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11.悪夢を見る猫(15)昔話編2

「僕らはどうやってあの村の事を知ったんだっけ?」


「お前、記憶をなくしたのか…あの術師の言った事は本当だったんだな」


「何だって?」


 術師?この世界ではそんなのもいるのか。

道端で呼び止められて予言っぽい事でも言われたのかな?それとも…。

僕は話の続きをしっかり聞こうと思わずつばを飲み込んだ。


「村から悪党を追っ払った時に悪党の一味の呪い師がお前に呪いをかけたんだよ」


「そんな設定なんだ…」


「設定?」


 あ、つい心の中の言葉を無意識につぶやいてしまった。

夢の登場人物にこんなメタい事を言っても仕方ないよな。

ここは上手く誤魔化して話の続きを喋ってもらうっと。


「あ、ごめんこっちの話。で、その呪いにお前はかからなかったのか?」


「忘れてるんじゃ仕方ないな…俺はその呪い師がお前に攻撃を仕掛けている最中に背後に忍び寄ってそいつを倒したんだよ」


「そうだったのか…やるな!」


「俺はやる男だぜ!」


 マロ、おだてに乗りやすい性格と。ってこれ前の夢から引き継いでるんじゃないか?

大丈夫かな…段々不安になって来たぞ。

まぁ話を聞き出す相手と言う点では楽な部類だな。駆け引きとか必要なさそうだし。

よし、この調子でどんどん聞き出そう。


「じゃあ話は戻るけど何であの村に?」


「手配書が来てたんだよ。俺達は賞金稼ぎだろ?」


「おお、そうだったのか」


「お前、まさか記憶と一緒に腕も鈍ってるんじゃないだろうな?もしそうならならここで引き返しな…足手まといは邪魔だだけだ」


 この一連のやり取りでこの夢の中での自分の立ち位置がようやくハッキリした。

どうやら僕はマロと組んで賞金稼ぎをして生計を立てているらしい。

しかしここまで話していて流石にマロも僕に不信感を抱いてしまったみたいだ…さて、困ったな。

ここはひとつ、自分の腕を披露して誤解を解くしかない…か。


「じゃあ、ひとつお手合わせ願おうか」


「そうだな…ずっと歩いていても退屈するだけだしちょっと肩を慣らしておくか」


 そうして急遽僕とマロは手合わせをする事になった。

リアルなら平和主義で喧嘩すらした事ないけど、ここは僕の夢の中、例え勝てなくてもいい勝負位は出来るはず…。

僕は早速腰の刀を引き抜いてマロとの間合いを測る。対峙する奴の目も真剣だ。


「寸止めだぞ…本気で斬りに来るなよ…」


「ここで貴重な戦力を失うようなヘマはしないさ」


 むむ…隙がない…この夢のマロは中々腕が立ちそうじゃないか…一体どうしたんだ?

僕らは睨み合いながらお互い迂闊に攻撃出来ないでいた。

お互いに力量を伺いながら攻撃に踏み込めない以上、マロも僕を警戒している。

つまりそれこそが僕の腕が鈍ってない証拠じゃないか。

しかしこのままじゃ埒が明かない…仕掛けるべきか…それとも。


「うおぉぉー!」


 しまった、油断した!考え事をしている隙にマロが打ち込んで来た!

この攻撃を楽勝で避けないと奴に大きな口は叩けないな…。

こう言う時は…流れに身を任せる!


 すうっ!


 僕はとっさにマロの攻撃を避けた。それは流れる風のような無駄のない動きだ。

武術の修行を何処かでした事もないのに僕はごく自然にその動きが出来た。

やはり僕はこの夢の主人公なんだ。主人公補正すごい!


 必殺の攻撃を避けられてマロは腑に落ちない顔をしている。

馬鹿め!この世界でお前はただの脇役キャラなんだよっ!

僕は刀を握り締めマロの頭上に必殺の一撃を振り下ろす!


「とあっ!」


 ガキィン!


「やるな!」


 立ち会いは鍔迫り合いの形になって僕とマロはお互いの顔を近付けた。

そうしてにらめっこの形になり目が合った僕とマロはお互いにニヤリと笑った。

それは腕を認め合った物同士の信頼のようなものだった。


「腕は鈍ってないようじゃないか。安心したぞ」


「記憶はなくしても身体は覚えているみたいだぜ」


 この鍔迫り合いはしばらく続き、2人は間合いを取る為に同時にその場を離れる。

それからしばらく睨み合ってそしてお互い同時に刀を鞘に納めた。

それはお互いがお互いの力量を認め終わった合図でもあった。


「それじゃあ行こうか」


「早く行かないと、夜の森は危険だからな」


 それから2人は森に入り、敵のアジトを目指す。

まだアジトまで距離があるのか今のところ敵からの接触はない。

しかし僕にはそれが不思議な不気味さに感じられた。


「この森はもう奴らの領域じゃないのか?」


「多分な…」


「でも敵の気配すら感じないぞ…奴ら、警戒すらしていない?」


「油断は禁物だが…昨日かなり傷めつけたからな…戦力が減ってるんじゃないか?」


「手負いなら余計に警戒はするものだろ?これじゃあまるで…」


 ガサッ!


 その時、僕らの背後で何か物音がした。

すぐに振り向いて音の正体を探ると…それは森の小動物だった。


「何だ…狸の子供か何かか」


「子供は好奇心旺盛だからなぁ」


 それからすぐに2人は臨戦態勢になり気配を伺うもののやはり殺気などは全く感じ取れなかった。

敵の警戒網はやはりアジト周辺にしか張っていないのかも知れない。


「ふぅ…まだ先は長いのに気を張り過ぎかな」


「腹ごしらえでもしようか…今の内に」


「そう言えばもうそんな頃合いになるか」


 薄明るい森の中じゃ正確な時間は分からない。

けれどお互いの疲労度と空腹具合からこの時間を食事時と解釈してもそんなに違和感はないように感じられた。

僕は具合のいい場所に座ると早速今朝渡されたお婆さん特製のお弁当を広げる。


「ほら、こっちがマロの分。多分中身は同じだけど」


「ありがとう。本当に村の人には良くしてもらったな」


「こうしているとこの森だって平和そのものなのにな」


「悪党って言うのはどうしても出て来てしまうものなんだな」


 僕らはお弁当を食べながらこの世の理について話をした。

こう言う事を話すのは柄じゃないけど何となくそう言う流れになってしまったんだ。

そうしたらマロがこの会話の中で急に謎理論を展開し始めた。


「草食の奴もいれば肉食の奴もいる…」


「いや、それとこれとはまた別だろ」


 僕はすぐにそのマロの説を否定した。

草食と肉食を善人と悪人の例えに使うのはいくらなんでも話が飛躍し過ぎている。

僕がすぐに否定した事でこの例えの話はここで終わった。

マロは自分の説を否定された事に何の未練もなかったようで特に反論のようなものはなく、そのまま話をまとめに入っていた。


「ま、迷惑な奴は退治しなくてはな」


「だな」


 森の優しい雰囲気の中にいると争いの空しさを感じてしまう。

安心出来る状況だと生き物はみんな優しくなる。

悪党は…つまり常時緊張感の中で救われない時間と共に生きているんだ…と、僕は思った。


 食事が済んで空腹を満たすと僕らはまた歩き始めた。

ここで時間を取ってあんまり遅くなると日が暮れかねない。

せめてそれまでには最悪アジトまでには着かないと…。

僕はその場所を知っているマロに確認を取ってみる。


「後どのくらいなんだ?」


「この沢を越えれば…そこから先はもう奴らの領域…のはずだ」


「ついに来たか」


 場所を確認した事で僕らは改めて気を引き締めて沢を越えた。

奇襲にせよ正面突破にせよ、現状を見極めない事には作戦も立てられない。

敵に悟られないようにここからは慎重に気配を消しながら歩いて行く。


 マロの話の通り、沢を越えてしばらく獣道を道伝いに歩いた所、深い森の中に急に開けた空間が広がった。

誰かが作った建物やら施設やらが並んでいる。どうやらここが悪党共のアジトらしい。

豊富な木材資源で建てられた建物と場の中央には(やぐら)

建物の規模と数から言ってここでの生活人数は20人程度と言ったところだろうか。


「この森の生活で満足してくれりゃそれが一番なのにな」


 じっくりアジトを観察しながらマロはこぼした。確かにそれはそうだ。

しかし森の中だけで暮らすには足りないものも出て来るだろう。

そもそもここを根城にしている奴らだって本音は都で暮らしたいと思っているはずだ。

誰が好き好んでこんな森の中で暮らすだろう?

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