11.悪夢を見る猫(14)昔話編1
「うわああああああ~っ!」
ガバッ!
やっぱりだ。また別の世界に飛ばされた。
今度はどこだ?どんな世界なんだここは?
ひとつ分かる事はここがものすごく昔の和風の世界だって事だった。
寝かされている寝具は純和風の布団だし天井は藁葺き屋根だし床は板張りのゴザ敷きだった。
それはまさに昔々の物語で語られる古民家のような家。
ここはどこか懐かしい雰囲気に満たされていた。
何だこりゃ、まるで昔話の世界じゃないか。
…もしかして、本当に昔話の世界…なのか?
「おお、起きたか…マロ君が外で待っておるよ」
起き上がった僕を見てこの家の御主人っぽいお爺さんが声をかけて来た。
えぇと…この人はこの夢の中では僕とどう言う間柄なんだろう?
そこがハッキリ分からないとどんなテンションで話しかけていいか距離感が掴めないぞ…。
「あの…」
「いやしかしお前さんがこの村の悪党共を追い払ってくれて助かったよ」
何と言う事でしょう!こちらが聞く前にお爺さん側から設定を話してくれました!
この話しぶりから僕はどこか外からこの村を救いに現れた旅人か何かだと言う事が伺われた。
「確か宿なしと言っておったろ?お前さんが構わないならずっとこの家に泊まってくれて構わんよ」
「あ、それは助かります、はい」
「おお、そうじゃった!相棒のマロ君が外で待っておる!早く行っておあげなさい」
マロはやっぱりこの世界でも健在か…しかもまた相棒だって?前の夢を引き継いでいる?
まぁいいや。この夢の目的がどうであれ僕はやって来るイベントを淡々とクリアしていくだけだ。
「外に出る前に御飯を食べて行きなさい。腹が減っては何とやらじゃ」
お爺さんはそう言って笑って僕に囲炉裏のある場所を指し示した。
どうやらその食事の準備はもう出来ているらしい。
折角の御好意だ。ここは素直に受け取って有り難く頂戴する事にしよう。
「有難うございます」
「うんうん、遠慮せんでええよ。どうか腹いっぱい食べておくれ」
僕は早速用意された食事を食べに囲炉裏の側まで移動する。
ああこの雰囲気、暖かくて懐かしい感じがしていいな。
僕は都会育ちだからこんな生活をリアルで体験した事はない。
サキちゃんがたまに見るテレビ番組でこう言う生活を紹介していたのを一緒に見るくらいだ。
でもその番組を見ている時に感じた感覚を今夢の中でこうして味わっているんだなぁ。
そうして目の前には暖かくて素朴で美味しそうな朝食。
炊きたての御飯にお味噌汁、そして焼き魚にお漬物。
品数は多くはないけれどそのどれもに作り手の愛情が感じられてものすごく美味しそうだった。
「おお、これは美味しそうだ。いただきます!」
僕は夢中でその食事を口に運ぶ。
それは暖かくて優しくて作った人の気持ちが伝わってくるようだった。
夢の中なので味は分からないしお腹も膨れないけど僕はその料理を胃袋に収める度に不思議な満足感に満たされていった。
それでついつい調子に乗って何杯もおかわりしてしまった程だった。
まぁ、僕は普段から結構大食いなんだけどね。
だからこんなにデ…デブじゃないYO!ぽっちゃりだヨ!
ふぅ…思わずセルフツッコミしてしまった。
しかしこんな美味しいご飯を食べさせてくれるなんてお爺さんは本当にいい人だなぁ。
「婆さんの作った朝食、お気に召しましたかな?」
「あ、はい。とても美味しいです」
あ、料理を作ったのはお婆さんでしたか…。
いやしかし本当に昔話だなぁ。優しいお爺さんとお婆さん…定番だなぁ…。
「とても美味しかったです。御馳走様でした」
御飯を満足するまで食べた僕はようやく重い腰を上げてマロに会いに行く。
大分待たせたからさぞや機嫌を悪くしているだろうな…そう思って外に出ると…。
すぴー。
あ、寝てる。寝てるわこの柴犬。
僕が外に出てみるとマロは縁側でぐっすり寝息を立てていらっしゃいました。
待ち時間があまりにも長いから寝てしまったのかな?
だからってこっちが出て来たのに起きないってって失礼な犬だよ本当。
マロの格好はまるで昔話の武士のような格好だ。案外似合ってるじゃないか。
…ずっと観察していても仕方ないか。しょうがない、起こそう。
「おい、起きろ」
すぴー。
やっぱ熟睡しているだけあってこの程度の呼びかけに反応するはずがなかった。
あれ?でも確か犬って寝ていても耳だけは起きているんじゃなかったっけ?
まぁ、多分この犬は僕の脳内犬だから実際の犬より間抜けなんだろうな…。
ずっと見ていても何も始まらなしどうしてくれよう…水でもぶっかけちゃろうか?
僕は辺りを見渡して水が汲めそうな道具と水を溜められそうな容器がどこかにないか探してみた。
桶と柄杓はすぐに見つかった。後は水だな…ここは現代じゃないから水道はないだろうし…井戸を探すか。
散々家の周り歩き回ってやっと井戸を見つけてそこで水を汲んで戻ってみるとマロはすっかり起きて僕を待ち構えていた。
え…?マロ、起きちゃったの?残念。
「よう、朝から水撒きかい?」
「おはよ、何でもないよ。それより朝っぱらから何の用?」
僕は持っていた桶を一旦横に置いてマロと話を始める。
まず最初は軽い世間話でも話し始めるのかと思ったらそんな事はなかった。
「話によると昨日追い出した悪党共が復讐しようとしているらしい。やっぱ追い出すだけじゃダメだったんだよ」
「マジか」
「だから今からあいつらをこらしめに行こう」
フラグが立った!なるほど、それがこの夢での使命って訳ね。
いかにもな昔話的王道展開だなぁ。いいぞいいぞ。
一応先は読めるけどこの話、もっと詳しく聞いてみよう。
「で、その悪党って言うのは今どこに?」
「あの山の向こうの森の中にアジトがある。大丈夫、殆ど俺達の敵じゃない」
「殆ど?って言う事はやばい奴もいるんだな」
「ああ、特に親玉のきゅうり鬼ってやつがやばい」
「やっぱそう来たか…そう来るよな」
僕はこのあまりのお約束展開に謎の安心感を覚えるようにまでなってしまった。
ここでそのきゅうりを倒さないルートを選んだらどうなるんだろうとも考えたけど、そんな運命に逆らうのは何か違うような気がしていた。
きっとこの夢の中できゅうりと戦うのはどうしても避けられない強制イベントなんだ。
出来れば今回こそ勝利フラグを立てたいなぁ…。
「さて、準備を整えてすぐ出発しよう!アジトまでここからだと半日はかかる。夜になるまでにケリを付けないと!」
いつになく熱いマロの気迫に押されながら僕は早速悪党退治の準備を始める。
うーん、この勢いから言って今回のマロは頼りになる…のか?そうだといいんだけど。
武器とか防具とか戦闘に必要な色々はどうやら持参していたみたいだ。
流石夢は色々と都合がいいな。
後は…そうだな、お弁当かな。敵のアジトまで簡単に行ける距離じゃないし。
ここはちょっとあつかましいけど早速家の人に言って都合をつけてもらう事に。
「村の為に本当に有り難い。腕によりをかけて作りましょう」
そうして家の人は僕ら2人にお弁当とついでにおやつまで作ってくれた。
うん、ここまでしてもらったからにはちょっと負けられないね!
「行こうか!」
「おうよ!」
村人達に見送られながら僕ら2人は悪党退治の旅に出た。
おおう…胸がドキドキするぜ!何と言う高揚感!やっぱ夢はこうでないと!
そうだ、悪党のアジトに付くまでにマロと色々話をしておこう。
この夢の中での今までの事とか、今後の悪党退治についてとか。
考えたら僕はまだこの世界の事を何も知らない訳だし…。
「なぁ、マロ…いいか?」
「何だい相棒…俺達に遠慮なんかいらんぞ」
マロは僕の事をすっかり相棒と認識している。
うーん、この夢の状況になるまで一体2人で何をやらかして来たんだ?
この夢はいつも話が途中で始まるから困ったもんだなぁ。
まぁいいや。深い付き合いなら色々と知っているはず。
どんどん聞きまくってこの疑問を解消して行こう。