11.悪夢を見る猫(18)昔話編5
「行くぜぇぇ!」
「大した策もなく向かってくるとは…君は本当に愉快な奴だ」
きゅうり鬼はそう言ってマロを褒め称えた。
勿論それがただの皮肉だって言うのは言うまでもない。
そうしてそんなきゅうり鬼に必死で突撃していくマロ…。
この対決は分かり切った結末を迎える事になる。
ドーン!
「うわああああ!」
正気を取り戻したきゅうり鬼はマロを一撃で吹き飛ばした。
ああ…マロ…やっとギャグ要員の仕事が出来たな…やっぱりさっきまでがまとも過ぎたよ。
「さてと」
予想通りきゅうり鬼は背後の僕の存在に気付いていた。
マロを吹き飛ばした後、奴はすぐにくるっと僕のいる方向に振り向いた。
「さて、君は何をして私を楽しませてくれるのかな?」
「う…」
大きさが若干小さくなったとは言えこのきゅうり鬼は僕の何倍もの大きさだ。
その圧倒的圧迫感は言葉にも出来ない程のものだった。
しかしいつまでもこうしてたじろいでいる訳にも行かない…。
勝てない勝負ならこの夢の中で今まで何度も経験して来た。
今更何を怯える事がある…。
「それじゃあ…どうかひとつお手合わせを」
「ああ、かかって来なさい」
はっきり言ってきゅうり鬼は僕を舐めている。
普通に考えても自分よりかなり小さなこの猫の剣士を警戒するはずもない。
その油断を突く…それ以外に今の僕に選択肢はなかった。
「俊足隼!」
この技は自慢の足を最大限に使った奇襲用の技。失敗したら二度目はない。
僕は一気に間合いを詰めて必殺の一撃をきゅうり鬼に叩き込む作戦に出た。
「ほう、早いね」
しかしと言うかやはりと言うかきゅうり鬼はこの僕の早さにも余裕で対応していた。
でもここまで来たらもうこのまま押し通すしかない。
僕は素早くついさっき閃いた必殺の技の構えを取る。
「瞬撃水月!」
この技は目にも止まらない早さで敵を切り刻む技だ!
しかし鋼鉄より硬いきゅうり鬼にこの攻撃が効くかどうかは賭けだった。
ガキィン!
そしてその賭けの結果はものの見事に僕の負けだった。
まぁ…予想はしてたんだけどね。
「うん、面白かったよ」
僕の攻撃を軽く弾き飛ばしながらきゅうり鬼は上機嫌にそう言った。
これって地方巡業で大人の力士が子供力士と取り組みをするような感覚なんだろうな。
渾身の攻撃が全く刃が立たなくてこっちだって笑えてくるよ。
そうして奴は有り難くない贈り物を僕にくれた。それは…。
「君には、そうだなぁ…楽しませてくれたからまだちょっぴり身体に残っているこの毒液をお礼に差し上げよう」
「そんなものいらな…」
きゅうりは鬼はその体全体から毒液を一気に放出した。
危険を察した僕はそれに当たらないようにすぐにきゅうり鬼から離れた…はずだった。
しかしきゅうり鬼から放たれた毒液は物凄い勢いで吹き出し、しかもそれはどこにも死角がなかった。
ブッシャァァァ!
「うごおおお!」
毒液が直撃した僕は苦悶の声を上げる。
ううっ!体中が熱くて痺れて痛い!息も苦しくなって来た…。
「どうだい?私の自慢の毒液の味は…」
「あああ…」
苦しんでいる僕に対してきゅうり鬼は余裕の表情で僕を見下ろしている。
ああ、何て屈辱的なんだ…身体の自由を毒で奪われて何も出来ないなんて…。
そうしてきゅうり鬼は言葉を続ける。子供に物を教えるように優しく丁寧に。
「安心しなよ…この毒は強いけど決して命を奪う程じゃないんだ」
「うがががが…」
「この毒の目的は相手の身体の自由を奪う事…暴走した時は加減が分からなくなっちゃって殺しちゃったりもしたけどね」
どんなに優しく話しかけられても僕は辛さと苦しさのあまりそれどころじゃない。
きっときゅうり鬼はそれを知ってわざとゆっくり僕に話しているに違いなかった。
「がはっがはっ…」
「それで体の自由を奪って何をするか今から教えてあげるよ…私は猫が大好物なんだ…」
きゅうり鬼はニヤリといやらしい笑みを浮かべながらそう言って僕に迫って来た。
身動きの取れない僕はそのまま何も抵抗する事が出来ずに…そのまま奴の胃袋の中に…。