な大袈裟とも言えるくらいの派手な忍者モノっぽい服を着ている。
それにしてもこの夢にいつまでも現れないと思ったらまさかの敵側での登場とはね、恐れいったよ。
しかし姿が見つかってしまった以上、ここで逃げ出す訳にも行かないか…。
マロはさっきの僕の言動に対して驚いた顔をして質問して来た。
「お主、儂を知っているのか?」
「お前、マロだろ?」
「何故お主が俺の名を?儂はお主を見たのは今が初めてだと言うのに」
マロに前の夢の話なんてしてもきっと無駄だろう…そう思った僕はこの質問には答えなかった。
初めて会った相手が自分の事を知っていると言う状況にマロは困惑していた。
そんな困った顔をした奴に今度はこっちから質問をぶつけた。
「ここは資料室だと聞いていた…それがこの有様…マロ、お前が嵌めたのか?」
「いかにも!今までも何人もの忍びをこうして『処理』して来たのだ!」
マロは何も隠さずに薄ら笑いしながら素直に僕の質問に答えた。
と言う事はつまり僕を二度とこの城から出す気はないと言う事なのだろう…何と言う自信!
僕はそんなマロの鼻っ柱を折りたくなって精一杯の強がりを言った。
「今回ばかりはそう上手く行かないからな!」
「ふふ…誰もが最初はそう言う、誰もがな…だが結果は儂の思惑通りよ!」
奴は僕の強がりも一向に意に介していない。
その偉そうな上から目線台詞はまさに悪のラスボスのような不遜さだ。
僕はマロのその態度の根拠が知りたくなって改めて聞いてみた。
「マロ…お前は一体」
「儂はこの城の忍び頭…忍びの棟梁よ!お主如きに直々に手を下すのを有り難く思え!」
いつになく本格的な敵意を向けるマロに僕は思わず唾を飲み込んでいた。
こいつ、敵に回すとここまで変わってしまうものなのか…。
「どんな手練の忍びもこのからくりを前に散って行く…そう、お主もだ!」
マロはそう叫んで近くのレバーを引いた。
どうやらこの部屋自体がそう言うからくりで出来た部屋らしい。
む!どんな仕掛けが来ようと僕は負けない!どんと来いからくり屋敷!
すると瞬く間に部屋の壁の一部が回転してそこから無数の手裏剣が飛んで来た。
ビシュッ!
ビシュビシュッ!
僕は空気の振動を察知して飛んで来る手裏剣を器用に避ける!
自慢のヒゲセンサーを駆使すればこんなのは造作も無い事!
「やるな!だがこれからだ!」
マロはそう言って次に何かのスイッチをポチッと押した。
途端に足元の床がパカッと崩れて落とし穴が出来た。
あ、こう言うの前にアニメとかで見た事がある!
確か失態を犯した悪の部下がそれで処分されるんだよね!