表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/93

10.きゅうりウォーズ(22)

 決戦の日を前にこっそり地元から一番近い軍の施設に進入する2人。

普通なら軍の施設に進入するのは並大抵な事ではない筈なのですが、先史きゅうり文明の技術をモノにしたトールは自分で開発したステルス装置を使って姿を消して見事に基地に侵入したのです。


「センサーの開発が趣味で良かった。逆に利用する事で誰にも気付かれずに入る事が出来たよ」


「もう少し改良すればきゅうり人が猫を欺くためのあの洗脳装置も出来るんじゃないか?」


「うん、原理は大体理解したんだ。作るつもりはないけど」


 珍しいロルウの突っ込みにトールはクールに答えました。

いつの間にそんなに技術力を磨き上げていたのでしょう。

トール、恐ろしい子っ!

そんな頼もしい彼に対してロルウは一言返します。


「やるな!」


「無駄話はこれくらいにしよう。何とか作戦を止めないと!」


 軍施設に侵入した2人は迷う事なく一直線に司令室に向かいました。

そこで作戦プログラムを書き換える事で時間を稼ごうとしたのです。

事前にしっかり計画を立てていたのでその動きに一切の無駄はありません。


「あれ?」


 司令室の前でロルウは部屋のロックを外そうとしたのですが例のきゅうり軍御用達の開錠システムが上手く作動しません。

いえ、機械は正常に動いているのです。ただどうしてもロックが解除されないのです。

余りに手間取ってしまった為ロルウは思わずつぶやいてしまいました。


「おかしいな?今までこんな事は…」


「このロックシステム、既存のシステムじゃない!」


 苦心しているロルウを傍目にトールがその鍵の周辺を観察しているとこの鍵のシステムに見覚えのあるマークを発見しました。

それは2人にとっては見慣れた聖なる緑の後継者のシンボルマークです。

この事を知ったトールは思わす叫んでしまいました。

けれど流石ロルウは冷静です。

トールのように大袈裟に驚きもせず冷静に状況を分析しました。


「なるほど…このシステム、組織が一枚噛んでいたのか」


「これ、先史きゅうり文明の技術が応用されているとしたら厄介だぞ…」


「しかしいつの間にこんなものを…」


「まさか…俺達みたいなのが裏切る事まで想定して?」


 先史きゅうり文明の遺産を組み込んでいない既存のシステムでも普通の技術者ならハッキングなんて容易ではないはずです。

そこまで考えればこの仕様はやはりきゅうり文明の使いこなす敵を想定していると考えるのが妥当でしょう。

しかしこんな土壇場になって2人であれこれ話していても埒が明きません。

残り時間が刻々と短くなっていく中、焦ったトールはロルウに結論だけを聞きました。


「結局ドアは開けられそう?」


「ハッキングに時間がかかり過ぎる…朝までに開けられるかどうかも」


「そんな…!」


 まさか2人共こんなところで足止めを食らうとは思っていませんでした。

多分ケビン博士が自分達の行動まで読んでここまでの事をして来たのでしょう。

しかし一度動き出した計画はひとつ失敗した程度で簡単に終わらせる訳には行きません。


「とにかくやってみる!こんなところで諦める訳には」


「ごめん、何か出来る事があったら言ってくれ」


「出来る事か…じゃあ成功を祈ってくれるかな」


「お安い御用!」


 しかしロルウの健闘もむなしくこの最新のロックシステムに進入する事は敵いませんでした。

やがて空が段々白白と明るくなっていきます。

気がつけば2人は徹夜してしまっていました。

けれど極度に集中していた為お互いちっとも眠くはありません。

若さって、すごいね。


 それはそうとこのままでは何も出来ないまま戦争が始まってしまいます。

そんな事になれば自分のして来た事が全くの無意味と言う事にもなります。

一向に開かない鍵を前にしてトールは決断します。


「やばい、ここは諦めよう!」


「次はどうする?」


「格納庫へ急ごう!こうなったら物理的に止めるしかない!」


 そもそもこの計画はみんなトールが考えたものです。

だから何かトラブルがあって計画変更となった場合、トールが判断してロルウがそれに従う形を取っていました。


 2人はゲートが設置されている格納庫へと急ぎます。

幸いまだ時間が早かったので格納庫には人ひとりいませんでした。

しかしここに多くの軍人が集まって来るのは時間の問題です。

格納庫に着いたロルウはトールに質問しました。


「それで?入り口でも封鎖する?」


「いや、多分そんなのは無理…だからここで体を張って止めるんだよ!」


「そっちの方が無茶だって!」


「でもそれしか…」


 2人が言い合っている内に格納庫内に軍人が次々に集まって来ました。

トールが作ったステルス装置が作動しているので誰にも2人の姿は認識されていません。

しかし気付かれないままだと彼らを止める事も出来ません。

この戦いを止める為、軍と話し合いをする為にトールは潔くスイッチを切りました。

それは仕方ないとは言え無謀とも言える行動でした。

ここは軍の施設内、異分子は見つかってしまえば最悪消されるかそうでなくとも追い出されるのが落ちだからです。


「皆さん、聞いてください!この戦いはする必要のないものです!」


 急に姿を表した若い猫の存在に格納庫内はざわつき始めました。

トールはそんな状況の中、周りを気にせずに話を続けます。


「あなた達は二度と帰れない旅に出ようとしているんです!このゲートを使ってはダメです!」


「君は誰だ!」


 ざわつく格納庫内で軍人の中の位の高そうな人がトールに声をかけました。

トールは少しも臆する事なく自分の事を簡潔に正直に述べました。

ここで嘘をつく事は得策ではないと判断しての事ですが正直信用してくれるかどうかは二の次です。

トールははただ自分の想いを正直に実直に格納庫内の軍人達に伝えたかったのです。

彼の力強い言葉は果たして彼らに届くでしょうか?


「俺はこのゲートの開発者のひとりです。ゲートの開発において重大な事を聞かされました」


「ゲートの開発にこんな若造が関わっているだと?つくならもっとまともな嘘をつくんだな!」


 案の定、トールは全く信用されていませんでした。

信用されない相手の話を聞く軍人などいるはずがありません。

トールは早速排除対象になり捕獲部隊が動き出します。


「これで分かってもらえるかと思います!」


 トールに部隊の精鋭が迫ったところで彼はステルス装置のスイッチをもう一度入れます。

そうする事で周りから彼は見えなくなりまた格納庫内はざわつき始めました。


「消えた?」


「うろたえるな!近くにいるはずだ!」


「奴は軍の動きを止めようとしていた!これは重大な反逆罪だ!」


「彼は確かに何かしらの情報を持って動いているようだ、だが…気にする程の事はない」


「隊長!それはどう言う…」


 ざわつく格納庫内で軍人達が様々な意見を述べています。

けれど流石軍です。2人への対処についてはやはり厳しい意見しか出ませんでした。

その中で隊長と呼ばれる人物が部下達に対し決定的な一言を述べます。


「彼は言葉で我々を止めようとしていた…つまり止める手段がそれしかないと言う事だ」


「なるほど…無視すればいいと」


「敵の陽動作戦かも知れない…あんなのにいちいち構ってる暇はない!作戦を実行するぞ!」


「はっ!」


 結局トールの心からの真剣な訴えは全く聞き入れてもらえませんでした。

このままでは猫軍ときゅうり軍との正面衝突は避けられません。

話し合えば分かり合えるのかも知れないのに交渉すらせずにいきなり武力衝突だなんて…しかもゲートは一方通行…。


「俺は止めるよ!」


「トール、お前っ!」


 トールはそう言ったが早いかゲートの前に立ち塞がりました。

最早2人にはゲートの前で体を張って物理的に止めるしか方法がありません。

トールの言葉から彼の本気度を悟ったロルウもまた彼のこの無茶な作戦に同意しました。


「しゃあないなぁ…」


 そんな訳でロルウもトールに付き合います。

見えないままだと体を張っても効果はないのでステルスは切りました。

そうしてもう一度大勢の軍隊の前でトールは力強く訴えます。


「どうか考え直してください。別の道だってあるはずです!」


「おい…2人に増えたぞ…」


「君達は本気で我らを止めようとしているんだな…何の武器も持たずに体ひとつで…」


「俺はあなた方を止めます。此処から先へは行かせません」


 多数の軍人達の前でトールは決して怯む事なく彼らを止めようと必死に訴えます。

ゲートの前で体を張って止める彼の瞳を見て隊長はその決意の強さを読み取りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ