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10.きゅうりウォーズ(20)

 博士にトールの裏の意図を読む気がなかったのかそれとも分かっていて受け入れたのかは現時点では分かりません。


 しかしこれによってトールは外にいては決して分からない現在進行形の情報を手に入れられるようになりました。

勿論知った情報は漏らしてはいけない決まりですが、特に監視体制のようなものはないようです。

トールは情報を仕入れながらいつか来るその日の為に日々情報を整理していきました。


 トールが組織に入ってまず驚いたのはその構成人員です。

長がきゅうり人なのできゅうり人が多いと思っていましたが構成的には猫の方が多いのです。

勿論猫だと思っているだけで本当はきゅうり人なのかも知れないのですが…。

組織の資料が正確なものだと仮定すればその構成は猫7に対してきゅうり人が3と言う感じです。

これだけ多くの猫が参加しているのはまさにケビン博士の人望と言ったところなのでしょうか。

組織内の猫もきゅうり人も皆お互いの共存を望み、2種族の平和を願う人ばかりです。

外の世界では敵がきゅうり人だと言う事も知りませんし、その敵をいい風に思う人はまずいません。

この事を知ったトールは組織内の人が全員仲間のように思えて来ました。


 ロルウは分かっている数少ない情報を頼りにケビン博士の裏を探ります。

追求する中で幸いにも協力してくれる何人かの諜報員の仲間との接触にも成功しました。

その中で斥候として博士と同時期に地上に降りた同胞の情報を得る事も出来ました。

少しずつ情報が集まってくる中でロルウはケビン博士の実像に迫る事になります。


 調べる事で徐々に見えて来たケビン博士の実像はまさにとんでもないものでした。

集めた情報から想定する限りやはり博士は普通のきゅうり人ではなかったのです。


「あの人は特別だよ…軍とも政府とも違う流れで動いている」


 そう話すのはロルウの先輩に当たる元諜報員の証言です。

彼こそ博士と同じ時期に地上に降りた数少ない証言者のひとりです。

ロルウは何とか苦労してこの人物との接触に成功していました。


「それはどう言う…」


「それより深い人物って事、あの人について調べるって事はある意味タブーに触れる…」


「まさか…」


「そう言う動きが出来るって事で察しがつくだろう?つまりはそう言う事だよ」


 この話からケビン博士が相当な権力を持った人物とだと言う事が伺えます。

きゅうり人に王族がいたなんてロルウは聞いた事すらありませんでしたが話を聞くとそれが存在していたとしか思えません。

しかも並の王族とは全く次元の違う存在…まるできゅうり人の始祖とも呼べるような存在のような…。

ロルウは彼から聞かされる情報をまるでお伽話を聞くような感覚で聞いていました。


「何故そんな存在が30年前にこの星に…」


「あの人なりの考えがあったんだろう…今のあの人の立ち位置から想像して既に猫社会とも深い関係が築かれているはず…」


 ここまで聞いて改めて博士の存在の大きさにロルウは唖然としてしまいました。

確かにこの星の猫社会との深いパイプがなければ今の博士の特権は説明出来ません。

この話を聞いたロルウは思わず言葉を漏らしてしまいます。


「今更博士の計画は止めようがない…か」


「余りあの人に逆らわない方がいい…大抵の事は見て見ぬふりをしてくれるが本気で邪魔になると判断されたら…」


「そんな前例が?」


 突然展開された怖い話にロルウは思わず聞き返してしまいます。

すると証言者の彼は少しとぼけたようにこう返しました。


「あの人が直接手を下した証拠はないけどな」


「聖なる緑の後継者…」


「そう、全国にネットワークを構築している…怖いぞ」


 証言者である元諜報員の彼はそう言って笑いました。

その冷たい笑顔にロルウはゾッとしました。


「くれぐれも行動は慎重にな」


 彼は最後にそう言ってロルウの前から姿を消しました。

その去り際は見事なもので意識していないと姿を消したのに瞬く気が付かない程です。

そんな熟練のプロでさえ恐れるのがこの問題なのです。

この話を聞いたロルウは目の前にそびえる壁の高さに呆然とするしかありませんでした。


 一方で博士の懐に飛び込んだトールには日々最新の情報が流れて来ます。

それは新参のまだ少年の猫にここまで情報公開して良いのかとトール自身が戸惑う程でした。

そこまで情報を公開する以上やはり博士には何かしらの意図があるのでしょう。


 組織を通じて現在トールに明かされさている事と言えば…まずは現在開発中のゲートは一方通行である事。

これはつまり月に出撃した兵士はもう二度と地上には戻れないと言う事を意味します。

恐らくこの情報は絶対表には出ない情報でしょう。

知られてしまえば物議を醸すと言う以前に志願する兵士など現れないに違いありません。

この事からみても兵力そのものを嫌悪する博士らしい仕様と言えます。


 後、知らされている事と言えば…。


 攻撃に出向く猫兵士達は全員ロストテクノロジーの兵器を装備する事。

今の地上に現存する全てのミサイルもまたゲート経由で月基地に撃ち込まれる事。

計画のタイムスケジュールは完璧で2年後には実行可能のレベルに持っていける事。


 博士の理想に現実がどんどん追いつく感じはトールにとって不気味にすら思える程でした。


 聖なる緑の後継者内でトールは自慢のセンサーの技術を買われ、ゲートの開発に関わっていました。

自軍の兵士の根絶の手伝いをしていると言う自責の念はありましたが、その開発自体は面白く熱中している間は全ての事を忘れる事が出来ました。

トールは根が真面目なのでいくら博士の計画に疑念があるとは言え仕事の手を抜くと言う事はありません。

むしろ仕事自体は自分の能力を活かせると言う事で凝りに凝って周りから余り根を詰めるなと気遣われる程でした。


 そうしてあれよあれよと時間は過ぎていきます。

博士の事を調べ尽くしたロルウもやがてトールと合流し2人で組織の仕事に従事する事になりました。

軍の諜報員が敵対する組織に肩入れするのはあまりよろしくないものですが流石軍より上の組織だけあります。

ロルウが組織と関わるようになってしばらくして彼は軍からその職を離れる指令を受け…ついには軍とは無関係になってしまいました。

かつての彼の上司も特に失態もないのに上からの命令でそうなったとその経緯を不思議がっていました。


 そんな訳で軍の縛りのなくなったロルウは組織の仕事に精を出すしかなくなりました。

しかし組織の仕事は中々に面白くいつの間にかその仕事に精を出す事に夢中になっていました。

ゲートの試作機が完成した時などは2人で喜び合ったものです。


「徹夜続きだったけどようやく完成にこぎつけたよ」


「もうロストテクノロジーの技術もしっかり自分のものに出来たな…すごいよ」


ロルウはそう言ってゲートの完成に心血を注いで来たトールを労いました。

身近で見ていた分、その苦労を自分の事のように感じていました。

完成した試作機を眺めながらトールはポツリとつぶやきます。


「もう残り時間もかなり少なくなってしまったけど」


「これからどうするか…最後の日までは決めないとな…」


 まだ真新しいゲートを見ながら2人は思いを新たにするのでした。

この頃、既に博士の計画が実行されるまで残り1年を切っていました。


 ゲートはその後試験運転を繰り返し、その精度を高めて行きました。

試験で目標数値をクリアしたら次は量産体制への移行です。

計算では全兵力を月に送り出す為にはゲートの数は2000機程必要でした。

巨大なゲートを作ればその分数も減らせますが、逆に大きくなる程作るのも難しくなります。

大きさと必要数と精度とコストのバランスを考えると今の状態が最適なのでした。


「ゲートの仕様が決まって量産体制に入れば後は工場の仕事、僕達の出番はなくなるな…」


「ロルウの方は?今何やってるんだっけ?」


「僕はほら、遺跡解析のグループだから…今は先史文明の滅んだ理由とかの編纂かな」


 組織内でロルウはどんな仕事を任されているかと思ったらなるほど、遺跡の調査で培った能力を活かした仕事をしているようです。

元諜報員だからって組織に敵対する存在の調査とか反乱分子の始末とかそんなやばい方面の仕事ではないのですね。

トールはロルウが健全な仕事を任されているのを知ってほっと胸を撫で下ろしました。

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