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11.悪夢を見る猫(16)昔話編3

「しかしおかしいな…静か過ぎる…」


 しばらく観察して分かったのはこのアジトの人気の無さだった。

いくらなんでもこれほどの規模の場所で昼間に誰もいないなんてありえるだろうか?

多分このアジトの中には奪ってきたお宝を保管している場所もあるはず…。

最低でもそれらを守る人員くらいは普通残すものだろう…。


「本当に誰もいないようなら踏み込むのもありだな」


「だけどこれは何かの罠かも知れない…気をつけて行動しようぜ」


 その時軽く風が吹いたのか森の木の葉がさわさわと揺れた。

もしかして何かがこのアジトに起こったんじゃないかと僕はそんな予感を覚えていた。


 それから僕らがアジトの周りをぐるっと回りながら観察しているとぴくりとも動かない人影が視界に入って来た。

僕はその時思わずその人影の所へ急いで駆け寄ってしまっていた。

何故ならその人物がかなりの重症を負っているのが遠くからでも確認出来たからだ。


「おい!大丈夫か」


「…誰だ…」


「良し、安心しろ!今から助け…」


 腹から大量の血を流しながらけれどその人物はまだ何とかかろうじて意識を保っていた。

命の無事に安堵した僕は早速彼を助け出そうとその重症の体を引っ張り出そうとした。


「もう無駄だ、早く逃げ…」


「おい!気をしっかり…」


重症の男はそう一言言うと意識を失った。

これは早く処置しないとまずい!僕は焦っていて周りの事が何も見えていなかった。

その時、背後に動く怪しい影が迫っている事に僕は全く気付いていなかったんだ。


「フク!後ろだ!逃げろ!」


「な!」


 突然のこのマロの叫びに振り向くとそこには巨大な化物みたいなきゅうりが…!

まさか…こいつがやったのか?


「ウガアアッ!」


 化物きゅうりが僕に向かって毒液のようなものを吐き出す!


 ジュワッ!


 幸いその毒液は僕には当たらなかったものの、毒液の当たった地面は見事にえぐれて気色の悪い煙が立ち始めた。


「これは!」


「そいつを捨てて早く逃げろ!」


 マロは僕にそう指図する。けれど重症を追った人を見捨てるなんて…。

そうしたら次の瞬間、僕は不意に突き飛ばされた。

何故?と感じる間もなく突き飛ばした当人にきゅうりの放った毒液が直撃する。

最後の力で僕を守ってくれたんだ…。しかし敵である僕を何故…。


 その疑問の答えを聞く事はもう出来ない。

毒液の直撃を食らった彼はそのまま黄泉路へと旅立ったからだ。

アジトについてから話が急展開過ぎる…誰か上手く説明してくれよ…。


「ウガアア!」


 化物きゅうりが荒ぶっている…もしかしてこいつを倒さないといけないのか?ちょっとこれ設定ハード過ぎるだろ…。

くねくね動く巨大なきゅうりはまるで緑色の巨大ミミズのようだった。

コイツ…最初からこうだったのか…?それとも何か別の原因が…。


「早く逃げろって言ってるんだ!」


 僕は助けに入ったマロに肩を掴まれて強制的に移動した。

それから化物きゅうりが追ってくる気配はない。どうやら助かったようだ。


「アレが例のきゅうり鬼?」


「話に聞いていたのとは大分違うけど多分」


「どうして…あんな事を」


「よく見ていろ、きっとその理由が分かるぞ」


 マロはそう言って僕に奴の観察を勧めた。

その言葉通りに観察を始めると奴は倉庫らしい場所に入り何かを食べているようだった。

さっき犠牲になった男は多分あの倉庫の番人か何かだったのだろう。

それで倉庫の物目当てのきゅうりに襲われた…と、そう考えるのが一番しっくり来る。

倉庫の奥で奴が何かをむしゃむしゃと咀嚼する音がここまで聞こえて来ていた。


「何かを…食べている?」


「大方それがあの化物が化物になった理由なんだろうぜ」


 目の前で起こっている状況を見てマロはそう言って知った風な口を叩いている。

そこで僕は奴がどこまであの化物について知っているのか聞いてみる事にした。


「お前はああなる前のきゅうり鬼の事を何か知っているのか?」


「きゅうり鬼って言うのは鬼の仲間なんだよ。普段は鬼の世界にいるらしい」


「何故それがこの世界に?」


「理由までは知らないよ!ただこの世界を気に入ったのは確かみたいだ」


 どうやらマロの博識も簡単に底が見えたみたいだ。

それでも今までのマロに比べたらかなり頼り甲斐があるなと僕は感じていた。

相棒らしく今後の行動でもそんな頼り甲斐のある行動をして欲しいと僕は願うばかりだった。

そうして目の前の荒ぶる化物を前にして僕はポツリとこぼす。


「あんな化物を退治するなんて無理じゃね?」


「あそこまで凶暴化しているのは少し想定外だけど…手はない事もない…俺達2人で力を合わせよう」


「勝算があるなら教えてくれよ」


 マロは以前仕入れた情報が有効ならば…と前置きして話をし始めた。

僕はそもそもその前提が崩れているんだからその作戦も無謀なんじゃないかと思いながらその話を聞いていた。


「あの倉庫に何があるか具体的には分からないけど、今あのきゅうりはそいつに夢中になっている」


「…もしかしてその隙を狙うって言いたいのか?」


「そう言う事、時間との勝負だ!」


 マロの立てた作戦…それは作戦と呼ぶのも図られるような単純なものだった。

当然僕はその作戦に異議を唱えた。


「でもそれちょっと安易なんじゃ…」


「急がないとその隙すらなくなる!行くぞ!」


 マロは言いたい事を言い終わるとすぐさま走り出して行った。

まるでこの千載一遇のチャンスを逃すまいとするみたいに。

いくら時間との勝負だからってこんな無策に等しい作戦じゃ勝ち目なんてあるはずがない。


 何だよ、この世界でのマロもやっぱりいつもの考えなしのマロじゃないか…ちょっとでも頼りにして損した。

僕は必死で奴を止めた。この無謀な戦いの勝率を少しでも上げる為に。


「ちょい待っ!まず僕らの連携について話を…」


「そんなのは阿吽の呼吸でどうにでもなるっ!」


「んな無茶な…」


 分かってはいたけど…マロが僕の話をまともに聞くはずがないって事くらい。

仕方がないので僕もワンテンポ遅れてこの無謀な作戦に参加する。

ああ…なんだか嫌な予感がして来た…この予感は多分当たるぞ…。


 マロはきゅうり鬼が入っていった倉庫っぽい場所に向けて勢い良く一直線に走って行く。

こう言うところ、真っ直ぐで無鉄砲なあいつの性格がよく現れているなぁ。

今のところきゅうり鬼はこの状態に警戒すらしていないみたいだ。

多分奴にしてみれば僕らなんて牛にたかる蝿みたいな存在なんだろう。


「とあああーーーっ!」


「バッ!大声出したら気付かれるだろ!」


 僕の忠告も空しくマロは気合を入れてきゅうり鬼に挑んで行く。

ああもう!後は野となれ山となれだ!


 マロに続いて仕方なく僕も刀を構えて倉庫へと入って行った。

倉庫内ではきゅうり鬼とマロが果敢に戦って…あれ?

きゅうり鬼は何かを食べるのに夢中になっていてマロはその片手間に軽くあしらわれていた。

何だこれ、力の差が歴然じゃないか…。こんな相手に勝てる訳がない…。


「遅いぞ!早く加勢してくれ!」


「いや、ここは撤退して作戦を練るべきだ!」


「アホか!このチャンスを逃したら勝てる訳ねーだろ!」


 マロはきゅうり鬼に全く相手にされていないと言うのに何故か強気だった。

あらら…これじゃ前の夢のマロとあんまり変わらないじゃないか…。

どうしてこの犬は冷静に状況を判断出来ないかなぁ…。

僕はマロにそれを気付かせようと興奮している奴の耳に届くように大声で叫んだ。


「そのチャンスを持ってしても全然相手になってないじゃないか!気付けよ!」


「だから!俺とお前が力を合わせれば…」


 この時、きゅうり鬼がこっちの存在に気付いた。

やばい、今コイツが本気になったら…。


「ウガアアアー!」


 安らかな食事の時間を邪魔されてきゅうり鬼はかなりご立腹だ。

巨大な緑のミミズは体を捻らせて例の毒液をこっちに向かって放って来た!

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