11.悪夢を見る猫(6)ゾンビ編2
「あは…ははは…そうかい、そう言う事かい…」
言っとくけど僕はおかしくなった訳じゃないよ。
そのゾンビがあまりにもお約束通りだったから思わず笑いがこみ上げて来たんだ。
流石夢の中だよ!上手く出来ているよ!傑作だよ!
まさか執拗に僕らを追いかけるゾンビがきゅうりだったなんて。
「大丈夫か?取り敢えずこっちに逃げよう!」
「うあ?…うん」
僕がゾンビの正体に呆気に取られているとその状態が危険だと犬は思ったんだろうね。
すぐに空いている道を見つけてそこに誘導してくれた。
こう言う時、冷静な判断が出来る存在と一緒って言うのは実に助かるね。
この世界の中の犬は今までの犬達よりは役に立つようだった。
よし、このままこの犬と行動を共にしよう!と、その時僕は思ったんだ。
そんな感じで色々考えているとその様子を心配した犬が僕に声をかけて来た。
「一体どうしたんだ?」
「あのゾンビ共…きゅうりだったからさ」
「そうなんだよ…おっかない話だよな」
犬はそう言って笑った。
やっぱり犬から見てもゾンビがきゅうりって言うのは変に映っているらしい。
そりゃ当然だよ。きゅうりって本当は野菜のはずだもの。
普通野菜がゾンビになるなんて事は考えもつかないよね。
そして僕はゾンビの特性についてその時ふと思い出したんだ。
「ゾンビってさ、確か噛まれると仲間にされるって言うけど…」
「ああ…あのきゅうり達はほとんど街の住人の成れの果てだよ」
「やっぱりそうなんだ…」
そうして話しながら走っているとやがて道の先が見えて来た。
その道の先には…待ち伏せしていたみたいに無数のきゅうりゾンビ共がうろついていた。
「ここは俺が道を作る!」
犬はそう言って走りながら銃を撃ち始めた。
それはまるでアクション映画のワンシーンのようですごくかっこ良かったんだ。
バン!
バンバン!
撃たれたゾンビたちは面白いように次々と吹っ飛んでいった。
そうして何とか通れるくらいの道を確保していった。
勿論相手はゾンビ、銃で撃たれた位じゃ死にはしない。
しばらくすると何事もなかったみたいにむくっと立ち上がってくる。
だから僕らは素早くゾンビの群れの中を駆け抜けないといけなかったんだ。
僕も一生懸命死にものぐるいで走ったけどそれは犬だって一緒だった。
そこで問題になってくるのは犬と猫の体格差だった。
どう頑張ったって死にものぐるいで走るとなると犬の方が早い…これは仕方のない話。
走れば走る程段々と犬との間に距離が生まれてくる。
僕も必死だったけど犬もまた必死だった。
埋めようのない距離はどんどんとその差を伸ばしていく…。
そんな僕がふと悪寒を感じて振り返ると恐ろしい事にゾンビはすぐそこまで来ていた。
何で…?何でこのきゅうりゾンビ共はこんなに動きが早いんだよ!
ゾンビに追いつかれそうになって僕は何とか犬に助けを求めたんだ。
きっとこの世界の犬なら助けてくれるってそう信じて!
「ちょ、待って…」
「悪い、今全然余裕が無い!自分で何とかしてくれっ!」
【悲報】この世界の犬もやっぱり性格が悪かった
…いや、きっとこんな状況だから、極限状態だから仕方ないんだよ!
逃げていった犬の事はこの際すっぱり忘れよう!奴とはここまでの縁だったんだ。
僕は気持ちを切り替えて改めて自分の力だけで奴らから逃げる方法を考えた。
まだ少しだけどゾンビとの間に距離はある。その間に何とか何か考えねば…。
その時必死だった僕の目に入ったのが道路沿いの街路樹だった。
見たところ街路樹はこの混乱の中で全くの無傷だった。
ピコーン!
そうか!この手があった!
僕はこの街路樹を見て名案を思いついたんだ。
僕は頑丈そうな街路樹を探してその木の上に登った。
そう、ゾンビは腐ってもゾンビ。奴らが木を登れるはずがないんだ。
僕は見晴らしのいい場所まで登って得意気に彼らを見下ろした。
案の定ゾンビは木を登れずにその場でウロウロしていたよ。
やったぜ!上手く行った!
と、ここで走って行った犬の方を見ると…もう犬は見えなくなっていた。
何て言う足の速さだよ…。思わず僕は感心してしまったね。
「しかしこれからどうしたらいいんだ…」
いくらこの木の上が安全だからってずっとここにいる訳にも行かない。
取り敢えずあの時の犬の説を信用してゾンビ達が疲れるのを待つか…僕がそうのんきに構えていた時だった。
ゾンビ共は何をトチ狂ったのか樹の幹をがぶりと噛み始めたんだ。
最初は何無駄な事をしているんだって思ったけど…でもそれは大きな間違いだったんだ。
ゾンビは噛む事で対象物を腐らせる。そうやって増えているからね。
そしてそれはこの街路樹だって例外じゃなかったんだ。
流石に木はゾンビにはならなかったけど…ゾンビに噛まれた幹はどんどん腐っていった。
奴らの行動の意味が分かった時、これはやばいって思ったけどそれは後の祭りだった。
バターン!
幹が腐った街路樹はやがてバランスを崩して倒れてしまった。
僕は木が倒れるタイミングを見計らって上手くジャンプしたんだけどすぐにゾンビ達に囲まれて…。
ああ…万事休す!
このタイミングを狙って無数のきゅうり達が僕に襲い掛かってくる!
こ、こんな所でゾンビになってしまうなんて嫌だーっ!