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11.悪夢を見る猫(12)魔法使い編2

「じゃあ外に出てちょっと試し撃ちとかしてみるか」


「あ、うん…」


 マロに勧められて僕は外に出た。魔法の試し撃ちをする為だ。

まずは持っている杖を軽く振り下ろしてみる。

その時、不意に頭の中に力のイメージが浮かんだ。

このイメージを上手く具現化出来れば魔法として杖から出力されるのかも?

そうして、今まで見た魔法使いの物語のキャラを頭の中に思い浮かべて適当に魔法を出すイメージで杖を振ってみた。


 キラキラキラー!


 ダメ元で杖を振ってみると杖の先から光の粒子のようなものが飛び出した。

おお、これは中々に神秘的だ。

これが魔法と言うもの…なのだろうか?今イチまだピンとは来ない。

この僕の様子を見てマロが落胆した声を上げる。


「お前、腕落ちてるんじゃないか?賞金首ともうすぐ戦わなきゃいけないのに足を引っ張るなよ」


「そうは言っても…そうだ!マロの魔法を見せてくれよ!すごいんだろう?」


「ふふん、見て腰を抜かすなよお!」


 僕がおだてるとマロはすぐその気になって杖を降り始めた。

流石に何か技をマスターしただけあってその動きは手慣れたものだ。

僕は奴が魔法を使うのを自分が魔法を使う時の参考にしようと固唾を呑んで見守っていた。


「流星必殺爆裂丸ーッ!」


 …どうやらそれがマロの必殺間技の名前らしい…恥ずかしいと言うか何と言うか…。


 どこーん!


 しかし杖から出た魔法の威力は確かで明後日の方向の木が一瞬で丸焦げに。

おいおい、全然コントルール出来てないじゃないか…。


「…いやぁ、すごいね。敢えて魔法が明後日の方向に飛ぶとか意表を突かれたよ」


「どやっ!」


 僕の言葉にマロは得意げな顔を擦る。おいおい皮肉が通じないよ。

もしかしてワザとやったとか?

だとしたらそれはそれで高度な技だけどわざわざ実演で披露する事か?

そうだ、ちょっとカマかけてやろう。


「どうやったらあんな不自然な方向に狙って魔法が飛ばせるんだ?」


「え?いや?その…偶然?」


 僕の質問にマロは顔を背けて誤魔化しながら答える。

やっぱノーコンなんじゃねぇか!

こんな精度で賞金首を倒すとかどう考えても無理だろ…。

しかも、もしマロの攻撃が当たったとしてもしっかりダメージを与えられるかどうか…。

何せ相手は一撃で家一軒一瞬で焼き尽くすんだぞ…どう考えても向こうの攻撃の方が威力強いじゃないか。


「マロ…言いたくないけど今回は諦めよう、無謀過ぎるよ」


「な、何言ってるんだよ…確かに俺ひとりじゃちょっと不安だよ?だからお前の協力が必要なんじゃないか」


「無茶言うなよ。僕の魔法さっき見ただろ?アレでどう役に立つって言うんだ!」


 僕が必死に抗議するとマロはいつになく真剣な顔で僕を見つめながら言った。

こんな真面目なマロの顔は見た事がない…かも知れない…。


「お前実際魔法使ったの久し振りだろ?まだ勘が取り戻せてないだけなんだよ!大丈夫!お前なら出来る!」


 …いやあの…それ以前に魔法使ったのさっきのが初めてなんですけど…。

でもこの言葉はマロの勢いに飲まれて口には出せなかった。

しかし実力差がありすぎるのに更に実力未知数の相手と組んでそれで目的が達成出来ると本気で考えていたとするならマロは今後も大きな失敗を何度も繰り返しそうなそんな気がした。


「俺はな、お前の魔法の才能を信じている」


「買いかぶり過ぎだよ…」


「いや!俺は知ってるんだ、お前の中に秘められた大きな可能性を!」


 マロは何でそんなに僕の才能を買ってるんだろう?

どう考えたってどう頑張ったって奴の期待には答えられそうにないんだけど…。

あ、いい事思いついた。こう言えば上手く諦めてくれるかも知れない。


「そんなに言うんなら僕がもしその実力を発揮出来なかったらその時点で即諦めてくれ」


「急に何て事言うんだよ!俺がこの日の為にどれほど投資したか!」


「そっちの事情なんて知らないよ!こんな無謀な事…それに僕はまだ死にたくないんだ!」


 マロの個人的な事情で命を懸けるなんて出来る訳がない。

これは夢の中の出来事だから正確には死ぬって事はないんだけどそれでも嫌なものは嫌だ。

僕が本気で嫌がっているのを感じたマロは語気を荒げて言い放った。


「ようし分かった。俺が一晩でお前を一人前にしてやる!絶対だ!」


 …だからその自信は一体どこから来るんだよ…。


 それからマロのスパルタ特訓が始まった。

何で僕はこんなのに付き合わされなきゃいけないんだ…。


「魔法はな?信念の力が具現化したものなんだ!だから一番大事なのは信じる心だ!」


「ああ、だからお前の魔法はネジ曲がってんだな」


「いきなり茶化すな!真面目に言ってんの!」


 自分の方が少し詳しいからってマロは上から目線で講義を続ける。

でも時間がないなら実践で訓練を重ねた方がいい気がするんだけどなぁ…。

やがて散々魔法の概要を説明し終わるとようやく実地の訓練に入った。

ここまでで約3時間消化。これ、本当に必要な時間だったのか…?


「いいか?よく見てろよ!」


 せいっ!と言いながら杖を振って自慢の魔法を披露するマロ。

しかしその杖から出た魔法は相変わらずまっすぐは飛ばなかった。


「いやあ、さすがさすが」


「お前馬鹿にしてるのか」


 馬鹿にするも何もお手本がそうなんだから仕方ない。

僕は早速マロの真似をして魔法を使う。

師匠も何もないから全てがその場の思いつきの自己流だ。


「うらぁー!」


 それっぽく杖を振ると今度は少しまともな魔法が使えた。

杖の先から放たれた魔法弾はまっすぐ飛んで行く。

これ、命中精度ならマロよりよっぽどまともだな。


 ぽすん。


 僕の放った魔法弾は狙い通り攻撃目標の木の幹に当たり、ゴルフボール大の焦げ目を作っていた。

うん、初めて放ったにしてはこれは上出来ではないかな?

僕はこの成果に結構満足していた。

狙った場所に届くと言う事は次の問題は威力だな。

威力ならマロの助言も役に立つかも知れない。

奴は曲がりなりにもそれなりに強い魔法が使えるし。


「ふうん…やっぱ筋はいいじゃないか」


「で、威力はどうやったら上がるんだ?」


「さっきも言っただろう?魔法は信じる力だって。自分の力を信じればいいのさ。要は練習だな」


 つまり数をこなして強く自分の魔法を信じられるようになれば威力は上がるらしい。

なるほど…魔法でも運動でも地道な努力が成果を結ぶんだな…。

しかし一晩でどこまで威力を上げられるんだろう…流石にそんなすぐに強くは…。


「おいおい、まさかそんな急には強くならんと思ってるんじゃないだろうな?そんなんじゃずっとひよこのままだぞ!」


「ひよこ?」


「自分の力を否定するなって事だ。どんな事でもそうだけど魔法は特にそのイメージに左右される。つまりいきなりこの星を破壊するくらいの大きな力をイメージするくらいでちょうどいい」


「なるほど、自分を無制限に信じろ、か。じゃあ試してみるよ」


 よく考えてみたらここは僕の明晰夢の中じゃないか。

じゃあここでならきっと何でも出来るんだ。

僕はそう思って深く深く意識を集中した。

杖の肌触りと重量感が僕の妄想を加速させていく。

そうしてここで突然何かを感じた僕は一流の経験豊かな魔法使いになりきって杖を振るった。


「万物の力の源よ!今ここで我に力を示せ!流星千光弾!」


 その場で思いついたそれっぽい言葉を叫んで杖を振ったその時、突然ものすごい疲労感と引き換えに杖の先から強力な魔法エネルギーが無数の光の玉になって飛び出していった。


 ギュドドーン!


 その威力は1本の木どころではなく、1軒の家どころではなく、小さな林ひとつを丸焦げにさせていた。

そうしてそんな強大な魔法を放った僕は次の瞬間、その場に倒れてしまった。

多分その威力と引き換えに全ての力を一気に使い果たしてしまったんだ。

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