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11.悪夢を見る猫(11)魔法使い編1

「うわああああああ~っ!」


ガバッ!


 まぁ予想はついていたけどそう簡単に開放させてはくれないよね…。

今度は何だかやたらメルヘンな雰囲気の部屋で目覚めたぞ。どこだここは…。


「ふあぁ~あ…」


 僕はゆっくり背伸びをして辺りを見渡す。

外からは小鳥のさえずりが聞こえて窓から見える景色は木々と牧歌的な風景。

今までの夢みたいな近代的なものは何ひとつ見当たらない。

この部屋の明かりも電気じゃなくて可愛らしいファンシーなろうそく。

本当に夢の世界みたいだ…って言うかまぁ本当に夢の中なんだけど。


「取り敢えず、出てみるか」


 見るからにファンシーなドアを開けて部屋を出る。

途端に美味しそうな匂いがどこからか漂って来た。

この匂い…これは…焼きたてパンケーキの匂い?


 ぐうう~。


 うーん、違う夢で目覚める度に僕の腹は鳴ってしまうのか?

いや、きっとこの美味しそうな匂いに空腹神経が刺激されてしまったんだ…そうに違いない。

僕は自分の中で色んな言い訳をしながら、その匂いの元へ足を運ばせていた。


「おっ!起きたか。準備が整ったら呼びに行こうと思っていたところだ」


 そこにいたのはエプロンを付けて朝食の準備をしている…柴犬だった。

予想はしていたけど…余りに予想通りだったので僕は一瞬言葉を失ってしまった。

大体想像出来るけど一応聞いておこう。


「ま、マロ?お前何やってんだ?」


「何って食事の準備だよ。見て分かるだろ?」


「何でお前が僕の家にいるんだ?」


 本当の事を言えばここが自分の家かどうかは分からない。

でもこれは自分の見ている夢なのだからこの家は自分の家で間違いはないはず、そう自分に言い聞かせていた。


「忘れたのか?言っただろ?昨日から暫く世話になるって…」


「ああ…そうだったっけ?」


 なるほど、今回はそう言う設定なのか。大福、覚えた。

色々この世界についてとか考える事は多いけどまずは食事を楽しもうかな。

折角目の前に美味しそうなパンケーキがあるんだし!


「いただきまーす!」


「あ、まだ全部準備出来てないのに!」


「いいじゃんか。お腹空いてるんだよ」


 マロの忠告を無視して僕は奴の作った御飯を食べ始めた。

テーブルに並べられているのはスープとサラダとパンケーキ。

これがまた意外と良く出来ている…って言うかマロって料理得意だったんだな。

僕はヤツの意外な特技に感心した。犬は見かけによらないもんだ。

夢の世界のお約束で食べた感じは全然しなかったけど何となく美味しい気はした。


「ふー、ごちそうさまでした」


「しかし相変わらずいい食いっぷりだなぁ」


「量出しているからだよ。出されたものは食べないと失礼だろ?」


「だから太るんだよ」


 軽い会話をしながら僕はこの世界なら平和に過ごせそうだと感じていた。

今までがちょっとアレな世界観過ぎたんだよ。

学園編はアレはアレで最後以外は楽しかったけど…。

僕がそんなこの世界の平和をゆっくりと味わっているとマロが話を切り出した。


「ところでさ、そろそろみたいだぜ」


「そろそろ?」


「賞金首がこの村にやって来るの」


「賞金首?」


 僕は思わず聞き返した。賞金首…何だか嫌な予感がする…。

やっぱりこの世界でも僕は無事に過ごせないって言うんだろうか?


「お前わざわざ俺がここに来た理由を忘れたのか?」


「まさかマロ、賞金首目当てなのか?」


「当たり前だろ!奴を倒せば一生遊んで暮らせる賞金と名声が同時に手に入るんだぜ?」


「賞金首と言う事はつまりかなりの手練だろ?お前ってそんなに強かったっけ?」


 僕はふと浮かんだ疑問を素直に口にした。

目の前のこの犬がそんな手練にはどうしても見えなかったからだ。

そうしたらマロは相当腕に自信があるのか得意気に自分の事を自慢し始めた。


「ふふん、見たら驚くぜ?この日の為に技を身に付けて来たんだ」


「技…ねぇ」


 このマロの話を僕は半ば呆れた感じで話半分で聞き流していた。

何故なら目の前のこの犬にそんな風格は全然見受けられなかったからだ。

どう贔屓目に見たってこいつはただのそこら辺でよく見るような駄犬にしか見えない。

そうしたらマロは次に衝撃的な一言を僕に告げた。


「もう見習い魔道士なんて呼ばせない!」


「え?お前魔法使えんの?」


「何言ってんだよ。この世界の住人はみんな魔法使えるだろ…どうしたんだ一体」


 おおお…ファンタジーな世界だ!ここは夢と幻想の世界だった。

確かサキちゃんが前にそんなテレビゲームをよくしてたっけかな…今回はアレが元ネタか。

じゃあ僕もきっと何かしらの魔法を使えるんだろうな、この世界の中では。


 そこまで気がついて僕は改めて食事をしていたこの部屋の中を見渡してみた。

よく見ると魔法使いが被っていそうな帽子がいくつか帽子掛けに掛けられている。

壁には何本かの杖も飾られていた。アレってただの部屋の装飾じゃなかったんだ。


「昨日はお前も協力してくれるって、乗り気だったじゃないか。もうビビったのか?」


「いやごめんごめん、ちょっと覚えてないんだ」


「何だよそれ、まさか本気でビビったとか?冗談はよしてくれよ」


「ところで賞金首ってどんなやつだっけ?」


 マロにビビり認定されるのも気に障ったので僕は話を強引に切り替えた。

この夢のパターンから言ってこの賞金首に大体の当たりはついていたけど…。

マロが持って来た賞金首のポスターを見てこの想像は確信に変わった。

そう、そのポスターに描かれていた賞金首は…。


 モンスター化したきゅうりだった。


 結局きゅうりなのかよ!ワンパターンだろ!

夢の設定にケチを付けても仕方がないので心の中で叫んだだけに留めたけど。

そっか、今回もやっぱりこいつがラスボスか…。

今までの夢じゃ結局一回もきゅうりに勝てなかったけど今度こそ倒してやる!


 …倒せるかな?倒せたらいいな…。


 ポスターを見せたマロはこの賞金首について詳しい説明をしてくれた。

僕はその話を黙って聞く事にした。その話を聞いて倒せるかどうかの判断をしよう。


 名前はダークきゅうり三世。

 大きさは全長8m

 各地で悪の限りを尽くした極悪人。

 元々は魔道士が行った実験の犠牲者らしい。


 全身に魔装コーティングされているため程度の低い魔法はすべて跳ね返す。

自身が動く魔導兵器と化しているため無尽蔵な魔力を秘めている。

その魔法攻撃は一撃で一軒の家を焼きつくす程。

今までに3つの街と7つの村を壊滅させている。

その行動原理は不明でその為に討伐隊も手を焼いている。

もし退治出来たならば王からの勲章と懸賞金、一生遊んで暮らせる生涯年金を与える。


「ものすごいな…流石莫大な賞金が出るだけの事はある。でも本当に勝算はあるのか?」


「バッチコイよ!」


 僕にはこのマロの自信が根拠の無いようなものに思えて仕方なかった。

奴の言葉には重さと言うか実績を伴った自信と言うものが全く感じられなかったからだ。

始まる前から前途多難だと僕は軽くため息を付いた。


「はぁ…」


「ま、大船に乗ったつもりでいてくれよ!」


 それ、泥船の間違いだろ…と言いたかったけど口には出さなかった。

もしかしたら何かの間違いで本当にマロに実力があるのかも知れないし…。


「まずは自分の実力を知らないと…」


 僕はこれみよがしに壁に掲げられている魔法の杖のひとつを手に取った。

魔法なんて使った事はない…今まで見た数多くの夢でも魔法使いになる夢は見た事がなかった。

だからこの初めて魔法を使うという状況に僕は少し興奮していた。

本当に魔法は使えるだろうか?使えたとして使いこなせるだろうか?

手にした魔法の杖はずっしりとした重量感があって魔法力?みたいな力が内部に満ちている、そんな気がした。

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