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11.悪夢を見る猫(5)ゾンビ編1

「うわああああああ~っ!」


 大声を張り上げれば自体が変わるなんて事は有り得ない。そう、それが現実の世界ならね。

でもここは現実の世界じゃなかった。それを思い出した。


 気が付くとまた僕は別の世界にいた。

もう犬もきゅうりもどちらもうんざりだよ。

ああ、今度こそそのどちらもない世界でありますように。


 って言うか今度はどこだここ?

街が恐ろしいほど静かなのは前の夢の舞台とそんなには違わないけど…。

前の場合は荒廃した未来って感じで虚無感はあってもその場所自体に恐怖は感じなかった。


 でも今度目覚めたこの場所は…何だか背筋がぞおっとする…。

それに空も暗いし…夜って事だよねこれ。

夜だってわりに街の明かりが…街灯も消えてるっぽいし。

もしかして今度は悪夢の世界に迷い込んだ?


 僕は自分の内側から湧き上がってくる恐怖と闘いながらこの街を探索した。

ここで何をしたらいいかまるで見当がつかなかった。

道にはさっきまで雨が降っていたのかところどころに水たまりがあって

その水はどこかくすんでいるように見えた。


 見上げた空は星も見えない。ただただ気持ち悪い暗さ。

もしかしたら今は夜じゃなくてものすごく厚い雲が空を覆っているだけなのかも知れない。

ずっと歩いても自分以外の存在にすれ違わない。


 これって…夢の中じゃ結構ある現象だよね。

逆にやたら賑やかな夢の方がまず見ない。

深層心理が夢に影響するって言うなら多分それは当たっているんだろうな。

だって僕は物心ついた時からずっと(サキちゃん一家を除いて)ひとりぼっちだったから。


 そうして歩いているとこの真っ暗な街の中で唯一明かりが点っている場所を見つけた。

特に何の目的もなかった僕はとりあえずそこに向かう事にした。

その場所で何が待っているのか何も知らずに…。


 カランカラン…。


 そこはどうやら酒場のようだった。

ようだったって仮定形なのは僕がそう言う場所に入った事がないから。

でも前にテレビで見た酒場って言うのが確かこんな感じだったから多分ここは酒場で間違いはないんだろう。

酒場内を見渡すとお客さんは誰もいなくて街の外と変わらない寂しさを感じた。

もしかしてまだ営業中じゃない?そう思った僕がこの酒場を出ようかなと思ったその時だった。


「お客さん…だと?」


 急にどこからか声がした。

その声は間違いなく僕に向けて放たれたものだった。

しかし何故だろう?その声はどこか懐かしい気がしたんだ。

僕は無意識に声をした方に振り向いた。


「やあ…いらっしゃい…」


 そこにいたのはまたしてもあの柴犬だった。あんたここで何やってんの?

柴犬は何かそれっぽい服を着ていかにもマスターって言葉が似合いそうな出で立ちをしていた。

それで僕の顔を見て開口一番こう言ったんだ。


「どうしたんだいあんた?今にも死にそうな顔をしているぞ?」


「そりゃどうも…」


 きっと最初の夢の頃から僕はずっと死にそうな顔のままなんだろう。

しかし何で自分の夢なのにこんなに扱いが酷いんだ…悪夢なのかなやっぱり。

僕は半ば呆れ気味に自嘲して情けない笑顔を犬に見せていた。

そうしたら犬の奴、全てを分かった風な顔をして急に語り出したんだ。


「分かるぜ…必死で逃げて来たんだろう?」


「は?逃げる?」


「とぼけなくていい…この街も襲われたんだ。俺も逃げ遅れて偶然生き残ったってやつさ」


「えっと…何言ってるか分かんないんだけど?」


 犬の話は全く要領を得ないものでさっぱり意味が分からなかった。

ただ何かとんでもない事が起こったらしいと言う事だけはその雰囲気で感じ取れた。

一体この街で何があったって言うんだろう?


「えっと…」


 そう僕が犬に話しかけようとしたその時だった。

奴は急に真剣な顔になって僕に持っていた拳銃の銃口を向けた。

え…何これどう言う事なの?


「伏せろ!」


 突然叫んだ犬に僕は反射的に伏せてしまった。

この突然豹変した状況に全く理解が追いつかなかった。


 ダァン!


 お客のいない店内に乾いた銃声が響く。

そうしてしばらくして背後で何かが倒れた音がした。


 バタァン!


 恐る恐る僕が振り返ろうとしたら犬が僕の腕を掴んで走り出した。

もう何が何やら分からなくなった僕はただこの状況の流れに任せるばかりだった。


「全速力で走るぞ!」


「な、何でさ!」


「生き延びる為だよ!」


 僕は無理やり走らされながら背後で倒れた何かをちらりと見た。

暗くてハッキリとは分からなかったけどそいつは確かに犬の銃弾に倒れたはずなのにゆっくりとまるで何事もなかったみたいに起き上がって来たんだ。


「見ただろう?」


「あいつ、死んでいない?何で?」


「元々死んでいるからだよ」


 元々死んでいる…つまり動く死体…ゾンビ…。そう、犬が撃ったのはゾンビだった。

この街は…ゾンビに襲われた街だったんだ!な、何だってー!


「何でゾンビなんかが…」


「俺だって殆ど何も分からない!けれど気がついたらこの街はそうなっていたんだ」


 犬の話によればこの街は今朝までは至って普通の街だったと。

それが今日の昼過ぎに突然異形の者が現れて続々とその仲間を増やしていった。

殺しても死なないゾンビに対処する方法なんてある訳もなく…。

そして街はあっと言う間にゾンビだらけになってしまったと言う事らしい。


「今が夜だからたった数時間でこんな事に?」


「夜?馬鹿言っちゃいけない、今はまだ昼の3時だ!」


「こんなに暗いのに?」


 何と!暗いから夜だろうと思っていたけど犬の話のよれば今はまだ昼の3時らしい。

犬の話の通りならば昼過ぎにゾンビが現れて1時間や2時間位で今の惨状と言う事に…。

このゾンビ、どこまで感染力が強いんだよ…。


「ゾンビを倒す方法は?」


「そんなのがあったらこの街はこうなっちゃいないさ」


「じゃあなんでさっきまでゾンビは出て来なかったんだろう?」


「多分疲れて休んでたんだろ?」


「そんなまさか…」


 犬の話にツッコミを入れてみたけど突然現れたゾンビの事なんて何も分からなくて当然だった。

だからもしかしたら本当にゾンビはさっきまで休んでいたのかも知れない。

だとしたらこれから続々とゾンビが蘇ってくる?

そんな事を考えるとまた余計に寒気がしたんだ。

で、もう訳の分からないゾンビの事は置いといて今度は犬の事を聞いてみる事にした。


「その銃はいつも持ち歩いてるの?」


「ただの護身用さ。この街じゃ常識…って言うか標準装備」


(あ、元々やばい街だったのか…)


 護身用に銃の携帯が普通の街ってどんだけ治安が悪いんだよ…。

ああ、早くこの街を抜けたくなって来た。

でもどこまで行けばこの悪夢から抜け出せるんだろう?

一緒に走っているこの犬ならば何か知っているんだろうか?


「で、これからどこに?」


「知らん!取り敢えず逃げているだけだ!」


「はぁーっ?」


 このバカ犬、何の当てもなく走ってたのかよ…。

そんな無計画に走っていたら…悪い予感がするぞ…。

こんな予感は当たって欲しくはないんだけど…。


「じゃあお前なら正しい場所に導けるって言うのかよ!」


「いや…そんなつもりじゃ…」


 ああ…さっきの反応で犬を怒らせてしまった。

僕の反応はまっとうだと思うけど…そうか、これが逆ギレってやつだな!

全く、こんな所でまごついていても何の意味もないって言うのに…。


 ぬーん!


 ぬーん!ぬーん!


「うわっ!前っ!」


 悪い予感は当たった。

無計画に走る僕らの目の前に突然無数のゾンビが現れた。

一体このゾンビ共はどこから湧いて来たって言うんだろう?

この時、僕はこのゾンビの姿を初めてじっくりと自分の目に焼き付けたんだ。

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