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11.悪夢を見る猫(19)忍者編1

「うわああああああ~っ!」


 ガバッ!


 ふぅ…怖い夢だった。夢を見るたびにきゅうりが怖くなって来るよ。

流石にそろそろ夢から覚め…てなーい!


 僕が目覚めたのは何か武家屋敷の一室のような部屋だった。

質実剛健と言う言葉が似合うこの部屋は僕以外の気配が何も感じられなかった。


 何ここ?また昔話の世界?

その割にあんまりのどかな世界観じゃないような?

それとさっきから感じるこの変な緊張感の正体は一体何なんだろう?

うう…嫌な予感しかしないなぁ。


「まだ寝ておるのか!起きよ!」


 おおっ!何か威厳のある人が起こしに来た。

おっ、この人昔の侍のような服を着ているぞ…。


「何をグズグズしておる、それでも忍びか!」


 え?忍び?もしかして今の僕は忍びなの?

何それちょっとかっこいいぞ…。いい役来たなコレ。


「えぇい!起きて来ぬなら朝飯は抜きじゃ!」


「ちょ、起きる、起きるから!」


「なら早く着替えを済まして降りて来られよ」


 おっさんはそう言うと怒りながら階段を降りていった。

何て短気なおっさんなんだ…。気が余り合いそうにないぞ。

それはそうとこの部屋は結構建物の上の方にあるんだな。

上に続く階段が見当たらないところから見て最上階…なのかな?

まぁぶっちゃけ屋根裏なんだろう…何だか忍者の部屋っぽいよね。


 しかし中々時間に厳しいおっさんだったなぁ。

でもどこかで見た事があるような…あ、そうだ!あの人って最初に夢で会ったあの小屋にいたおっさんだ!

今度はあのおっさんまでレギュラーキャラで出て来るのかよ…今後も再出演するかも知れないし次に会った時は名前を聞いてみよう。


 取り敢えず僕は用意されていた忍装束に着替えて部屋を降りていった。

何回か階段を降りるといい匂いが漂ってくる。目的の場所はもうすぐだな。


「おお、やっと来たか、待ちくたびれたぞ」


 匂いの元の場所に辿りつくとそこでは大勢の武士っぽい格好をした人達が揃って座って待っていた。

あ、こう言うのどこかで見た事があるぞ…多分何かの時代劇だな、元ネタ。

サキちゃん基本時代劇はあんまり見ないんだけど好みの俳優さんが出る時だけはしっかり見ていたっけ。

その時に見た映像とこの夢の雰囲気がそっくりだ…。

多分間違って覚えている部分もあるんだろうけどこれは夢だから別にいいよね。


 僕はこの侍達の様子をじっくり眺めて知り合いがいないか確認してみた。

今までのパターンだと絶対この中にあいつが紛れ込んでいるんだよな…。


 …って、えっ?あれっ?おかしいな?見落としたかな?

これだけ目の前に多くの人がいるのにあいつがいない?何で?


「これ、早く座らんか!」


 背後でまたあのやかましい声が聞こえた。それは勿論あのおっさんだ。

おっさんは顔を赤くして今にも沸騰しそうなほど怒った顔をしている。

うひぃ…これは何か言い訳した方がいいよね、うん。


「や、ええと…僕の席は?」


「よく見てみろ!ひとつしか空いておらんじゃろうが!」


 おっさんは怒りながら僕に目の前の空いている席を指差した。

おお、これは分かりやすい。ここは素直に話を聞いておくか。


「あ、そうですね、はい。それじゃあ失礼しまーす」


「全く…」


 僕の態度が悪かったからかおっさんはその不満気な顔を崩さなかった。

そんな不機嫌なおっさんに対して殿様は場をなだめるように口を開く。


「まぁまぁ、そう怒るものではないぞサイトー」


「ですが殿!こう言うのは厳しく致しませんと…」


 ほう、おっさんの名前はサイトーと言うのか。大福覚えた。

それはそれとして僕が席に着くと同時に朝食は始まった。

この場にいたみんなが一斉に朝食を口に運んでいく。


 うーん、僕は猫だからあんまりこう言う団体行動って言うのは得意じゃないんだよね…。

それに何だか僕はこの場違いな空気にうまく馴染めないでいた。

うう…何だか空気が重いや…。

僕のその雰囲気を察して殿様は気さくに僕に話しかけてくる。


「どうした?浮かぬ顔をして…」


「いえあの…慣れなくて」


 殿様に心配されて僕は苦笑いを浮かべる。本当は光栄な話なんだろうけど…。

まだ全く状況が掴めてないからどう対応していいか困るな。

起きたばかりで自分の実力すらも分からない…。

ああもう!何でいつだってこの夢って言うのは途中から始まってしまうんだ!

…って、夢に文句を言っても仕方ないけど。


「主はこの城に来てまだひと月、慣れぬのも仕方のない話じゃの」


「え、ええ…」


 僕は殿のこの誤解にうまく便乗していた。

ここで下手な事言って不信感を持たれても面倒だし…。

殿はこの僕の誤魔化しを全く気にする事なく話を続ける。


「しかし我が宿敵、隣国のカクタノブヨシもまた手練の忍びを雇ったと言う…頼りにしておるぞ!」


 えぇと…と、言う事は今回の夢の着地点はその隣国との勝負に勝つ事…なのかな?

まだそう決めつけるのは早計だけどそのパターンもあるなこれは…うん、考えておかなくちゃ。

しかしそうなるって言うと最後は忍者同士の戦闘…これは燃えざるを得ない!

その前に自分の忍者としての実力すらまだ全く分かってないんだけど…。


 僕がそんな妄想に胸を躍らせている間に朝食の時間は終わり次は会議の時間となった。

この会議に参加出来るのは極一部の上層部だけ。

この城唯一の忍びである僕も当然のように呼ばれている。

…って言うかこの城の忍者って一人しかいないの?

しかもそれが僕って…大丈夫かなこの城…。

 

 そんな僕の心配を余所に会議は始まった。

集められた幹部達を前にまず最初に殿が口を開く。


「して、戦況はどうなっておる…」


 この殿の質問に国の戦略担当が持って来た資料を広げながら話を始める。

中々難しい話をしていて当然ながら僕はその話を半分も理解出来ないでいた。

最初に目の前に広げられた資料を前にして幹部達は活発に意見を交換している。

僕は何となく分かった振りをして時折タイミング良く相槌を打ったりしていた。


「で、そなたはどう思う?」


「ひょえっ?」


 ぼうっとしていたら突然殿に意見を聞かれて僕はつい素っ頓狂な声を上げてしまった。

やばい!これは恥ずかしい!しかもこれどう返したらいいんだ…。

話を聞いていなかったとか気軽に言える雰囲気じゃないぞ…。


「全く!お前は全然話を聞いておらんかったじゃろう!」


 僕の態度におっさんが怒りを込めて糾弾する。

あ、おっさんじゃないか、サイトーだサイトー。

って言うかサイトー、あんたまさかの幹部だったんかい。

このおっさんが同じ場にいるだなんてこれはちょっとやり辛いなぁ…。


「まぁまぁ。この会議も忍者にとっては退屈なものであっただろうよ」


「殿!甘やかしてはなりませぬぞ!」


 殿に意見をするとかサイトーはこの国のお目付け役か何かなのかな?

まぁその辺の関係性は今の僕にとってはどうでもいいか。

取り敢えず自分に何か役目があるなら今はそれを遂行したいな。

そこら辺、ちょっと殿に質問してみよう。


「えぇとあの…僕は一体何をしたらいいんでしょう?」


「そうだな…忍者らしく色々と探ってもらいたい」


「それは隣国へ、ですね」


 このくらいは僕だって今まで城内で耳にした話を総合すれば分かる。

殿は僕が話を聞き入れてくれた事に歓喜していた。


「ああ、やってくれるか」


「勿論です、殿!」


「全く、調子の良い奴じゃ…」


 殿直々のお願いを断る訳にはいかない。

僕は会議の後にひとり残って殿から直接の指令を受けた。

忍者って現代で言うスパイだから派手な戦闘より地道な情報収集が仕事のメインなんだよね確か。

今回の殿からの指令も大体そんな感じだった。

僕は戦うのは苦手だからこう言うのが意外に性に合っているかも。


「…と言う手はずで良いだろうか?」


「分かりました!やってみます!」


「うむ、では気を付けて事に当たられよ!」


 殿の指令を受けて僕は忍者の仕事をする事になった。

これは国の威信もかかっているし簡単な仕事じゃない。

けれどそんな仕事を任せてくれた殿の為にも僕はこの仕事を完遂しようと心に誓った。


 抜き足、差足、忍び足…。

忍者の仕事は猫にこそ相応しいよね。

気配を消して歩くの、本能だからコレ。

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