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10.きゅうりウォーズ(24)

「こっちだ!急いで!」


「ああっ、ごめん」


 知らない場所故にたまに動きが止まってしまうトールに対してロルウが声を上げます。

トールも急いではいるのですが知らない場所にいるものですから目に映る全てに興味を抱いてしまうのです。

それは猫故の抗いようのない悲しい習性でした。


 …ドドドォン!


 どうやらゲートを通じて月基地にミサイルが着弾したようです。

その衝撃で少し大きな地震のような振動が基地内を襲いました。

けれどピエールの進言がすぐに受け入れられたのかミサイルの破壊力の割にその衝撃は小さいものでした。


「防御フィールドが間に合ったみたいだ…良かった」


「いつまで持つかな」


「分からない…でも願わくば耐え切って欲しいな。それよりも急ごう!何か悪い予感がする!」


 ロルウは基地の構造を知り尽くしています。

戦闘が行われているであろう場所を避けながら宇宙船の格納庫を目指すルートを走っていきます。

その為にかなり複雑なルートを選んで進んでいきました。

どのくらい複雑かと言うと簡単に言えば直接行く場合の約3倍の時間がかかる程です。

その為についていくトールもかなり必死にならないと見失ってしまうほどなのですが、こう言うルートをロルウが選んだのは全て彼の為なのです。

トールを死ないせないためにロルウは自分に出来る最高の仕事をしていました。


 勿論そんな彼の気持ちをトールも十分承知しています。

なのでこの無茶過ぎる進み方をするロルウにトールは一言の不満も言わないのでした。


 ズドドドドドーン!


 ミサイルの多段攻撃が続きます。

大きく基地が揺れる度に2人の足は止まりました。

これが2人の脱出を大幅に遅らせる原因になりました。


「くそっ!どうか基地よ持ってくれっ!」


 ロルウは基地の天井を見ながら基地の無事を願います。

この時、2人にはもう祈るくらしか出来ない状況になっていました。

次々に襲い来る衝撃にトールは頭を抑えながらしゃがみこんでしまいます。

こう言う状況に耐性のないトールはガタガタ震えながらつぶやきます。


「このミサイルの攻撃が終わったら俺はこの基地を脱出するんだ…」


 ミサイルの激しい攻撃が終わらなさ過ぎてトールは思わすフラグを立ててしまいました。

ちょ、おま、それ絶対言ったらいけないヤツ!


「こんな状況だからふざけたくなる気持ちも分かるけど…」


「えっ、いや、本気なんだけど?」


 ロルウの冷静なツッコミにトールは素で返します。

どうやら極限状態でテンションがおかしくなっているようです。

でもこんな状況だったらそう言う状態になってしまうのも仕方のない事なのかも知れません。


 …ォォォン!


 そんなコントのようなやり取りをしている間にミサイル攻撃の衝撃が段々小さくなって来ました。

どうやら攻撃は続いているものの基地の別の箇所に攻撃の対象が移ったようです。

伝わって来る振動が弱くなったところで2人はまた行動を再開しました。


「よし、今の内だ!急ごう!」


「ちょ、待って!」


 チャンスを見つければ直ぐに行動に移すロルウに少し遅れて動き出すトール。

2人の精神も既にかなりの極限状態でした。


 くねくねと蛇のように基地内を走り回る2人。

ステルス機能のおかげで彼らがこの基地内にいる事は誰も把握出来ていません。

このままうまく行けば2人は何とか無傷でこの基地を脱出出来そうです。

2人の顔には少しばかり希望が見えて来たように見えました。


「この廊下をまっすぐ行って次の階段を降りたらまた逆走するけどそこさえ抜ければ格納庫まで後ちょっとだ!」


「わ、分かった!」


 そう話す2人の目の前には長い長い廊下…そして崩れた壁からは両軍の戦闘の跡が…。

どうやらこのエリアの戦闘自体は終わっていたらしくそこにはおびただしい量の死体だけが転がっていました。

その様子を見たトールは思わず声を漏らしてしまいます。


「ひ、酷い…」


「足を止めたら駄目だ!いつどう言う状況になるか予想もつかない!」


「わ、分かってる!」


 精神的ダメージを追って動けなくなりそうになっているトールを見てロルウは一喝します。

いくらステルスで姿を消していても流れ弾が飛んできたらその弾は2人を避けてくれません。

だからこそ出来るだけ戦闘が行われている場所を避けなければならないのだし、弾の標的になりそうな行動をしてもいけないのです。

つまりは、立ち止まってはいけないって事。

トールもその事は頭では分かっているのですが衝撃的な場面に出くわすとつい感情が身体を支配してしまうのでした。


「オエェェェ!」


「吐くのはいいけど絶対足は止めるな!」


「無茶言うなぁ…」


 本当の事を言えばロルウだってこんな本格的な戦闘に出くわすのは初めての体験です。

きゅうり軍自体ずっと実践なんてしていませんでしたし地上に降りてからも安全な諜報活動しかしていません。

けれど軍隊に入った時にさんざんシミュレーションで仮想体験を繰り返していたのでこう言う事態に対しての耐性はバッチリ出来ていました。

予行演習をしっかりしていたからそれが実際の災害時に役に立ったとかそう言う話と似ていますね。


「よし、後はもうまっすぐだ!走るぞ!」


「ちょ、あっ…」


 ビターン!


 ロルウの突然の号令にトールは思わず足がもつれて盛大に転んでしまいました。

肝心な時に大きなポカをやらかす…そんなトールを見てロルウは呆れてしまいました。


「全く、君ってやつは…」


「てへへ」


 トールの愛想笑いにロルウも釣られて笑います。

それは殺伐としたこの状況で思わぬほっこり空間が包んだ瞬間でした。

張り詰めていた緊張感がほぐれ、2人は心の余裕を取り戻す事が出来ました。


「おっと、こうしてはいられない。もう動けそう?」


「あはは、もう大丈夫」


「よし、行こう!」


 気を取り直して2人はまた走り始めます。

この道の先に希望がある!思わず2人の顔はほころびます。

しかし格納庫に近付くに連れて段々と銃撃戦の音が聞こえて来てその希望はゆっくりと絶望の色に染まっていきました。


「まさかこの先で…?」


「動ける船がひとつでも残っていれば速攻でのその船に乗り込もう!戦闘中だったとしてもくれぐれも攻撃に当たらないように!」


「う…出来る限り頑張る!」


「よし、上出来!」


 長い廊下を抜け宇宙船専用の格納庫に入った時2人の目の前に広がっていたのは凄惨な戦争の光景でした。

その光景を目の当たりにした時、その衝撃に2人は言葉を発する事が出来ませんでした。

いたるところに転がる両軍の死体…終わらない悪意のぶつかり合い…血の匂い…。

希望の種だった宇宙船は漏れなくこの戦闘の犠牲になっていて既にその多くが破壊されていました。


「そんな…」


「宇宙船はこれだけあるんだ、どれかひとつくらい…探そう!」


 ロルウは何とか動けそうな宇宙船を探します。

この格納庫にある宇宙船は数が揃っていれば全部で208機、もしかしたらその中に飛べる機体が一機くらいあるかも知れません。


「宇宙船格納庫はここしかないの?そうでないなら別の…」


「今から別の格納庫に行くには時間がかかり過ぎる…それにそこももう破壊されつくされているかも知れない」


 ロルウの説得で意見を擦り合わせた2人は懸命に使えそうな宇宙船を探します。

しかし見る機体見る機体全て何処かしら傷んでいて飛べそうなものは中々見つかりませんでした。

しかも両軍の攻撃を避けながらの移動なのでこれもまたスムーズに2人を通してくれません。

段々と2人の焦りはピークに達していきました。


 そんな中、目の前で戦闘をしていた猫兵士が倒れました。

攻撃を受けた彼は一撃で命を失ってしまいました。

彼を撃ったのは勿論きゅうり人兵士です。

トールはそのきゅうり人兵士もまじまじと見てしまいました。

その雰囲気はまるで次は自分の番だと言わんばかりでした。

トールはその身につけたステルス装置のお陰で誰にも認識されないと言うのにです。

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